動画? 絵本? 赤ちゃんには何がいい? 専門家が教える、たったひとつの基準<エージェンシー>
「赤ちゃんに動画を見せてもいいの?」「デジタルに慣れさせておくべき?」「やっぱり絵本って大事?」──現代の赤ちゃんは多くのツールに囲まれており、保護者も何にどう触れさせればよいのか悩んでいます。
赤ちゃんの発達認知研究の第一人者であり、「赤ちゃんラボ5.0」代表理事の開一夫先生に、これからの時代の赤ちゃんとメディアの関わり方についてうかがいました。
──デジタルメディアと赤ちゃんの発達との因果関係は、まだわかっていない
赤ちゃんがデジタル機器やスクリーンメディアにどう接するべきか、悩む保護者は多いと思います。ただ、「デジタルだから」「スクリーンメディアだから」よくないという意見は、慎重に考えるべきです。「スクリーンメディアは赤ちゃんに見せないほうがいい」とよく言われますが、どのようなエビデンスに基づいているのかは明確ではありません。
たとえば、北米の低所得世帯の子どもたちが『セサミストリート』から基礎的な知識を得ることで学力が向上したという研究がある一方、ある乳幼児向けコンテンツでは長時間視聴した子どものほうが発達に遅れが生じたという結果もあります。
こうした研究は「スクリーンメディアはよくない」という論調で書かれがちですが、乳幼児期の影響がその後どう続くのかまでは検証されていません。本当のところはまだ誰にもわかっておらず、今後、長期的に研究していく必要があります。
──デジタルネイティブ世代の赤ちゃんは、デジタル機器に慣れておくべき?
保護者が「これがいいからたくさん見なさい」と言っても、プラスには働きません。「勉強しろ」と言っても子どもが勉強しないのと同じです。「パソコンに慣れなさい」と言ったり、逆に「触っちゃダメ」と言ったりするよりも、その子が興味を持てるか、楽しめるかという視点で使わせることが重要です。
──どんなツールを使うにしても、基本は「親子の関係性」
赤ちゃんにとっては、保護者や周囲の人との関わりがとくに重要です。テレビやデジタルメディアに子どもを任せきりにしてしまうと、親子で関わる時間は減ってしまいます。
私の考えでは、デジタルメディアを使うメリットは親側のほうが大きいと思います。たとえば夜中に赤ちゃんが泣いているとき、YouTubeやSNSを見て「この時間に起きているのは自分だけじゃない」と感じられることは、保護者にとって励みになります。デジタルメディアの使用は、赤ちゃんにとってというより、保護者にとってのメリット・デメリットという側面が強いと考えています。
──さまざまなツールを、保護者自身が納得して選んでほしい
テレビやデジタルメディアばかり、あるいは絵本ばかりと、どちらかに偏ることはよくありません。テレビのない時代は、本ばかり読んでいると「外で遊びなさい」と言われたりもしました。時代によって言われることもさまざまです。
少なくとも小さな赤ちゃんについては、保護者がいろいろな意見を検討し、納得したうえで、バランスよく触れさせていくのがよいと思います。現時点で確実に言えるのは、タブレットやスマホを長時間見ていると目が悪くなるということくらい。紙のメディアでも近くで見続ければ同じです。
──絵本と「エージェンシー」の関係とは?
絵本の最大のメリットは、「いつでもどこでも、自分が見たいときに見られる」ことです。自分が触りたいときに触れて、好きなページを何度でも見てよく、自分の意思でページをめくると次のページが現れる。この能動的な体験は、「自分で世界をコントロールできる」という実感を赤ちゃんが初めて得られるものなのです。
主体的に行動する力を「エージェンシー」と呼びます。絵本は自分でめくって好きなところを読めるという点で、まさにエージェンシーを発揮できるものであり、赤ちゃんの認知発達にとって重要です。
現在、子どもの教育では「自分で考えて行動する」ことが基本となっています。かつて麹町中学校で校長を務めた工藤勇一さんも、主体性=エージェンシーを基本に宿題を全廃し、子どもの自律を促していました。エージェンシーを育てることは、赤ちゃんの時期だけでなく、その後の成長過程でも非常に重要です。
「絵本をめくる」という行為にはエージェンシーが発揮されており、とても優れたインターフェースです。見たり聴いたり、触ったり、五感全体を使って楽しめる点もメリットです。ぜひ赤ちゃんのペースに合わせて、一緒に絵本を楽しんでみてください。
また、デジタルメディアを見ながら親子で一緒に話すことにも良い面があります。私たちが行った最近の研究では、きょうだいと一緒にテレビを見ている赤ちゃんは、指さしや発声の頻度が上がるとも言われています。
──赤ちゃんの「エージェンシー」を育む絵本
こうした「エージェンシー」の考え方を基本に作られたのが、「あそびえほん」シリーズです。
めくりたくなる仕掛けや五感を刺激する工夫が詰まっており、赤ちゃん自身が「触りたい」「めくりたい」と思える設計になっています。赤ちゃんの反応を見ながら「次はどうなるかな?」と声をかければ、自然な親子のコミュニケーションも生まれます。
デジタルかアナログかではなく、「主体的に楽しめるか」を基準に──そんなエージェンシーの視点から生まれた絵本です。
──楽しむことが「エージェンシー」につながる
子どもにとって「遊び」はとても重要です。遊ぶとは「主体的に楽しいことをやるぞ」と思って行うこと。保護者が「さあ遊びなさい」と言っても楽しくありませんし、ゲームも「やりなさい」と言われて5時間も続ければ面白くなくなります。主体的にやりたくなることが遊びにとって大切なので、子どもの意思を大事にしてほしいですね。
どのようなツールを与えるにしても、「その子が主体的に楽しめるか」という「エージェンシー」を基本に、取捨選択していただければと思います。
0・1・2歳の生まれもつ力を遊びで伸ばす、年齢別絵本!
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◎ 発達認知科学の専門家が、赤ちゃんの生まれもつ知識の中から大切だと考える5つの分野を選んで開発・監修
◎ お子さんが身体を動かしたり、保護者の方とやりとりを楽しんだりできる、発達に沿った「参加型の遊び」
◎ お子さんが自分でめくれる・あそべるサイズ! お出かけのおともにもぴったり
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プロフィール
開一夫(ひらき かずお)
1963年富山県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授。乳幼児の心理や行動、脳の発達過程について科学的なアプローチに基づく「赤ちゃん学」を専門とし、赤ちゃんラボ5.0を運営。著書に、『赤ちゃんの不思議』、『日曜ピアジェ:赤ちゃん学のすすめ』(岩波書店)、絵本に『もいもい』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。乳幼児向けTV番組の監修として「シナぷしゅ」など、多方面で活動。
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