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「11歳の長男は先延ばしがひどく、癇癪をおこします。反抗期でしょうか?」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q16. 11歳の長男は先延ばしがひどく、癇癪をおこします。反抗期でしょうか?

■家族構成
相談者:きっち(相談したい子の母、40代前半)、夫(40代前半)、長男(相談したい子。11歳)、次男(弟)、祖母

■ご相談
 最近、先延ばしがひどいです。宿題などやらなくてはいけない事があっても「あとで」とか「□時になったらやる」と先延ばしをします。それでやるのならいいのですが、その時間になったので声がけすると「やっぱり△時から」と更に先延ばしをします。最後には夜遅い時間になってしまい眠たすぎて「宿題できてない! 時間ないから今からムリ! お母さんやって!」と癇癪(かんしゃく)をおこします。

 だからといって、こまめに声掛けをしたり、ゲームやテレビを取り上げてもパニックになります。放っておくと「母ちゃんが言うてくれへんかったからや! 何とかしろ!」とまたパニックになります。

 9歳の時に発達検査は受けていますが、診断名はついていません。ですが、「先を見通す力は弱い傾向にある」と言われました。宿題だけでなく、自分のやりたい事ですら先延ばしをして「時間なくなった! 時間戻して!」と癇癪を起こします。年齢的に反抗期とかなのでしょうか?

A. 専門家の回答

中学入学前に自分のことは自分でやらせる習慣を。

 「時間戻して!」「お母さんやって!」と言われても、こちらはそうならないように声がけしているのですから「そんなこと言われても……」「だから言ったじゃないの」という感じですよね。きっちさんのぼやき声が聞こえてくるようです。

 このような癇癪は、息子さんがきっちさんに依存しているというシグナル。11歳という年齢を考えると、中学入学前に、「自分のことは自分で責任を持ってやる」ことを是非身につけさせたいところです。

子どもが困らないように手助けしたい親
 自分の子どもはかわいいですし、学校で先生に怒られたり、困ったりしないように、なるべく親が助けてあげたい、そのような気持ちは多くの親御さんが持っているものだと思います。

 ただ、いつまでもそうやって親が子どもを助けられるわけでもなく、いずれは親元を離れていくことを思うと、その時に困らないよう、自分のことは自分でできるように自立させないといけません。

 お母さんのせいだから、お母さんやって、というのも小学校3年生くらいまでならわかりますが、高学年になっても言うというのは、これまで最終的にきっちさんがかなり手伝ってなんとかしてきたからではないでしょうか。

親の仕事は子どもを自立させること
 少し耳が痛い話かもしれませんが、息子さんの癇癪にきっちさんが負けてしまっていたのではないかと思います。宿題ができていないと子どもが怒られてしまう、先生に怒られて困っている子どもはかわいそうだ、そんな気持ちで手伝われていたのかもしれません。

 でも、息子さんの人生でずっときっちさんがそばにいて助けてあげることなどできないのです。どうか息子さんが自分の責任で宿題ができずに、困って怒られる機会を奪わないようにしてください。自分のことは自分でやる習慣がつけられずに、50歳になってもお母さんのせいだ、と家から出られないなんてことのないように。

 息子さんの場合「宿題はやらないといけない」と理解していることは救いです。その前向きな気持ちをぜひ後押ししてあげましょう。

ADHDの特性はあると考えたほうがよい
 さて、ではどうすればいいのか。息子さんは9歳の時に診断はつかなかったものの「先を見通す力は弱い傾向にある」と言われたとのこと。作業や宿題をすぐに始められない、興奮しやすい、一つの作業から他の作業へ切り替えられない、嫌なことを避ける、といった息子さんの行動から、ASDやADHDの診断はつかないまでも、その特性はあるように思います。

 少し息子さんに関係のありそうなADHDの特性についてお話すると、一つには、「感情が爆発しやすい傾向」というのがあります。それによって、先生との関係がうまくいかなくなったり、不登校になる場合もあります。

 息子さんの場合は、お家で、遠慮しなくても受け止めてくれるきっちさんに感情を爆発させてしまうのかもしれません。自分の感情を出すところを、学校ではなく、甘えられるきっちさんだ、とわかっているというのは「うちの子、なかなかかしこいな」と考えていいと思います。

言葉のかけ方に要注意
 もう一つ、ADHDの特性としては、何かへの過集中、のめり込みがあります。お子さんではインターネットやゲーム、大人ではそれに加えてアルコールや薬物、ギャンブル、買い物などへの依存が問題となるケースが見られます。

 息子さんの場合、ゲームとかテレビにのめり込むあまり宿題の時間がなくなっているのでしょう。子どものADHDでは、親の対応によってその子の行動が変化することが知られているので、言葉のかけ方に注意が必要です。

 単に「いつまでもゲームばかりやって」という否定的な声かけはできるだけ避けましょう。「何時だったら宿題を始められそう?」とポジティブに聞きましょう。

キレられても冷静に対応
 息子さんの場合、「□時になったらやめる」と、やめる時間は本人が決めているわけです。「わかった。□時ね。時間を守れないなら、ゲームを取り上げるからね。その代わり宿題が終わったらまたゲームを必ず返すから」ときちんと説明してください。それが民主的なやり方です。紙に書かせて見えるところに貼っておいてもいいでしょう。そして時間になってもゲームをやめられないようなら、有無を言わさずゲームを取り上げてください。

 癇癪を起こしてキレるかもしれません。でもきっちさんは、あらかじめ説明した通りのことをしたまでです。「あなたがこの時間になったらやめて宿題するって言ったんだよね。お母さんじゃないよね」と冷静に話してください。キレてる言葉に一つ一つ反応していると、余計に息子さんは興奮して火に油を注いでしまいます。仏像のように無心・無表情になって冷静に対処してください。

タイムアウト法で落ち着かせる
 このような状態になったら、いったん息子さんをクールダウンさせる必要があります。「さあ、ちょっと落ち着いて自分で気持ちを切り替えようか」といったん誰もいない別室に移動させます。もちろんゲームは、まだ宿題が終わってないので渡しません。10分後、部屋に行き「落ち着いたかな」と声がけをします。

 このように子どもの問題行動をやめさせるために、一時的に別の部屋に行かせたり、環境を変えて落ち着かせる方法を「タイムアウト法」といいます。バレーボールなどの試合中、流れを変えるためにとる「タイムアウト」が語源です。

 この場合の別室は、昔の「おしいれ」のように暗くて恐ろしい場所であってはいけません。罰ではなく気持ちを落ち着かせるための部屋なので、刺激のあるものがないところが理想です。嫌がらなければトイレでもいいかもしれませんね。場所がない場合は「クールダウン用のイス」を用意しておき、それを差し出してもいいです。

 子どもが別室に行きたがらない場合は、親がその場を離れます。とにかく、「あなたの問題なのだから、自分で気持ちを切り替えてどうすればいいのか考えて」ときっぱりとした姿勢を貫いてください。

 息子さんの剣幕に押されてゲームを返すのは絶対にやめてください。キレると思い通りになるという「誤学習」をさせてはいけません。

できたら大げさにほめる
 そして宿題を始めたら、手伝うのではなく見守ってください。手も口も出さずに見守るだけ、というのは苦痛だと思いますが、終わるまでは目を離さないほうがいいでしょう。「監視する」という意味だけでなく「応援しているよ」という姿勢が大事です。間違っていても口を出さない。そして終わったら、「よくできたね。あなたががんばったからできたんだよ」と大げさなくらいしつこく言ってください。自分でできたらほめる、これが非常に大切です。家族と共有してもいいですね。例えばお父さんに「今日は自分でゲームをやめて、宿題を始めたんだよ、すごいでしょ。お母さんうれしかったな」など、わざと息子さんに聞こえるようにほめます

思春期の親の接し方でその後の人生が決まる
 11歳といえば、思春期の入り口。自立したいけどまだ親にも甘えたい。そんな気持ちが、「母ちゃんが言うてくれへんかったからや。何とかしろ!」という言葉になってしまうのでしょう。

 きっちさん、この時期がとても大事です。発達特性はありながらもそれなりに周囲とうまくやっていける子になるか、はたまた、不登校やひきこもり、暴力といった行動が現れてくるのか、親の接し方次第と言ってもいいかもしれません。

 息子さんも宿題はやらないといけないとわかっているのです。それができない自分にもどかしさを感じて、きっちさんにあたっているのです。大変だとは思いますが、「それはお母さんのやることではなく、あなたがやるべきことでしょ」と淡々と突き放して言うことが、長い目で見れば、息子さんの自立への第一歩となるのです。

 

その他の癇癪に関するお悩み

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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