【あそびえほん】どうやってあそぶの? 最新の発達認知科学研究から生まれた年齢別絵本監修者8名による特別インタビュー【第8回・旦直子先生】
赤ちゃんは生まれながらにして「数」や「コミュニケーション」に関わる知識をもっています。
発達認知科学から生まれた、「あそび」を通じて赤ちゃんが生まれもつ知識を伸ばす絵本——それが年齢別の「あそびえほん」シリーズです。
発達認知科学研究者8名が、最先端の研究成果を結集して作り上げた本シリーズ。
今回は、「乳幼児の認知発達と子どもの保育」について研究されている旦直子先生に、研究に基づいた絵本制作の過程や、楽しみ方・注目ポイントについてお聞きしました。
―旦先生は、どのようなご研究をされているのでしょうか?
元々は「乳児の認知発達」に関する基礎研究を中心に行ってきましたが、近年は子どもを取り巻く生活環境全体にも関心を広げ、保育や子育てに関連した研究にも取り組んでいます。
その一つが、テレビやスマホ、タブレットといった電子メディアが、子どもの発達にどのような影響を与えるのかというテーマです。
子どもの発達には、家庭環境だけでなく、保育環境や社会的環境、その子自身の気質など、多くの要因が同時に影響するため、電子メディアと発達との因果関係を明らかにすることは容易ではありません。
しかし、スマホなどのデジタル機器が一昔前に比べて格段に身近な存在となった今だからこそ、真摯に向き合う必要のある重要な課題だと考えています。
たとえば、子どものデジタルデバイスへの依存が心配されることがありますが、その背景には、「外出時に周囲の目が気になり、おとなしくしてもらうためにスマホを渡してしまう」といった、養育者を取り巻く社会的な状況もあります。
こうした背景を踏まえると、問題を家庭だけの責任として捉えるのではなく、「社会全体で子育てを支える必要性」を意識しながら研究を進めていくことが大切だと考えています。
―赤ちゃんは、生まれながらに周りの世界の物理法則を理解しようとする力をもっている
過去には、「乳幼児の物理法則の理解」に関する研究も行っていました。これは、「乳幼児は、私たちが思うよりももっと早く身の周りの世界のことを理解しているのではないか」という問いから始まっています。つまり、赤ちゃんは受け身の存在ではなく、自ら世界を理解しようとしているのではないか、という視点です。
例えば、わずか3か月半の赤ちゃんでも、物が空中に浮いている事象を見ると、そうでない事象に比べて、より長く注視します。大人も、手品のような不思議な出来事を見ると注意を向けますが、赤ちゃんも同じように、「いつもと違う」「おかしい」と感じる事象に強く注意を向ける傾向があるのです。赤ちゃんが大人と同じレベルで理解をしているかどうかは分かりませんが、少なくとも「何か変だな」という違和感を感じ取っていると考えられます。
こうした反応は、赤ちゃんが受動的に世界を見ているのではなく、自分なりに出来事の規則性を捉えようとしている可能性を示しています。
重力の理解についていえば、こうした理解には身体の発達も関係しているようです。
お座りができるようになると、赤ちゃんは物が真下に落ちる事象よりも本来はありえない斜めに落ちる出来事を長く注視するようになります。これは「物は真下に落下する」という法則に気づき始めている可能性を示しています。お座りができるようになると、赤ちゃんは座った状態で目の前の物がどの方向に落ちていくかをしっかり見ることができるようになります。また、手先が器用になり、自分で物を落とす経験も増えていくでしょう。こうした視覚的・身体的な経験を通して、赤ちゃんは「物は真下に落ちる」という世界の規則性を少しずつ学んでいくのではないかと考えられます。
赤ちゃんはかなり早い時期から、何かおかしいと感じる事象に対して「どうしてこうなるんだろう?」と理由を知ろうとする欲求を持っており、それをもとに周りの世界の法則やメカニズムを学習していくことができると推測しています。子どもが周囲を認識・理解しようとする能力は生来備わったものであり、経験や身体の発達など様々な要因に影響を受けながら、世界への理解を広げていくのでしょう。
―「あそびえほん」シリーズでは、0さい「とんとん おきて!」、「おいしいもの みいつけた!」、1さい「どこが そっくり?」、「のりものかくれんぼ」、「たべもの きったら」、「どっちに はいっているかな?」、2さい 「どうぶつ みいつけた!」、「うごかせ のりもの」、「すきなもの なあに?」、「もぐらのぼうけん」の内容選定・監修を担当されました。研究者の目線でこだわった部分や、具体的なポイントは?
0歳:「気持ちを受け止めてもらえる」という安心感がすべての土台
0さい「とんとん おきて!」では、基本的な生活習慣に親しむことに加え、親子で感情を共有することをテーマにしています。
挨拶はコミュニケーションの基本となります。動物たちが起きたときに「おはよう」と声をかける体験をぜひ親子で楽しんでいただきたいと思います。
また、言葉が出る前の土台として「誰かに伝えたい」「関わりたい」という気持ちを育てることも重要です。
たとえば、赤ちゃんの外国語学習に関する実験でも、テレビ画面を通して話しかけるよりも、対面で話しかけた時の方が学習効果が高いことが分かっています。
これは、映像学習そのものが悪いということではなく、目の前の人に何かを伝えたいという動機づけが、言語学習には重要であることを示しています。大切なのは、「この人に伝えたい」「気持ちを受け止めてほしい」という思いです。
この絵本では、まず「とんとんして起こす」という動作を一緒に行い、そのあとで「おはよう」と声をかけます。
赤ちゃんにとって自分が働きかけたことによって何か変化が起こることは楽しいことですし、こうした身体的なやりとりも感情の共有につながり、感情や言葉の発達を支えます。
0さい「おいしいもの みいつけた!」も、「食べるって楽しいね」という気持ちを共有することを大切にして制作しました。
0・1歳ごろは、特に「気持ちを受け止めてもらえる」という安心感が大切です。日常の中で身近な人と一緒に楽しむ時間を積み重ねることが、子どもの発達に良い影響を与えます。
1歳:予測する楽しさが世界への理解を広げる
「次に何が起こる?」を楽しもう
1さいの項目は、0さいで大切にしていた親子の感情の共有や安心感にプラスして、「こうしたらどうなるかな?」と次に起こることを想像する楽しさを感じてもらうことを意識して制作しました。
「どこが そっくり?」では、動物の親子がはぐれてしまったという場面を通して、「ママパパに会えてうれしい」という再会の安心感とともに、「似ているところ・違うところ」を発見する楽しさを感じられるようにしています。
「のりものかくれんぼ」や「たべもの きったら」は、予測することの面白さを楽しむことを中心にした内容です。子どもは予測と結果を繰り返し経験することで世界への理解を広げていきます。この絵本を通して、新しいこと・ものを発見する楽しさを感じてもらえたらと思います。
子どもの「もっとやってみよう」を育てる
「どっちに はいっているかな?」も、予測と結果を楽しむことができる遊びです。こうした「あてっこ」遊びは簡単に日常に取り入れられるので、ぜひ期待や驚きの感情を親子で共有しながら楽しんでみてください。
子どもは、自分の気持ちを受け入れてもらったり、身近な人と感情を共有することをとても喜びます。こうした安心感が、子どもの「もっとやってみよう」という前向きな気持ちを育てます。
2歳:他者への理解と「できた!」という自信
2さいの「うごかせ のりもの」では、「誰かを助けたい」という気持ちの芽生えをテーマにしています。
他者は自分と違う考えや知識をもっていることを理解する(心理学では「心の理論」とよばれます)のはおおよそ4歳頃と言われていますが、それよりも前から、子どもは相手の行動から気持ちを推測しています。「助けたい」「役に立ちたい」という気持ちを大切に育んであげたいですね。
ごっこ遊びが他者理解を深める
1歳半くらいになると、子どもは徐々に自分と他者の好みの違いに気がつき始めます。
たとえば、「ブロッコリーとクラッカーの実験」とよばれる研究では、1歳半ごろの子どもは自分と他者の好みの違いを理解しており、自分はクラッカーが好きでブロッコリーが嫌いだったとしてもブロッコリーが好きな人にはブロッコリーをあげようとすることが見いだされています。
2さい「すきなもの なあに?」の項目では、「自分(読者)の好きなもの」だけでなく、「登場人物(うさぎ、男の子とそのママ)の好きなもの」を考えることを促す内容になっています。こうした経験は、他者の好みや気持ちの理解につながります。
また、2歳頃になると子どもは「ごっこ遊び」を楽しむようになります。本項目でもその要素も取り入れました。ごっこ遊びは、他者の気持ちを想像する力、他者とやり取りする力、表現する力など、様々な力を育ててくれます。
2歳は自信を育てる大切な時期
2歳後半になると、成功や失敗を意識し始め、プライドが芽生えます。この時期には、「根拠のない自信」を持つことがとても大切です。「うまくできるか分からなくてもやってみようと思える気持ち」を育ててあげたいですね。たくさん挑戦し、たとえ失敗しても受け止めてもらえる経験は、「失敗しても大丈夫」という自信の土台になります。これは、将来の折れない心(レジリエンス)にもつながります。
2歳頃はいわゆるイヤイヤ期とよばれ、自我が芽生えて自分でやりたい気持ちが強くなる一方、まだうまくできないことも多く、保護者の方の心理的負担も高くなりがちな時期です。ただ、こうした子どもの行動は、自分の力を発揮したいという気持ちの表れでもあります。実生活や絵本の読み聞かせでも、何かできたときには「やったね」「〇〇ちゃんががんばったおかげだね」などと声をかけることで、成功体験として心に残り、自信へとつながっていくでしょう。
「自信を持たせすぎると万能感が出過ぎて、謙虚さがなくなってしまうのでは」と心配になるかもしれませんが、この時期は過度に気にする必要はありません。
「どうぶつ みいつけた!」では、親子で楽しみながら動物を探してみましょう。最初は難しくても、何度か繰り返して遊ぶうちに、動物の名前を当てることができるようになるでしょう。当てられても当てられなくても、ページをめくり、かくれていた動物を見て「やっぱりパンダさんだったね」「隠れていたのはワニさんだったんだね。びっくりしたね。」など、親子で感情を共有してみましょう。また、「ワニさんは水の中にいるんだね。」「ぞうさんのお鼻は長いね。」など、少しずつ子どもの興味を広げてあげるのもよいでしょう。「見つけられてすごいね。」、「動物さんたちのかくれんぼ、楽しいね。」といった声かけは、子どもが自信をもって新しいことに挑戦する後押しになります。
「うごかせ のりもの」「もぐらのぼうけん」では、絵本を傾けたり、指で道をたどったりと、お子さん自身の行動によって物語が進みます。こうした、自分の行為が何らかの結果につながるという体験は、自分と世界との関係性への理解を深めるとともに、自分に対する自信を育むことに繋がります。
―最後に、旦先生ご自身も子育てをされていらっしゃいますが、そうした中で思ったことや、それをもとに、保護者の方へメッセージがありましたら教えてください。
親としては、良かれと思ってついつい知識や教訓を教え込もうとしたり、失敗しないように先回りをしてしまったりすることもありますよね。
しかし、子どもには自分で世界を広げていく力があります。実際に子育てをしてみると、こちらの想いを押しつけることでうまくいかなくなってしまうことの方がずっと多いように感じています。
「0歳の赤ちゃんもたくさんのことを理解している」「子どもは能動的に世界に働きかけることによって身の周りのことを理解していく」「子ども自身に伸びる力がある」ということを示している研究はたくさんあります。保護者の方にも、子育てを通して、子どもの生まれもつ力を実感していただければと考え、「あそびえほん」シリーズの制作に挑みました。
子どもが力を発揮していくためには、心が安定していることが一番大切です。「あそびえほん」を親子で繰り返し楽しむことが、0・1・2歳のお子さんの健やかな発達につながることを願っています。
プロフィール
旦 直子(だん なおこ)
帝京科学大学教育人間科学部教授。博士(心理学)。乳幼児の認知発達や保育をテーマに研究を行っている。著書に『乳児における重力法則理解の発達』(風間書房)、『赤ちゃん学を学ぶ人のために』(世界草思社,分担執筆)など。