【あそびえほん】どうやってあそぶの? 最新の発達認知科学研究から生まれた年齢別絵本監修者8名による特別インタビュー【第4回・森口佑介先生】
赤ちゃんは生まれながらにして「数」や「コミュニケーション」に関する知識をもっています。
発達認知科学から生まれた、「あそび」を通じて赤ちゃんが生まれもつ知識を伸ばす絵本——それが年齢別の「あそびえほん」シリーズです。
発達認知科学研究者8名が、最先端の研究成果を結集して作り上げた本シリーズ。
今回は、「子どもと大人の認知の違い」や「忍耐力・セルフコントロールの発達」を研究されている森口佑介先生に、赤ちゃんに見えている世界の面白さや、絵本制作のこだわりについて伺いました。
―森口先生は、乳幼児の発達認知科学の研究者でいらっしゃいますが、どのようなご研究をされているのでしょうか?
子どもは“大人とは違う世界”を見ている
乳幼児や未就学児は、世界の見え方が大人とは異なるんじゃないかと考え、その認知の仕方を研究しています。
例えば、 大人が見ている「赤色」は、小さい子どもが見ている「赤色」と同じでしょうか? 色の感じ方には、個人的な「色の体験」の積み重ねが影響しています。大人であっても、他の人と全く同じように色を感じているとは言えません。それがさらに子どもや、「色の体験」がほとんどない赤ちゃんともなれば、同じ色を見ていても違う風に認識しているのではないでしょうか。
そのように、「心の体験」によって、子どもと大人とで世界の見え方がどう異なるか、ということを、メインの研究テーマとしています。
もう一つ、幼児期の忍耐力や我慢する力が、のちの学力、さらには大人になってからの収入などにどのようにつながるのか——こうした「生まれ持つ力と、長期的な成長との関係」についても、科学的に研究しています。
―「あそびえほん」シリーズでは、0さい「すりすり だあいすき」、1さい「たんさくに しゅっぱつ!」、2さい 「あっぷっぷ」「いろ いろいろ!」の内容選定・監修を担当されました。研究者の目線でこだわった部分や、具体的なポイントは?
スキンシップは親子関係で一番の基本
「スキンシップが親子関係の基本」であるというのは、発達心理学において大事なポイントの一つです。しかし、スマホなどのデジタルデバイスが子育てに取り入れられるようになり、赤ちゃんと保護者のスキンシップが十分でないケースも増えているのが現状です。身体的な接触は子育ての基本で、赤ちゃんにとっても、親にとっても大事だということを、あらためてお伝えしたいなと思い、0さい「すりすり だあいすき」の内容を監修しました。
「子どもが自発的に遊ぶことを邪魔しない」ことが大切
最近、発達認知の分野では“子どもの好奇心”というものに関心が集まっています。
親からすると、1さい「たんさくに しゅっぱつ!」に出てくる、<ティッシュを出す><新聞をビリビリ破る>という行動は、あまり歓迎できないかもしれません。ですが、 子どもはこうした一つ一つの小さな身体的な活動を通して、世界を知っていくのです。
好奇心を伸ばすには、親が主導し促すのではなく、「子どもが自発的に遊ぶことを邪魔しない」ことが大切だと考えています。もちろん、危険な場面があれば親が止める必要はありますが、子どもが興味を持ってやりたいと思う活動は、できるだけ尊重して見守る方が、よりよいと思いますね。
0歳の赤ちゃんでも、生まれながらに強い好奇心を持っているのですが、やはり身体が追いつきません。1歳くらいになって、いろいろな動きができるようになると活動範囲も広がり、このお話で描かれているように、好奇心の発揮がより顕著になります。
人にやらされる我慢よりも「自分で我慢してみる」ことが大事
「セルフコントロール」は、子ども時代から備わっている力の中で、大人になったときにもっとも大事だと言われています。
2さい「あっぷっぷ」では、<笑うことを我慢する>というにらめっこ遊びの形でセルフコントロールを体験できます。「我慢」や「セルフコントロール」というとネガティブな印象を受けるかもしれませんが、遊びにすることで、前向きにチャレンジできますよね。そうして「我慢の先にはいいことが起きる」ということを体感してほしいです。
2歳児はいわゆる「イヤイヤ期」真っ只中の時期。まだセルフコントロールを行うのは難しいお子さんも多いのですが、人にやらされる我慢よりも「自分で我慢してみる」ことが大事だということを、少し先取りしてお伝えしたいと思い、テーマとして取り入れました。
色遊びを通して感性を養う
2さい「いろ いろいろ!」は、色で遊び、自由に表現することを通して、感性に働きかけることがテーマです。
「色一つとっても、大人と子どもで見え方が異なる」という認識の違いと、「子どもがこうして色で遊ぶことは、とても楽しいものだ」という2つのメッセージを伝えたいと思いました。
赤ちゃんの頃から色の見分けはつきますし、好みもあります。ただ、0歳ではまだうまくそれが表現できません。2歳くらいになると、全身を使っていろんな表現方法ができるようになり、保護者も成長の表れを実感できるようになります。お話の中でも、手を使って様々に色を表現してもらっています。
―子どもと大人の認知の違いを親が知ることに、どんな意義があるのでしょうか?
大人の都合を子どもに押しつけないために
誰しも子ども時代を経験して大人になります。でも、親になった頃には当時のことを結構忘れていて、子どもの事情や気持ちを考えずに、大人の都合がいいように行動させようとしてしまうことが多々あると思うんです。
でも、子どもの認知は大人とは違い、見えているものも違います。「子どもには子どもだけに見えている世界があるんだ」ということを知ることで、育児への向き合い方も変わるのではないでしょうか。この絵本シリーズが、そのきっかけになればよいなと思っています。
―この絵本シリーズは、森口先生としては、パパママにどのように使ってもらいたいと思いますか?
絵本は「親子関係をつくるツール」
難しいことを考えずに、親子で楽しんで読んでもらえたらいいなと思っています。特に親御さんには、「自分が子どもの頃もこうだったのかな」というふうに、思い返しながら読んでいただくと、また違った楽しみがあると思います。
「あっぷっぷ」の項目は、何度も楽しめる内容です。読み方を毎回ちょっとずつ変えたりして、自由に遊んでいただきたいですね。
絵本というのはあくまでツールであって、やっぱり大事なのは親子のコミュニケーションです。ですので、読んでいるときにはお子さんの様子をしっかりと見て、そのお話のどこに興味を持つかを確認しながら楽しむのが大事だと考えています。
最近は子どもの「非認知能力」がよく話題になりますが、親子関係をはじめとする、「子どもにとって大事な他者との関係性」こそが、非認知能力の基盤にあると言われています。この絵本シリーズを、そんな関係性を作るための手段にもしてもらえたら、と思います。
―保護者の皆様へ、最後にメッセージをお願いします。
親子の絆を深める手段は様々にありますが、同じ内容でも、最初はニュートラルに読んで、次はものすごく感情を込めて読んで……など、いろいろな方法で楽しめるのが絵本のいいところです。中には絵本が好きでないお子さんもいらっしゃるかもしれませんが、難しいことを考えず、まずは色々な項目を読んでいただき、その中でも特にお子さんが気になるようなものがあれば、何度でも読み聞かせてください。そうした繰り返しが、子どもの成長の基盤となる「親子の絆」を深めていくと思います。
プロフィール
森口 佑介(もりぐち ゆうすけ)
専門は発達心理学・発達認知神経科学。京都大学大学院文学研究科教授。子どもを対象に認知、社会性、脳の発達を研究する傍ら、子どもの発達の知見を広く社会に発信する。著書に「子どもの発達格差」(PHP新書)、「10代の脳とうまくつきあう」(ちくまプリマ―新書)、「子どもから大人が生まれる時」(日本評論社)など。