子どもたちへの絵本の読み聞かせ習慣も浸透し、現代の日本は毎年たくさんの絵本が生み出される絵本大国となりました。そうした中、絵本の主人公も子どもだけではなく、動物や食べ物、身の回りのさまざまなものまで想像豊かに広がり、近年ではさらに進化して「えっ⁉ こんなものが主人公になるの?」とびっくりする絵本も話題となっています。
そうした絵本は表紙を見るだけでも驚いたり笑いがこみあげてきたり、そのインパクトでいろいろな反応を子どもたちから引き出します。
今回は、そんな“おもしろ主人公”が登場する絵本の楽しさを、北海道にある公共図書館の館長・富田歩美さんからご紹介いただきます。
“おもしろ主人公”絵本のふしぎな世界
最近の絵本は、人間やくまさん・うさぎさんといった動物主人公にとどまらず、「本当にこれが主役⁉」とびっくりするような主人公の絵本がたくさんあります。例えば、今回取り上げた絵本の「めんぼう」や「しらす」だったり、「エコバック」が主人公だったり。
そうした「これが⁉」といった驚きが子どもたちのワクワク感をかきたてつつ、お話の世界にぐっと引きこんでいくのが、“おもしろ主人公”絵本の強みです。
ちなみに私は、読み聞かせ会ではこうした絵本を一番初めに読むことが多いです。まだ読み聞かせの場に慣れていない子どもたちに対して「何が始まるんだろう」と思わせて、場を温めることができるからです。また、途中子どもたちが疲れているときに読んでも、驚きでハッと気が引き締まるのでよいですよ。
本当に「こんなものたちが⁉」という主人公たちばかりなので、その驚きを大事にするため、私の場合、最初はあえてそのまま読んで、後から「めんぼうって使ってる?」だったり「シラスは食べたことあるかな?」などと聞いて説明したりもします。
パッと見るだけで目を見開いて驚ける、シュールで強い印象の残る絵本なので、その世界観を子どもたちと一緒に楽しんでみてください。
めんぼうの大行列というシュールな世界 『めんぼうズ』
この絵本は、耳や鼻のお手入れや狭いところのおそうじなど、便利でおうちによくある、あの“めんぼう(綿棒)”が主人公。
深夜、めんぼうのふたが、ぱかっとあくと、ぴょんこぴょんこ飛び跳ねながらどこかに進んでいきます。めんぼうたちは外に飛び出し、道を走り山を越え、いつのまにかたくさんのめんぼうが集まり、ついには崖から海にパララララーとダイビング! いったいどうなってしまうのでしょうか⁉
めんぼう一つ一つに顔がついていて、そのいわゆる“きもかわいさ”もなんだかシュール。その不可思議な世界観から目が離せない絵本です。
『めんぼうズ』
作/かねこまき アリス館 1,540円
富田歩美さん:この絵本は見た目から内容から、とってもシュールすぎて! シュールなきもかわいさといいますか、この小さなめんぼう一つ一つに顔がついているんですが、かわいい顔でもないんですよね。
子どもたちは、この顔を指さして「顔がついてるー!」と大騒ぎします。特に男の子は都市伝説的なものが大好きなので、この絵本への反応の良さは抜群です。
絵本の中では、このネコとめんぼうたちが出てくる場面が一番盛り上がります。
大量のめんぼうたちが「ぴょんぴょこ ぴょんぴょこ」飛び跳ねながら出てくるんですが、それをネコがすごく怖がっているんですよ。それを見て子どもたちも「ネコが! ネコが!」と指さして大興奮します。
こんなシュールな絵本ですが、最後の終わり方はファンタジックで、それもまた不思議な感覚が残ります。絵柄がリアルな分、主人公やお話の流れがシュールでびっくりおもしろい絵本です。
もしも、しらすだったら…って考えたことある? 『しらすどん』
スーパーなどで、パックで売られている“しらす”。ごはんにパラパラとかけるとおいしい“しらすどん”になります。しらすは生まれたての稚魚や小魚のことをさしますが一匹一匹がとても小さくて、それが小さな魚だったことはふだんあまり意識しないかもしれません。
この絵本では、ある男の子が、しらすどんの小さな一匹を残してしまいます。「もし自分が、このしらすだったら……」――残されたしらすの運命や、海で生まれてからしらすどんになるまでの旅を、男の子の視点で体験していきます。
リアルに描かれたしらすの姿から、小さなしらすも一つの生命だったことが伝わります。
『しらすどん』
作・絵/最勝寺朋子 岩崎書店 1,540円
富田歩美さん:リアルなタッチで描かれたしらすの表紙からインパクト大で、図書館に入ってきた時から「なんの絵本だろう?」と、とても興味をひかれました。
小さなしらすの一つ一つがリアルに描かれていて、主人公の子がしらすになっていく展開もとってもシュールに感じるのですが、読んでいくと食育だったり海の環境などにも触れながら「命」について考える真面目なテーマもあったり、いろいろな読み取り方ができます。
「じぶんがしらすだったらって、かんがえたことある?」と語りかけてくる画面があるのですが、その絵がとても迫ってくる感じで、子どもたちも「ちょっと気持ち悪い」などという意見もでてきます。小さなしらすが、ずしんと命の重みを伝えてくるような感覚です。
シュールな見た目がおもしろいだけでなく、命についても考えられるというところが子どもたちにも伝わるといいなと思い読んでいます。
馬と人間が合体しちゃった⁈ 『うまにんげん』
ケンタがいじめっこに追いかけられていると、角の向こうから子馬が猛スピードで走ってきました。「どっしーん!」とぶつかったら、なんと上半身が人間で下半身が馬の「うまにんげん」になっちゃったのです!
最初はイヤだったけど、走るのが速くなっていじめっこにも追いかけられなくなって、ケンタにとってはラッキーです。ですが、残りのケンタの下半身と子馬の上半身は、いったいどうなったのか!?
お笑い芸人・俳優として大活躍の板尾創路さんが作ったへんてこ大爆笑絵本!
『うまにんげん』
作/板尾創路 絵/大串ゆうじ 編/倉本美津留 岩崎書店 1,650円
富田歩美さん:この絵本はもう本当に「ザ・ユーモア」! ストレートに笑いを楽しめる作品です。絵のタッチも漫画チックで子どもたちも爆笑しますし、笑ってくれると読み手もとってもいいですよね。読み聞かせ会に来ている大人も爆笑する、年齢関係なく誰もが理解できる笑いというのがポイントの絵本です。
たたみかけてくる楽しさがあるので、どの画面をめくっても盛り上がりますが、やっぱり最初に男の子と馬が走ってきて。
合体!というところは最初の盛り上がりですね。
本職のお笑い芸人の方が作っているので最後まで笑いのネタがつきず、笑って笑って終わる絵本になっています。新刊絵本を仕入れる選書会議でも見るからに「わ、おもしろそう!」と思い選びました!
うそをつくと鼻毛がどうなる? 『はなげ小学生』
たけしは友だちに「でてるよ」と言われ、鼻毛を鼻の穴に押しこみました。でも、たけしは嘘をつくと鼻毛が伸びてしまうのです。手を洗っていないのに洗ったと言っては伸び、うがいをしていないのに、したと言っては伸び、鼻毛は伸びに伸び、たけしの鼻毛はいったいどうなってしまうんでしょうか?
鼻毛がちょろんと伸びた表紙を見るだけで笑いがこみあげる、爆笑必至絵本です。
『はなげ小学生』
文/すけたけしん 絵/塚本やすし 小学館 1,540円
富田歩美さん:表紙から明らかに「笑わせるぞ!」という気持ちが伝わるユーモラスな絵本なのですが、実はこの絵本は市が選ぶ夏休みの読書感想文推薦図書になったんです。学校の先生と図書館司書たちで「読書感想文や本を読むのが苦手な子でも、こういう読みやすい楽しい絵本を読んでもらって本を読んだり文章を書いたりする練習をしてもらおう!」と相談して、小学校低学年の部の推薦図書になりました。そうした経緯もあり、とっつきやすさや「鼻毛」という子どもの興味を引く身近なテーマなのでおすすめです。
もう最初から子どもたちは「わー鼻毛だ鼻毛だ」と盛り上がっていきますが、やっぱり一番盛り上がる画面はこのビューンと鼻毛がのびにのびちゃうシーンですね。
ここは鼻毛がうずまき状になっているので、読み手も絵本を回して読むとみんな「目が回るー」と大はしゃぎして楽しいです。すべての絵からユーモラスさが伝わって、子どもたちも笑いっぱなしの一冊です。
ぎょうざはなぜ消えた? 『ぎょうざが いなくなり さがしています』
ある日、としおくんは「ぎょうざが いなくなり さがしています」という町内放送を聞き、びっくり! なぜ、ぎょうざがいなくなったのか考えてみました。
水ぎょうざとけんかをして故郷まで仲間に会いにいったかな? 5つのひだがいやになって、春巻きになるために修行をしているのかな? などなど、ありえない想像をしてニヤニヤ。結局ぎょうざはどこに行ってしまったのでしょうか?
「ぎょうざが消えた」理由を想像力豊かにユーモラスに描いた絵本。
『ぎょうざが いなくなり さがしています』
作/玉田美知子 講談社 1,650円
富田歩美さん:こちらは、本屋さんで手に取った瞬間から「すごい! ぎょうざが主役なんだ。探されるんだ!」と思った記憶があります。子どもたちにも好評で、「ぎょうざをたべるんじゃなくて、探すんだ!」と、設定をおもしろがってくれます。
そして、この絵本の楽しいところは、読んでいる間に子どもたちが「ぎょうざがたべたい!」って思い始めるんです。読み終わるとお腹が空く感じになるようで「今日の夜はぎょうざがたべたい」と言って帰っていくのもおもしろいです。
お話としては、ぎょうざが次から次へと変わったことをしていくドキドキワクワク感も楽しめますし、餃子は子どもたちにとっても身近なのでぎょうざの作り方は知っていて、中身の具が出ちゃっている絵は「こんなに中身が出ちゃってたら食べられないじゃん」と突っ込みを入れながらワーワー盛り上がることもあります。
奇想天外な設定にびっくりしますし、ぎょうざがおいしそうでお腹も空いてくる絵本です。
今回ご紹介した“おもしろ主人公絵本”は、シュールだったり一目見て爆笑だったりインパクトの強いものばかり。『うまにんげん』や『はなげ小学生』は小さな子からどんな年代でも分かりやすく大笑いしますし、その他の絵本も、きもかわいさから目が離せなくなるなど強い印象を残します。
私たち図書館司書は毎週「選書会議」を行い、そこでそれぞれの担当者が話し合って図書館に入れる本を決めているのですが、子どもたちはどんな本だったら興味をもってくれるかな? おもしろがってくれるかな? と考えながら、今回のような楽しい世界観の絵本もチョイスしています。
最近の絵本は、私たちの想像を超えてくる、楽しくて目を見張るものがたくさんあります。ぜひ、そんな多種多様な絵本を楽しんでみてください。
<プロフィール>
富田歩美
公共図書館館長。学生時代に図書館司書の資格を取り、公共図書館に勤務する。北海道内の図書館、7館で勤務し、館長として現在5年目。以前、児童書に特化した図書室の立ちあげを経験する。近年、図書館運営に活かすため、絵本セラピスト協会認定基礎絵本セラピストⓇ、JPIC読書アドバイザーを取得。