KADOKAWA Group

Children & Education

子育て・教育

「9歳の息子の登校しぶりで親子関係がわるくなりました。親としてしてあげられることは?」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

 

Q15. 9歳の息子の登校しぶりで、親子関係がわるくなりました。親としてしてあげられることは?

■家族構成
相談者:ぽんちゃん(相談したい子の母、40代後半)、夫(40代後半)、長男、次男(相談したい子、9歳)

■ご相談
 保育園の頃から行きしぶりが激しかったのですが、定型発達だと思っていました。小学2年生頃から登校しぶりが始まり、発達障害が判明。通級*に通い始めるも、合わずに無理矢理通わせる事になり、結局親子関係も悪くなりやめました。

 現在は市の不登校生徒の居場所を利用しつつ、在籍校にも少し通っています。(私が送迎する事が多い)

 思い通りにならないと、(ゲームの時間切れになった時や、その事を指摘された時)とにかく物に当たり散らす事があり、今まで沢山のものを壊されてきています。テレビ、ふすま、固定電話、携帯電話などなど。

感情のコントロールが出来る様にサポートするには、母親として何をしてあげられるでしょうか?

 また、今後の進路は、固定級の支援クラス*が良いのでは? と親は思っていますが、本人は親が勝手に決めた事には絶対に従わないっ! というタイプで、支援クラスの見学も行ってくれません。

*「通級」=「通級指導教室」のこと。通常学級に在籍する児童が、障害特性に応じた特別な指導を受けるために週何時間か通う教室。在籍校にない場合は、近隣の通級指導教室のある学校に週何度か通う。
*「固定級の支援クラス」=通常の小・中学校内に設置されている、障害のある児童・生徒のための特別支援学級。

A. 専門家の回答

当たり散らしは息子さんからのシグナルです。
まずは親子関係を修復しましょう。

「助けて!」のシグナルを受け止めよう
 息子さんが小学校2年生の時に発達障害と診断されたとのこと。文章からは、どのような発達障害なのかまではわかりません。が、気分の急激な変化や破壊的な行動といったところから、ADHDの多動・衝動性の特性が強いのかなと思います。

 ぽんちゃんさんは「定型発達」だと思ってた、ということで、もしかするとまだ息子さんの発達障害について、理解が追いついていないのかもしれません。学校に通う、親の言うことを聞く、そんなあたりまえのことがどうしてできないのか、どうしてモノを壊すのか、もどかしく感じてお困りの様子がうかがえます。

 発達障害は、見た目だけではわかりづらい障害です。ぽんちゃんさんのとまどいもよくわかりますが、息子さんは自分一人で、もっと困難を抱えてもがき苦しんでいます。ご相談の文章からは息子さんの「助けて!」という叫び声が聞こえてくるようです。

子どもの嫌がることは無理にさせない
 9歳といえば、まだ「お母さん大好き」と言っていてもおかしくない年齢です。それが、テレビや電話を壊すほどに爆発するというのは、よほど我慢して溜め込んでいることがあるのでしょう。物を壊したくて壊す子どもはいません。

 そして親の決めたことには従わない「タイプ」とおっしゃっていますが、それは「タイプ」というよりこれまでの親子関係の結果なのではないでしょうか。(厳しい言い方をしてすみません。)息子さんに話をするときに少しイライラしていたり、最初からあきらめモードだったり、「なんでできないのっ」とぽんちゃんさんの疑問をそのままぶつけたりしていませんか? また、息子さんがいやがることを無理矢理やらせるのは、親への信頼を失わせることにつながります。

否定せず全てを受け入れる
 それでも、ぽんちゃんさんが「母親として何がしてあげられるでしょうか?」とご相談くださったことに大きな希望を感じます。「子どものために何かできることがあれば、なんでもする」。ほとんどの親はそう思っているでしょう。子どものために、発達相談にいき、息子さんに合う教育機関を探し、通わせているのだと思います。

 しかし、そもそもどうして息子さんは学校に行きたくないのでしょうか。ぽんちゃんさんに話してくれたことはありますか。担任の先生に、息子さんの学校での様子について聞いてみましたか。息子さんが感情のコントロールができるようにサポートしたい、とおっしゃるのなら、まずは、息子さんが何に困っているのかを知るためのアプローチをしましょう。そして、その姿をあるがままに受け入れてください。暴れようが悪態をつこうが。

味方であり続けること
 息子さんは、承認欲求、つまり、認めてほしいという思いが強いように感じます。息子さんの言うこと、やることを否定せず、話をじっくり聞いてあげてください。学校に行きたくないのなら、「がまんして行かなくていいよ」と言ってあげてはどうでしょう。ぽんちゃんさんは、息子さんが学校に行かなくても、「お母さんはいつもあなたの味方だよ、あなたを傷つけるようなことは絶対にしないよ」とサポートの姿勢を貫いてください。

 もちろん、義務教育ですから、親は子どもを学校に通わせる義務があります。しかし、息子さんの現在の状況は、それ以前の問題です。

 息子さんの心は疲れ切っています。まずは息子さんが自らやりたいと思うこと、好きなことをさせてみてはどうでしょう。

息子さんの好きなことをしてみる
 息子さんがゲーム好きなら、ぽんちゃんさんも一緒にやってみるのも手です。忙しいのにゲームだなんて、と思われるでしょうが、これも息子さんのためです。恐竜好きなら一緒に恐竜の名前を覚えてみましょう。自分が面白いと思ってやっていることを、お母さんが認めてくれた、ということはお子さんにとってうれしいものです。もしかすると親子関係修復の突破口になるかもしれません。

 息子さんはこれまで自分のことを学校でも家でも認めてもらえず、辛い思いをしてきたのだろうと思います。学校でも自分を理解されずに否定されることが多く、家でも好きなことをさせてもらえず、誰にも認めてもらえず、物に当たるしかなかったのではないでしょうか。

 まずは息子さんが自分で決めたことを実行するのを最優先して、ぽんちゃんさんはそれを見守ってあげましょう。どうしてもやらないといけないことがある場合は、いきなりやめさせるのではなく、例えば「おやつを用意しておくからね」と熱中していることをやめても楽しいことを用意しておく。そうやって、切り替えの苦手な息子さんがスムーズに次のことができるように工夫してみてください。

まずは親子関係の修復が大事
 そして、できないことばかりではなく、息子さんの良いところを見つけて、ほめてあげてください。例えば朝起きるのが遅くなっても、起きただけでえらいね、と見方を少し変えましょう。

 息子さんは今の状況を「嫌だ」という意思表示をしっかりしています。強い気持ちと行動力がある子だと思います。それを認めて、受けとめてあげてください。

 大変だとは思いますが、ぽんちゃんさんが息子さんの1番の理解者でありサポーターであることをわかってもらう必要があります。思春期突入前のこの時期だからこそ、親子関係の修復が何より大事です。学校選びはその次のステップでいいと思います。

環境がよくなれば、障害とならない
 発達障害は、周囲がその特性を理解して、その子に応じた対応をとることで、障害とならずに「特性」を持った子として、学校でもそれなりにうまくやっていけるのです。逆に、その「特性」を周囲が理解せず「他の子ができることがなんでできないの!」という態度で接することで、「特性」つまり「個性」の枠にはおさまりきれずに「障害」となって学校や社会でトラブルを引き起こしてしまうこともあります。

 ぽんちゃんさん、息子さんの発達障害を理解し、困難を抱えて悲鳴をあげている息子さんに、どうか寄り添ってあげてください。

自治体の支援事業も活用を
 お子さんとの関わり方については、発達障害の有無にかかわらず参加できる「ペアレントプログラム」や、発達障害の特性を踏まえた対応を学べる「ペアレントトレーニング」といった支援事業を行なっている自治体もあります。発達支援センターなどで聞いてみるのもいいでしょう。

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちらから

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


この記事をシェアする

特集

ページトップへ戻る