最近は、大人が読んでもおもしろい絵本や、ママやパパの視点で作られた絵本などが多くあります。
読み聞かせ会では、子どもを連れてパパママも一緒に絵本を見る機会があると思います。そんなせっかくの機会に、育児について考えたり励まされたり、将来の子どもを想像できるような絵本を取り入れてみてはいかがでしょうか?
今回は、子どもたちだけでなくパパママも読み聞かせ会の中で一体となって楽しめて、子どもとコミュニケーションをとるきっかけにもなる絵本を、北海道にある公共図書館の館長・富田歩美さんからご紹介いただきます。
子どもたちと向き合うきっかけとなる絵本
富田歩美さん:読み聞かせ会にはお子さんと一緒に保護者の方もよく参加されます。ですので、時々お母さんやお父さんに向けた絵本もラインナップに混ぜています。「今日はいつも来てくれる方々が多いな、保護者の方がいつもより多いな」と感じる日には、保護者の方も楽しめる絵本を一冊取り入れるのがおすすめです。
今は大人が読んでも楽しい絵本が多くあるので、読み聞かせ会をきっかけに絵本をご自分のためにも手に取ってもらいたいな、絵本を介して子どもと触れ合ってほしいな、コミュニケーションのきっかけになったらいいなと思って読んでいます。
今回ご紹介する絵本は、子どもだけでなく保護者の方にも響くお話なので、ユーモラスというよりはじっくり静かに聞く内容のものが多いです。そうすると子どもと大人で反応する場面が変わってきます。特にお母さんたちが涙を流し、ご自身の育児を振り返っている姿を見ると「あ、ここでぐっとくるんだな」と、子どもたちとの反応の違いに毎回あたたかい発見があります。
おかあさんのこと好きすぎちゃって。『ぼくおかあさんのこと…』
ぼくはうさぎの男の子。そして、おかあさんのことがキライです。だって日曜日の朝はいつまでも寝ていてねぼすけだし、ドラマばっかり見てマンガを見せてくれないし、すぐ怒るし早くしなさいって言うくせに自分はゆっくりしているし…と、キライな理由はつきませんが、一番キライな理由はというと……。
本当は大好きで仕方がないおかあさんに向かって「キライだキライだ」と、つい言ってしまうぼくの微笑ましさに読み手は笑顔になりつつも、おかあさんのことが大好きで仕方がない仕草には思わずじーんとしてしまう絵本です。
『ぼくおかあさんのこと…』
作・絵/酒井 駒子 文溪堂 1,650円
富田歩美さん:この絵本は男の子が主役なんですが、小さいうちの男の子って、お母さんのことが特別大好きなんですよね。ですが、お母さんたちは日常生活に追われている中で「だいすき」と思ってもらえていることを時々忘れちゃったりもするのかなと思います。そこで、そうした気持ちをちょっと思い出してほしいなと思って読んでいる一冊です。
子どもたちはこの絵本の「おかあさんなんて、キライ」というところで「ぼくもそうだよ?」みたいな顔をしていて、くすっと笑います。ですが、保護者の方は「おかあさんとは結婚できないから」と拗ねちゃうシーンでニヤッとして、お子さんと反応する場面の違いがあって面白いですね。
お子さんたちは、お母さんと結婚したいしお父さんと結婚したいと言うんですよね。でも、このあたりのシーンは物心がついていると苦虫をかんだような顔をします(笑)。
酒井駒子さんの趣のある絵とあいまって、読後は親子でほっこりするような絵本ですよ。
この言葉だけは伝えたい 『あなたのことが だいすき』
ママが赤ちゃんを産み「ああ、ようやく産まれた」と思ったのもつかの間、そこから息つく暇もなく子育てが始まります。
抱っこをするにも緊張し、ちゃんと息をしているか不安な毎日。初めてだらけで何をするにも手探りです。子どもはとってもかわいいけれど忙しい毎日で疲れ果て、わがままを言われたら優しくする余裕がありません。
そんな必死な毎日の中、子どもに真剣に向き合うママたちを肯定しつつ、子どもへ「だいすき」を伝えようと励ましてくれる感涙の絵本です。
『あなたのことが だいすき』
文・絵/えがしら みちこ 原案/西原 理恵子 KADOKAWA 1,320円
富田歩美さん:この絵本はお母さんの視点で描かれた、お母さんに向けた絵本です。
読み聞かせを聞いたお母さんはかなりの割合で泣いちゃいますし、泣いてしみじみしたら家に帰って「また育児がんばろう! 子どもと一緒に生きていこう!」と活力がもらえる作品だと思います。
特におかあさんたちは「洗濯物も ためちゃえばよかった 家事なんて 全部あとまわしにしたらよかった~」という画面にグッとくるようで。
もったいないことしちゃったな、もっと子どもと向き合えばよかったな、と思うようです。
読み聞かせ会にいらっしゃるお母さんたちは、まさに子育て真っ最中ですし、だからこそ日々に余裕のないことが多いです。
だからこそ、この絵本を読んで「そこまで子育てを完璧にしなくてもいいんだ。その分、子どもと向き合おう」と肩の力を抜いてもらえたらいいなと思って読んでいます。
読み聞かせで泣いているお母さんを見て、子どもたちは「お母さんもこの絵本みたいだったの?」と思うのか不思議そうに顔を見つめるんですよね。そうして子どもは絵本を通じてお母さんのことを知り、お母さんは子どもとしっかり向き合おうと決意を新たにできるのかなと感じています。
あんなにあんなに小さかった子が…… 『あんなに あんなに』
子どもは、あんなに欲しがっていたおもちゃにあっという間に飽きてしまったり、あんなに元気だったのにすぐ熱を出したり、子育てをしていると「あんなに」な体験がたくさん。そして「あんなに あんなに」あわただしく過ぎていった子どもとの日々も、気づいたら「もう こんな」に大きくなってしまっていて……。
毎日がドタバタの繰り返しに思えた子育ても、気づけば一つ一つがかけがえのないキラキラした思い出だったことをお母さんの目線で回想していきます。子育てが過ぎていったお母さんや、いま待ったなしに子育てをしているすべての人に笑いと涙を送ります。
『あんなに あんなに』
作/ヨシタケ シンスケ ポプラ社 1,320円
富田歩美さん:この絵本は子どもとの本当によくある日常を、ヨシタケシンスケさんが描いているのがとてもユーモラスです。騒がしかったのにいきなり熱を出して、さらにお母さんにもうつっちゃったとか本当によくありますよね。
『あんなに あんなに』(ポプラ社刊) 著/ヨシタケ シンスケ
そんな日常を描きつつ、さらにその子が成長してお孫さんを連れてくるところまでのストーリーなので、お母さんたちも子育ての将来的なイメージがわくと思います。
子どもの成長を想像しながら涙ぐんだあと、お母さんたちが一番笑うのが、お母さんの視点で見た「あんなに わかかったのに もうこんな」のシーンです。
『あんなに あんなに』(ポプラ社刊) 著/ヨシタケ シンスケ
「子どもが成長した=私も年を取る」ということがズバリと描かれていて、お母さんたちも泣き笑いです。
子どもたちにこの絵本を読むと、子ども時代のシーンでけっこう反応があって「お母さんはこんな風に自分を育ててくれたんだな」と思っている様子ですが、お母さんやお父さんたちは、最初は笑っていたのにどんどんしんみりしていって、将来の我が子を想像して遠い目になっていきます。
ヨシタケシンスケさんなので、ユーモラスでありつつ不意打ちでグッと感動がくるので泣いてしまう保護者の方も多いですよ。
子どもと、とことん遊びつくそう! 『ピッツァぼうや』
ピートは雨が降ってきて友だちと外で遊べないので、ご機嫌ななめ。おとうさんは、そんなピートを見て「ピートでピッツァをつくったら たのしくなるかもしれないぞ」と思い立ち、ピートをキッチンテーブルにのせてこね始めました。ピートを引っ張ったり伸ばしたり空中にとばしたり、おとうさんはピッツァ生地になったピートと一緒に全身で遊びます。
ご機嫌ななめだったピートも笑い出し、見ている読者もとっても楽しそうな2人の遊びに引き込まれます。体全体を使ったおとうさんならではの遊びに「まねしてみたい!」と思える愉快な絵本です。
『ピッツァぼうや』
作/ウィリアム・スタイグ 訳/木坂 涼 好学社 1,650円
富田歩美さん:この絵本は、お父さんならではの全身全力を使った遊び方が魅力です。ですので、お家に帰ってそのまましてもらえるといいなと思いながら、子どもだけでなくお父さんに向けても読んでいます。子どもが不機嫌なときは子どもとどう遊んでいいか分からない時もあると思いますが、そうした際のヒントにしてもらえるとよいですね。
特に、子どもをピザ生地に見立てて小麦粉を振りかけたりトマトやチーズをのせたりするまねごとをしているシーンは、子どももお父さん、お母さんもクスクス笑い始めます。
そして、読み聞かせを聞いている全員が「これから何されるんだろう?」と、ワクワクしながら展開を見守ります。ピザをまわすシーンでは、読み手も一緒に絵本を回しながら読んでちょっと遊びを入れることもあります。
とてもユーモラスな絵本なので、その場にいる全員で一緒になって楽しめる絵本です。
子どもの心の声に耳を傾けたくなる 『はやくはやくっていわないで』
絵本の中には小さな船が一そういて、ひとりぼっちで大きな海を進んで行きます。途中、「はやくはやくっていわないで」「どうして いそぐ」「ひっぱらないで」など、小さな船の言葉が続きます。船はその心の声をつぶやきつつ、魚たちの群れの中を進みながら、大きな海にぽつんと浮かびながら、前を向いて進んでいくのです。
小さな船の言葉がまるで子どもたちの心の声のようで、読んだお父さんお母さんをドキッとさせ、「子どもたちの心の声を聞いていただろうか」と考えることにもつながる絵本です。
『はやくはやくっていわないで』
作/益田 ミリ 絵/平澤 一平 ミシマ社 1,650円
富田歩美さん:この絵本は子ども目線で描かれつつ、大人に向けたメッセージも含まれた深い絵本です。子どもたちはまず、絵のシンプルさや大胆な描かれ方に興味をひかれて楽しみますが、お父さんお母さんは、登場する“小さな船”に我が子を重ねて聞いてくれます。
この小さな船は「はやくはやく」と急かされながら、さまざまなことをつぶやきながら進んでいくのですが、保護者の方は日常的に「はやくしなさい」と口にしてしまいがちですよね。
この絵本では「こうしないでおきましょう」というような教訓は一切書かれていないのですが、ストーリーに含まれているテーマ性から一瞬身につまされた顔つきになるのを感じます。読み終わった後には、おうちでゆっくりお子さんの顔を見てもらえたらいいなと思います。
中でも「どうして いそぐ」と問いかけられている画面や「どきどきすると ちいさくなる」の画面は、「もしかして、子どもにそうさせてしまっているんじゃないか」と思うのかドキッとしたような反応があります。
子どもたちは純粋にたくさんのお魚の絵を楽しみながら読んでいますが、お父さんお母さんと子どもとの感じ取り方がこの絵本はずいぶん違うなと思います。
今回ご紹介した絵本は、子どもと一緒にお父さんお母さんもグッとくる絵本ばかりなので、ぜひ保護者の方が多い読み聞かせ会に取り入れていただければと思います。
また、読み聞かせ会の中での順番として『あなたのことが だいすき』や『あんなに あんなに』『ぼくおかあさんのこと…』は、特にじーんとするので「最後にパパママにむけて読みますね」とお話してから読むことが多いです。読み終わった後は余韻を残して静かに終わります。
今、こうして子どもとお話ができたり遊べる時間は、当たり前なようで実は当たり前ではないんですよね。生まれてきた大事なお子さんとの「今」を大事にしていってください、と思っていつもこれらの絵本を読んでいます。そしてそういった思いを、読み聞かせ会のお土産に受け取っていただけるとうれしいです。
<プロフィール>
富田歩美
公共図書館館長。学生時代に図書館司書の資格を取り、公共図書館に勤務する。北海道内の図書館、7館で勤務し、館長として現在5年目。以前、児童書に特化した図書室の立ちあげを経験する。近年、図書館運営に活かすため、絵本セラピスト協会認定基礎絵本セラピストⓇ、JPIC読書アドバイザーを取得。