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【あそびえほん】どうやってあそぶの? 最新の発達認知科学研究から生まれた年齢別絵本監修者8名による特別インタビュー【第6回・山本絵里子先生】

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赤ちゃんは生まれながらにして「数」や「コミュニケーション」に関する知識をもっています。
発達認知科学から生まれた、「あそび」を通じて赤ちゃんが生まれもつ知識を伸ばす絵本——それが年齢別の「あそびえほん」シリーズです。

発達認知科学研究者8名が、最先端の研究成果を結集して作り上げた本シリーズ。
今回は、「子どもの身体表現・ダンス」について専門に研究されている山本絵里子先生に、研究に基づいてどのように絵本が作成されたのか、楽しみ方、注目ポイントなどについてお聞きしました。





―山本先生の、乳幼児の発達認知科学についての研究内容はどのようなものなのでしょうか?

私は、子どもたちのダンスや身体表現の発達について研究しています。ダンスというと、「音楽に合わせてリズムよく動くこと」を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実はそれだけではありません。

踊るとき、私たちは自分の身体が空間のどこにあり、どのように動き、どんな軌跡を残しているのかを感じ取りながら動いています。こうした身体と空間の関係を組み合わせながら、ダンスは生まれていると考えています。そのため、ダンスにはリズムの理解だけでなく、空間を捉える力や、直接目にすることのできない動きの軌跡を想像する力など、さまざまな認知機能が関わっていると考えられます。

ダンスを踊れるようになることは、こうした子どもたちの認知発達の幅広い側面と深くつながっているのではないかと感じています。

―0歳児からダンスや身体表現をすることは、乳幼児のどのような発達を促すものなのでしょうか?

空間をどのように使うかを理解する力や、リズム感、さらには言葉の理解にもつながっていくと考えています。研究でも、身体でリズムを感じ取り、音楽に合わせて動ける子どもは、その後の言語発達が促される可能性が示されています。実は、言葉を話すときの口の動きも、リズムのある運動です。そう考えると、身体を使ってリズムを感じる経験と、ことばの発達は自然につながっていると言えるのかもしれません。

―さきほど、ダンスは空間認知にもつながっていくと伺いましたが、どのように育まれていくものなのでしょうか?

私はダンスとはリズム運動だけでなく、それによって空間を形成することも重要な要素だと思っています。空間を認知するとは、自分の視点と他の人の視点の両方を想像することができ、目には見えないけれどもそこに形をイメージすることができます。具体的に子どもにとっては積み木などを見たとおりに組み立てる力などですね。そうしたものがダンス・身体表現と一緒に育まれるんじゃないかと思っています。そしてその先に、数学的な空間認知や俯瞰してみる力、動かないものを動かして考えてみることのできるイメージの力などにもつながると思います。

―今回、実際の研究をもとに「あそびえほん」シリーズの内容選定・監修をされましたが、研究者的な目線でこだわった部分や、具体的なポイントを教えてください。

音のリズムに耳を傾けて【0歳空間 おと】



0歳児は、まず身の回りの音に強く関心をもつ時期です。赤ちゃんの周りには、キーボードのカタカタという音や、冷房の音など、さまざまな環境音がありますよね。そうした音の中には、それぞれ固有のリズムがあります。「音にはリズムがある」ということに自然に気づき、耳を傾けるきっかけになればと思い、その世界を絵にしていただきました。

自分の身体を発見するきっかけに【1歳空間 て!】



1歳前後になると、赤ちゃんがじっと自分の手を見たり、動かしたりする姿が見られるようになります。これは「これは自分の身体なのか?」と確かめながら、自分の身体を偶発的に発見していく過程だと考えられています。この時期には、自分の身体の中心、いわば重心のようなものを探しながら、「左右対称である」といった身体への意識の芽生えが育っていきます。この絵本が、手を通して「自分の身体がある」という感覚に気づくきっかけになればいいなと思っています。

真似っこから自由な身体表現を【2歳空間 うごく!】



まずは、絵本の画面を見ながら、実際に真似をして動いてみてほしいですね。「動く」「歩く」と言っても、歩き方ひとつをとってもさまざまな形があります。真似をすることで、そうした動きのバリエーションが自然とその子の中に蓄えられていきます。その上で、「じゃあ自分はどうやって動きたいのか」と考えることが、自由な身体表現につながっていくのだと思います。

身体表現やダンスで「自由にやってみましょう」と言われると、子どもでも大人でも、戸惑って身体が固まってしまうことがありますよね。でも、たくさんの動きのレパートリーを知り、それらを組み合わせる体験をすると、表現はぐっとしやすくなります。動く楽しさを感じながら、自由に身体を使ってみる。そんな経験につながる絵本になればいいなと思っています。

手を動かして自分の体を発見していく【2歳空間 なにができるかな?】



この絵本では、「ケーキができるまでに、どんな動きが必要なのか」を考えることがポイントです。自分の動きが、次に何につながるのかを予測する楽しさを大切にしています。身体運動には予測が欠かせません。「自分が起こしたアクションが、その後どうなるのか」を考える力は、運動だけでなく認知発達全般にも関わってきます。

最後のページでケーキが完成するのですが、制作中に「丸いケーキをどう分けるか、というのも空間認知の話だよね」という話をしました。はんぶんこにするなら、どこに線を引くのか。そうした感覚を身体の動きにつなげられるよう、絵の中にはナイフも描かれています。一緒に切る真似をしながら楽しんでもらえたら嬉しいですね。

―山本先生の研究テーマ、「子どもの身体表現と発達」について、保護者が知っておくとよい点はありますか?



子どもは身体を動かしながら周囲を探索し、さまざまな経験を通して知識を蓄えていきます。こうして外界の環境を理解しながら発達していくという点で、「身体を動かすこと」は子どもにとって欠かせないものだと考えています。

また、感情を表現する上でも身体表現はとても重要です。言葉をまだ話せない時期の子どもたちは、まず身振りや手振りといったジェスチャーを通して感情を表しますよね。そうして身体を動かす中で、その子なりの「伝える方法」を少しずつ獲得していきます。身体を動かすことは、こうした初期のコミュニケーション手段となるだけでなく、その後の言語獲得にもつながっていきます。その意味で、身体表現は社会性の発達における第一段階としても、とても重要だと考えています。

―この絵本シリーズは、発達認知研究をもとに赤ちゃん自らが夢中になれるところがポイントですが、どんな部分に夢中になると思いますか?

赤ちゃんもお話に参加できる絵本なので、「一緒に楽しめる」という点が大きいと思います。この絵本は“参加型”なので、読み手やお子さんによって、感じることや表現の仕方が自然と変わってきます。

私が子どもたちと接していていつも感じるのは、「正解はひとつじゃない」ということです。中にはすぐに「これでいいの?」と聞いてくる子もいますが、身体表現には正解はありません。自分で見つけ、自分なりに完成させていくことこそが大切なのだと思っています。

この絵本を通して、自由に表現することの楽しさを、ぜひ発見してほしいですね。たとえば『なにができるかな?』の最後に出てくるケーキの分け方も、切り方はひとつではありません。「じゃあ、お母さんは4分の1ね」と、それぞれが違う切り方を考えてもいいんです。1ページの中にあるさまざまな情報を使いながら、自分なりに表現していく。そのプロセス自体を楽しんでもらえたら嬉しいです。

―子どもの可能性を引き出すダンス・身体表現の重要性とは?

以前、子どもの運動と記憶の関係について、興味深い実験を行ったことがあります。映像で人の動きを見たあとに、その動きを実際に真似してもらうという実験なのですが、動きだけでなくリズムまで再現して真似ができた子どもほど、その後の記憶成績が高かったのです。つまり、再現して真似ができた子どもたちは、ただ「見て覚える」のではなく、自分の身体を動かしながら覚えていたのです。その記憶がどのくらい長く保たれるのかといった長期的な影響については、まだ十分に明らかになっていませんが、少なくとも記憶の入り方には違いがあることがわかります。一般的に、人が何かを覚えるときは「見る」という視覚情報が中心になりますよね。しかし、この実験では、ダンスのようにリズムを感じながら「身体を動かす」ことで、身体感覚からも情報が入力されていました。視覚と身体感覚という、二つの情報経路を使って覚えることで、思い出すときにも複数の手がかりを使えるようになるのです。

また、ダンスのリズムを理解することには、さまざまな効果があります。たとえばチームスポーツでは、相手のリズムを感じ取ることで戦術を考えたり、自分の身体の動きをより高めたりすることができます。こうした力は、スポーツに限らず、日常の会話や対人関係のやり取りといったコミュニケーションの場面にもつながっていくと考えています。ダンスや身体表現は、子どもが世界と関わるための大切な土台を育ててくれるものだと思います。

―体を動かすことの楽しさを伝えたい

ダンスなどを通して、小さい頃に身体を動かす経験を重ねることは、記憶や体験といった情報の「入り口」を増やすことにつながります。それは結果として、子どもが将来選べる選択肢を広げていくことにもなると思うんです。さまざまな経験を積み重ねながら、大人になったときに「じゃあ自分はこれかな」と思える道が見つかれば、それでいい。私はそんなふうに考えています。だからこそ、研究を通して「ダンスは楽しい」「身体を動かすことは楽しい」と、まずは感じてもらいたいですね。自己表現には正解がありませんし、身体を動かすことは、自分を肯定したり、感情を自然に表に出したりすることにもつながります。ダンスを通して、自分の身体の動きを純粋に楽しむ。その感覚が、子どもたちの中に残ってくれたら嬉しいなと思っています。

 

プロフィール

山本絵里子(やまもと えりこ)
相模女子大学准教授。専門は発達認知科学。子どもの頃の創作舞踊体験と、心理学の世界で出会ったトリたちの「おどり」や乳幼児の「おどり」に魅了され、ダンスの心理学研究を行っている。研究・教育と並行して創作舞踊にも取り組み、心理学と舞踊をつなぐ実践研究に携わっている。博士(心理学)。


書籍情報


総監修: 開 一夫

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146538

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総監修: 開 一夫

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146545

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総監修: 開 一夫

定価
1,760円(本体1,600円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041146552

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