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子育て・教育

「かんしゃくがひどく、かわいいと思えません。こんな私に育てられる息子がかわいそう。」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

 

Q6. かんしゃくがひどく、かわいいと思えません。こんな私に育てられる息子がかわいそう。

■家族構成
相談者:ダメママ(相談したい子の母、20代後半)、夫(20代後半)、長男(相談したい子、3歳)

■ご相談
 息子のかんしゃくがひどくて、つらいです。一度決めたことができなくなると、家でも外でもすごいかんしゃくなんです。先日も、いつもの公園までの散歩道が工事中で通れないとなると、大声で泣き叫び、工事の人たちが「なにごとか!?」と手を休めたほどです。いったんこれが始まると、過呼吸になるんじゃないかと思うほど、すごい勢いで怒り泣きします。なだめてもお菓子でつっても30分はその場から離れません。この時は、結局、無理やり息子を抱いて、家まで引き返したのですが、電車の中だったりすると、周囲の目もあり、本当にこっちが泣きたくなります。

 生まれた時から、音が少しでもするとすぐ泣くし、育てにくさは感じていましたが、赤ちゃんは手がかかるもの、と思って育ててきました。「子育てって大変よ〜」とは聞いていましたが、本当に大変です。毎日毎日息子中心に生活がまわっていき、自分の時間はありません。

 先日、発達障害グレーゾーンとの診断を受け、育てにくさの原因がわかりました。でも、診断を受けたからといって、育てにくさがましになるわけではありません。

 夫は認めたくないようで、仕事の合間に別の病院を探したりしているようです。義母からは、「あなたの育て方が悪いせいよ」などと心ないことを言われて、もう、私自身、とても疲れてしまいました。

 そんな状態なので、恥をしのんで打ち明けますが、息子が家でかんしゃくを起こすとつい手が出てしまうこともあります。そのあと激しく自己嫌悪におちいり涙が出てしまいます。息子が生まれた時は、本当にうれしくて、かわいくて幸せだったのに。こんな私に育てられる息子がかわいそうでなりません。
 

A. 専門家の回答

一人で抱え込まず相談機関を利用しましょう。
 ダメママさん(いえ、全然「ダメ」じゃないですよ!)、本当に毎日よくがんばっておられますね。確かに発達に特性のあるお子さんの場合、こだわり行動や偏食、感覚過敏などつき合うのが大変なこともあります。周囲の目もある中で、お姑さんからは認めてもらうどころか逆に追い詰められるようなことを言われ、頼りのご主人も、今は頼れない状況の中で、よく一人で子育てしてらっしゃると思います。つらいですよね。

「いつもと同じがいい」という特性
 発達が通常と少しちがって特性のあるお子さんの場合、いつもと同じルーティンができなくなると、パニックになってかんしゃくを起こしてしまうことがあります。いつも飲んでいるジュースとメーカーが違う、いつも見ている時間にテレビ番組が始まらない、決まった並べ方をしているおもちゃがひとつ足りないなど、「いつもと違う」ことが苦手なのです。逆にいえば、「いつもと同じこと」をすることによって、この世界となんとか自分なりに折り合いをつけて過ごしていられるのです。

 息子さんの場合も、いつもの道を通っていつもの公園に行くというルーティンが工事のため通れないということで、不安に思いかんしゃくを起こしてしまったのでしょう。特にまだ言葉がうまく話せなかったりすると、自分の気持ちを伝える手段がなく、激しく怒って泣くしかないという場合もあります。ダメママさんからすれば、「そのくらいのことで」と思われるでしょうが、自分の「不快な気持ち」を「かんしゃく」という形で表に出していることを、まずは理解してあげてください。

セロトニン不足も一因
 少し脳科学的なお話をすると、イライラや「キレる」行動(さらには、うつなどの気分の落ち込み)には、脳内から分泌される「セロトニン」という物質の不足も関係しています。セロトニンには、感情を安定化させる作用があると考えられていますが、子どもはまだこのセロトニンの分泌が少ないため、すぐに思い通りにならないと「キレる」という行動に出がちなのです。セロトニンの分泌をうながすには、日光に当たる、リズミカルな運動を行うといったことが効果的です。セロトニンが作られる必須アミノ酸のトリプトファンを多く含む大豆食品を摂取するのも有効です。日頃から気をつけておくとよいでしょう。

なるべくかんしゃくを起こさせないようにする
 その上で、まず対策としては、かんしゃくを起こす要因はできる限り取り除いておくことです。好きなメーカーのジュースを買い忘れない、好きなテレビ番組は録画しておいて放送がない日も同じ時間にビデオを流す、お気に入りのおもちゃは複数同じものを用意しておくなどです。

 ただ息子さんの場合のように、「工事中」で通れなかった、ということも時にはあるでしょう。あらかじめ、工事予定であることがわかっていれば、その日は別の道を使うことを息子さんに知らせて、気持ちの準備をしておくといった対策がとれるのですが、それもかなわず、突然の変更にとまどい、かんしゃくを起こしてしまったのですね。いったん始まってしまうと、なぐさめようと寄り添うような言葉をかけたりしても、余計に火に油を注ぐことになりかねません。

 ひとしきり泣かせた後に、「工事中だからしかたがないね。この道、デコボコだったでしょ? この工事は道をキレイにするためにやってるんだよ。またキレイになった道を通るの楽しみだね」となぜ通れないかの理由を説明するとよいでしょう。そして「さあ、今日は別の道を通ろう。あっちだとアジサイの花が咲いているよ」と他に注意を向けさせます。

外で泣かせたままの状態でいるのは、周囲の目もあり、親御さんも大変だろうとは思います。かんしゃくを起こしている息子さんを抱いて家まで引き返す、というのもお子さんが抱っこできる年齢まではありでしょう。

 ただし、かんしゃくを起こせばなんとかなると、息子さんに学習させてはいけません。おもちゃを買って欲しいとかんしゃくを起こし、それにつき合っておもちゃを買ったりすると、これは「負の強化」で、ママは子どものネガティブな行動をサポートすることになってしまいます。これはやめていただきたい。

 基本的にはかんしゃくを起こさせないように準備をする、準備ができない場合も、かんしゃくを起こせばなんとかなる、と思わせないようにする。時にはあきらめることも学んで欲しいからです。丸一日かんしゃくを起こしたまま、ということはないでしょうし、時間が経てばおさまると思います。

まずは親の心を健康に保つこと
 それよりも、ダメママさんの今の「子育てがつらい、かわいいと思えない」という状況が心配です。周囲に相談できる人がいない状況での子育てで、大変だろうとは思いますが、いちばんお子さんと接している母親のストレスが多いと、お子さんの発達にも影響するということが、研究結果から明らかになっています。

 たとえば、産後数週間だけウツになる産後ウツは、お子さんの言葉の遅れと関係があることがわかっています。

 お子さんにとって心のよりどころであるお母さんが、不安やストレスを抱えていると、それはお子さんにも伝染してしまいます。現実を認められないお父さん、ダメママさんを非難するお姑さん、かんしゃくを起こす息子さん、と大変な状況であるのは重々お察しいたします。どうか、お一人で全てを背負いこまずに周りに相談してみてください。

 身内の方にたよることができないようなら、全ての都道府県にある「発達障害者(児)支援センター」等で相談してみてはいかがでしょうか。療育機関や、発達障害児のためのサークルなど紹介していただけると思います。

 また、一時的に保育所に預けるなどして、子どもと離れる時間を作るのもよいと思います。なんとかしてご自身の心の健康を取り戻していただきたいのです。ダメママさんが、時々一人になれる時間と、悩みを共有できる方を見つけられれば、息子さんへの態度も少し余裕ができ、かんしゃくも減るかもしれません。子育てにおける家庭の比重が高い就学前に、お母さんがお子さんをかわいいと思えないというのは、お子さんの将来を考えるととても大きな不安要因です。息子さんの将来のために、一歩踏み出してみませんか。

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちらから

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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