「子どもにぐっすり眠ってほしい」。これは、どの親にも共通する切実な願いではないでしょうか。いろいろな寝かしつけ方を手探りで試しても、なかなかうまくいかず、ため息をついてしまう夜もあるかもしれません。
子どもを穏やかな眠りに誘う助けのひとつが「絵本」です。今回は、子どもの睡眠問題に悩む保護者に寄り添う医師・小児スリープコンサルタントの森田麻里子先生に、医学的な視点に基づいた寝かしつけ方のコツや「寝かしつけ絵本」の選び方・読み方など、家族みんながぐっすり眠るためのヒントについて詳しくお話をうかがいます。
親の元気が子どもの幸せにつながる
子どもが生まれると、子ども中心の生活がスタートします。子どものためを思って一生懸命になるのは親として自然なことですが、ともすれば子育ては「子どものために、親が我慢すればいい」という思考に陥りやすいものです。
子どもの睡眠トラブルを抱えるお母さんお父さんのなかには、「寝かしつけ方を変えて子どもが泣く」ことに強い罪悪感を抱く方も少なくありません。赤ちゃんが夜中に泣いてしまうと、心配な気持ちから、どうしても抱っこしたくなってしまう方が多いのです。でも、親が体調を崩してまで我慢するより、心身ともに元気な状態でケアするほうが、子どもにとって総合的に良いはずです。もしかしたら子どもも、うまく眠れなくて困って泣いているのかもしれません。
かくいう私も、長男の夜泣きには苦しみました。何をやっても泣きやまず、睡眠不足と疲労でフラフラに。何かできることがあるはずだと海外の研究論文を調べて試してみると、息子の夜泣きは3日で改善しました。寝かしつけ方を変えた初日、泣いている長男をなぜ抱っこをせずに見守れたかというと、「抱っこしても長男は泣いていた」ということに気がついたからです。ひと晩中長男を抱っこしていた私は、翌日はヘトヘトで一日中ぐったりしていました。「抱っこしてもしなくても泣くなら、私がつらくならないほうがいいのでは?」。そう思えたことが、心の支えになりました。
寝かしつけ方の見直しは、親のエゴではなく、親子の生活の質を上げるための前向きな選択です。医学的に証明された、夜泣きや寝ぐずりを改善する方法がわかってきています。寝かしつけに毎日1時間以上かかる、生後6ヵ月以降で毎晩何度も起きるようであれば、ぜひためらわずに試してみてください。
まずは「寝室の環境」と「生活リズム」を見直そう
子どもの眠りの問題を改善するための第一ステップは、「寝室の環境」と「生活リズム」を整えることです
●寝室の「光」と「温度」をチェック
常夜灯をつけたまま就寝していませんか? 寝室が暗いほうが、睡眠が深くなりやすいという研究報告があります。授乳やオムツ替えのときは足元を照らすライトをつけ、お世話が終わったら消しましょう。
また、冬に意外と多いのが、「暑さ」による夜泣きです。子どもには、大人より薄手の寝具が適しています。衣服や室温の調整によって夜泣きが減り、睡眠が深くなることもあります。
●朝型の生活リズムをつくる
子どもには朝型の生活リズムが適していて、同じ睡眠時間でも、生活リズムを夜型から朝型に変えただけで夜泣きが減ることもあります。5歳までに必要な夜の睡眠時間は、10〜12時間。朝7時に起きるなら、19〜21時の就寝が理想的です。生活リズムを朝型にするときは、「朝早く起こす」ことから始めましょう。お話ができるようになったら、「朝起きたら〇〇のビデオが見られるよ」などと伝えるといいでしょう。起床時間を早めれば、自然と就寝時間も早まります。
睡眠トラブル解決に役立つ「就寝前のルーティン」
次に取り組みたいのが、就寝前の行動の「ルーティン」化です。難しく考えなくても、寝かしつけまでの流れをいつもほぼ同じにすればOK。幼児は就寝前のルーティンをする日が多ければ多いほど、睡眠トラブルが少ないという研究報告があります。次のポイントを参考に、わが家に合うルーティンを考えてみましょう。
●順番を意識する
就寝前のルーティンは、「寝かしつけ前はリラックス重視の活動をする」「夏は入浴から就寝までの時間をあける」「授乳と寝かしつけをなるべく結びつけないようにする」の3点を意識して決めましょう。
●ルーティンは“甘め”に設定する
2~3か月頃までの赤ちゃんなら、子守唄を一曲歌ってから寝かしつける、6か月以降ならお風呂のあとに水分補給、歯みがき、絵本、おやすみのあいさつをしてから寝るなどシンプルな設定が続けやすくておすすめです。
●子どもと一緒に決める
言葉でコミュニケーションがとれるようになったら、就寝前のルーティンは子どもと一緒に決めましょう。1歳半ごろから「寝たくない」「眠くない」と言い始めることがありますが、そんなときに自分で決めたルーティンが大きな効果を発揮します。
●ポスターなどで“見える化”する
寝るまでの流れを写真やイラストで示したポスターを作り、壁に貼ってみましょう。視覚的なわかりやすさが、子どもの安心・納得につながります。
●成長とともにアップデートする
就寝前のルーティンは、成長とともに見直しましょう。歯が生えて歯みがきが始まったときや、トイレに行くようになったときなどがアップデートのタイミング。「今日からおやすみの前にトイレに行こうね」などとルーティンの変更を子どもに予告しておきましょう。
「寝かしつけ絵本」の選び方
お風呂や歯磨きなど、就寝前のルーティンは子どもにとって「やらなければいけないこと」の連続です。寝る前に親子で心を通わせる時間を設けると、子どもも親もほっとできます。何をしようか迷ったとき、役に立つのが「絵本」です。
絵本の魅力は、なんといっても子どもに集中する時間をつくりやすいところ。長くても1冊5分ほどですから、子どもと心を通わせるひとときを気軽につくれます。私は絵本を読んでいると、リラックスして眠くなってくるんです。子どもとのゆったりした時間は、親にとってもメリットになると思います。
寝かしつけ用の絵本は、ドキドキ、ワクワクするものより、リラックスできるものがおすすめです。3歳以降はストーリー性があるものも楽しめるようになります。0〜2歳は、次のポイントを参考に選んでみてください。
《0〜2歳向け寝かしつけ絵本を選ぶポイント》
・ストーリー性よりも、言葉の響きや絵のタッチを重視しましょう
・やさしい雰囲気で、シンプルな言葉のくり返しがある絵本が最適です
・短いフレーズのくり返しは、子どもが次の言葉を想像しやすく、「やっぱりあれだった」という楽しさと安心感につながります
寝かしつけが楽になる、おすすめの絵本『ねむねむごろん』
動物たちが眠りにつく様子を描いた0・1・2歳向けの絵本。
『ねむねむごろん』は、海の砂を使って描かれたきれいな絵が印象的な、やわらかい雰囲気の絵本です。「ぞうさんがねむねむ」「くまさんがねむねむ」と、シンプルな言葉のくり返しがわかりやすく、子どもを自然と眠りに誘ってくれます。動物たちが眠そうなところもいいですね。「ごろん」「こてん」の場面で、動物の真似をして親子で横になるのも楽しいと思います。
「電気を消して、寝る」実際の行動に つなげやすいラストシーン。
1歳半ごろになると「寝たくない」と言い始めることがあり、そんなときは寝室の電気を子どもが消すようおすすめしています。『ねむねむごろん』は「ぱちん」と電気を消すシーンで終わるので、読み終わってから「一緒にパチンしようか」と子どもに声をかけやすいですね。子どもが1人で寝ているシーンもあり、子どもの一人寝を目指していきたい方にも取り入れやすい内容です。寝かしつけ絵本として活躍する一冊だと思います。
眠りを誘う「寝かしつけ絵本」の読み方3つのコツ
絵本は、いつから就寝前のルーティンに取り入れてもOKです。子どもがからだを動かすのが楽しいようなら、親が横で音読し、「おしまい」「そろそろ寝ようか」で大丈夫。決まりはないので、ひざの上に座らせて読まなきゃ、最後まで聞かせなきゃと焦らず、やりやすい方法で続けていきましょう。
●リビングは「適度に」薄暗くする
暗い部屋で無理して絵本を読まなくても大丈夫。部屋の照明は、コンビニやオフィスのような明るさから、ディナータイムのレストランほどの明るさに落としましょう。
●「フラット」に間隔をあけて読む
しっとりとしたトーンで読むことをおすすめしています。登場人物になりきった楽しい読み方は日中にとっておき、就寝前は抑揚を抑えた落ち着いた声調で、間をとりながら読みましょう。
●冊数を決める
子どもの「もう1冊読んで」がエンドレスに続いて頭を抱えているなら、寝る前に読む冊数を子どもと決めておくといいでしょう。こんなときにも、就寝前のルーティンを示す「ポスター」が役に立ちます。ポスターを指して「絵本は2冊って書いてあるね」と伝えると、子どもも納得しやすいはず。読めなかった絵本は枕元に置き、「これは明日の朝に読もうね」と話してみてください。
寝かしつけをがんばる保護者の方へ
子どもが眠れないと親も眠れなくて本当につらいものですよね。夜泣きに困っていると、10分20分を永遠のように感じることもあると思います。そんなときは、医学的に証明された寝かしつけの方法にぜひ頼ってください。子どものためにも親のためにもなり、よりよい育児につながっていくと思います。
一緒に見て、お母さんお父さんの声を聞き、ぬくもりを感じて心を通わせる絵本の時間は、親子にとって就寝前の大切なスキンシップになります。まもなく入園などで新生活が始まる方も、就寝前のルーティンづくりや寝かしつけ絵本の導入をぜひ試してみてください。きっと親子にとってかけがえのない「おやすみタイム」の始まりになると思います。
取材・文:三東社
<プロフィール>
森田麻里子
医師。小児スリープコンサルタント。Child Health Laboratory代表。
東京大学医学部医学科卒。麻酔科医として勤務。2017年に第一子を出産。息子がなかなか寝てくれず途方に暮れ、夜泣きについての医学研究を調べて実践した結果、何時間もかかっていた寝かしつけが3日で不要に。その経験と知識を活かし、2018年に赤ちゃんの睡眠と健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。著書に『医者が教える赤ちゃん快眠メソッド』(ダイヤモンド社)など、共著に『子育てで眠れないあなたに 夜泣きドクターと睡眠専門ドクターが教える細切れ睡眠対策』(KADOKAWA)など。
【書籍情報】