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【あそびえほん】どうやってあそぶの? 最新の発達認知科学研究から生まれた年齢別絵本監修者8名による特別インタビュー【第5回・宮﨑美智子先生】


赤ちゃんは生まれながらにして「数」や「コミュニケーション」に関する知識をもっています。
発達認知科学から生まれた、「あそび」を通じて赤ちゃんが生まれもつ知識を伸ばす絵本——それが年齢別の「あそびえほん」シリーズです。

発達認知科学研究者8名が、最先端の研究成果を結集して作り上げた本シリーズ。
今回は、「赤ちゃんの自己認識の発達」について研究されている宮﨑美智子先生に、研究に基づいた絵本制作の過程や、楽しみ方・注目ポイントについてお聞きしました。





―宮﨑先生は、どのようなご研究をされているのでしょうか?

私は、「乳幼児の自己認識の発達」をメインに研究しています。
例えば1歳半から2歳ぐらいになると「鏡に映った姿が自分である」ことを理解できるようになるのですが、どのような発達プロセスでできるようになるのか、それをきっかけにどういう能力が育まれるのか、などを研究しています。

子どもの成長に大切な「感覚統合」とは
子どもの自己認識の例として、鏡やモニターなどに映っている「自分の体から切り離された自分の姿」に対して「これは自分自身である」と理解すること(鏡像自己認知)があげられます。
また、テレビゲームなどではキャラクターを自分の分身としてプレイしますよね。これには、自分の感覚を自分以外のものに付与する力が必要です。「自分」という感覚を自分の体以外に移すことができるというのは、とても高度で面白い認知能力なんですよ。

具体的には、赤ちゃんの鏡像自己認知に関する研究として、おでこにこっそりシールを貼り、それを鏡越しに見せた後、赤ちゃんがシールをちゃんと剝がせるか、という実験があります。
おでこにシールが貼ってあるにもかかわらず、赤ちゃんは首元や後頭部などを探してしまって、シールをうまく剥がせません。鏡に写った自分の体の部分を正確に触ることは、赤ちゃんには思いのほか難しいんです。
ただ、なぜだか、鏡ではなく向かい合っている人が、自身のおでこを触りながらシールの場所を教えてあげると、赤ちゃんはわりと正確におでこのあたりを触れます。身体を介したコミュニケーションがあれば、自分の身体の情報について理解できるんです。視覚だけではなく、五感を使った情報処理の方がスムーズに理解しやすいということがわかります。

このように、おでこに貼られたシールを剥がすという単純な行為であっても、いろいろな感覚の相互作用によって成立しています。このような多感覚の処理を「感覚統合」と言います。
様々な感覚を用いて、少しずつ自己認識とその情報処理を発達させていくことが、ひいては他者とのコミュニケーションや社会性の獲得などにつながるのです。

―「あそびえほん」シリーズでは、0さい「からだのたんけん」、1さい「きみ だあれ?」、2さい 「なんのかげ?」「いないよ いないよ」の内容選定・監修を担当されました。研究者の目線でこだわった部分や、具体的なポイントは?

遊びながら、自分の身体を認識していく
生後半年くらいまでの赤ちゃんにとって、自分の身体を思い通りに触ることは難しいです。蚊に刺された時、最初は痒いのにかくことができず、むずがったり、全身で反応したりしてしまいます。徐々に痒い所に手を伸ばすようになります。

0さい「からだのたんけん」では、赤ちゃん自身の身体への認識を促すコミュニケーションが取れる遊びを意識しました。
ママパパと一緒に「ここはあんよだね、ここはおててだね」と体にふれるコミュニケーションをすることで、「自分の体の地図」ができて、身体認識が発達していきます。



また、本項目には、「くすぐり遊び」の要素もあります。
ただ、このくすぐり遊びは、生後半年を過ぎないと、いまいち遊びが盛り上がりません。
生後半年前の赤ちゃんは、「こちょこちょされるぞ」という予測が難しいため、くすぐっても触られた刺激に短く反応する程度です。
生後半年を過ぎてから、何度かくすぐり遊びを経験した赤ちゃんは、「ママパパが手をこちらに向けている。これからこちょこちょされるんじゃないかな?」と予測と期待ができるようになります。この遊びの繰り返しパターンができると、赤ちゃんから期待のまなざしが返ってくるようになるのです。

こういった遊びのパターンが作られるには、親子の繰り返しのコミュニケーションが必要です。ぜひ絵本で繰り返し遊んでみてくださいね。

「鏡」で実際に遊んでみよう!
こちらは、先ほどの「鏡像自己認知」に関わりますが、鏡に映ったものが自分の動きと連動していることに気づくことで、「自分の鏡像」だとわかるようになります。顔かたちが自分であるというよりも、「動きが同じであること」が鏡像自己認知のきっかけです。



1さい「きみ だあれ?」では、一見誰だかわからないよう、もこもこの泡で子どもの顔を隠しています。へんな顔をすると鏡の向こうの像も同じ動きをするので、「もしかしたら、自分かもしれない」と気がついていきます。
この物語を読んだら、実際にお風呂場などでも試してみてください。
右手を上げたり、へんな顔をしたり。自分の動きに合わせて鏡像が動くことが、子どもにとっては新鮮で面白いことなのです。

自分にくっついている不思議な存在「影」を認知する
「自分の影に気づく」というのは鏡よりもさらに高度な自己認識ですが、 影の認識には段階があります。
「自分にくっついてくる気持ち悪いものがある」という最初の気づきは 2歳前後からありますが、その後「近づくと小さくなり、離れると大きくなる」という光源との関係がわかってくるのは、5歳くらいにならないと難しいようです。
ただ、自分と連動して動くものって、子どもにとってはとても楽しい現象なんですよね。



2さい「なんのかげ?」は、実際に保育の現場でも行われているこいのぼり遊びをモチーフにしています。
「自分の影が、大きな影に飲み込まれてしまう!」という展開は、自己認識により自分の影=自分であることを理解しているからこそ、通常では起こりえないシチュエーションを楽しめる遊びになります。

みなさんのご家庭でも、影絵遊びなどを通して、自身に連動して動く「影」というもののおもしろさを感じてみてほしいと思います。  


親の反応を楽しむ、子どもなりのユーモア
少し前、子どものユーモアの研究が流行りだしている ということを学会で聞きつけまして(笑)。ユーモアは、「こうしたら人にウケる」ということを予測できないといけないので、非常に高度な行動です。そのため、長い間、乳幼児期には理解が難しいと考えられていました。しかしながら、最近の研究では、0歳からユーモアの一環ととれる行動が見られることが示されています。



2さい「いないよ いないよ」では、そういった子どものユーモア行動がよく観察される、かくれんぼをモチーフに選びました。
2歳さんはかくれんぼが大好きだと思うんですけれども、ときには、親を呼んでおきながら、自分は隠れる、といった親をだますような行動をとります。これは、そうすることで親の反応を楽しむ、子どもなりのユーモアなのです。

また、顔だけ隠れていたり、頭は隠したけどおしりは見えていたりなど、この時期の隠れ方って非常におもしろいんですよね。
それは、このぐらいの年齢のお子さんの「他人から見られている自分」と「自分が考えている自分の見え方」の理解のずれからきています。そんな部分も楽しんでもらいたいと思っています。

―このシリーズを、保護者の方にはどんなふうに使ってもらいたいですか?



私は、絵本とは、絵を見るための視覚、ママパパが読む声を聴く聴覚、ページをめくったり触ったりする触覚が合わさった、「参加して遊べる映画」であると考えています。子どもにとって、五感を使った遊びは非常に大切ですので、読み聞かせを通して、五感を使う経験をたくさんして欲しいです。

また、本シリーズを通して、保護者の皆さんが子どもの大まかな発達の道筋を予習できるところもポイントだと思います。
例えば、0さいでは身体、1さいでは鏡、2さいでは影・ユーモアと、年齢の発達に沿った自己認識の遊びを取り上げています。面白い遊びを用意しても、発達上、受け取る準備ができていなければ、それを楽しむことができません。絵本の内容を通して発達段階を知ることで、保護者の皆さんがお子さんへの接し方を工夫することができる点も、「あそびえほん」の魅力だと思います。

もちろん、「この時期までにはこう発達していなければいけない」と考える必要はありません。発達段階は、あくまで目安です。
最初に読み聞かせたときには反応のなかった項目も、繰り返し遊んでパターンをつかむことで、楽しめるようになる場合もあります。お子さんの様子をよく観察して、興味がなさそうであれば、ときには待つことも必要です。親子で一緒に楽しみながら、お子さんの成長を感じていただければ嬉しいです。

―最後に、宮﨑先生ご自身も子育てをされていらっしゃいますが、そうした中で思ったことや、それをもとに、保護者の方へメッセージがありましたら教えてください。

最近のママパパは、SNSなどを通して集めた様々な知識を活用していらっしゃると思います。これは非常に大切なことですが、全ての知識を網羅してスーパー赤ちゃんを育てることは、実際には難しいと思います。
理想ではなく、親子で楽しみながら、それぞれに合った育児を目指すことが大切だと考えています。

一方で、育児している間は本当に大変で、上記のように「楽しんで」と言われても、「それどころじゃない!」と感じる場面もたくさんあると思います(笑)。
ただ、やっぱり育児はあっという間です。学生たちにも「今しかない時間を味わってくださいね」と伝えています。人生なり育児なり、楽しかったこともつらかったことも、家族で共有することができるといいんじゃないかなと思っています。

もちろん、私も「うまく遊んであげられなかったかも」という後悔はあります。それで言うと、「あそびえほん」は親子で一緒に遊べるツールとしてとても優れていると思います。ぜひ、育児の中で活用していただけたら嬉しいです。

 

プロフィール

宮﨑美智子(みやざき みちこ)
大妻女子大学社会情報学部情報デザイン専攻准教授。専門は認知科学・赤ちゃん学で、主な研究関心は乳幼児の自己認識を中心とした社会性の発達。著書に、『認知科学をはじめる』(有斐閣)、『なるほど!赤ちゃん学:ここまでわかった赤ちゃんの不思議』(新潮社)など。子どもの頃の好きな遊びはお絵描きと基地づくり。


書籍情報


総監修: 開 一夫

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146538

紙の本を買う


総監修: 開 一夫

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146545

紙の本を買う


総監修: 開 一夫

定価
1,760円(本体1,600円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146552

紙の本を買う



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