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子育て・教育

子どものこころを守るために知っておきたいこと


心の傷は、体にできる傷と違って誰の目にも見えません。とくに子どもの場合、その傷の深さや痛みにその子自身が気付いていないことがあります。私たち大人は、その痛みと苦しさに思いを寄せて守ってあげなければなりません。子どもとの関係や接し方に悩んでいる人、自分の子どもが傷ついているのではないかと思っている人など、子どもとかかわるすべての人に向けて、子どもの心を守り、ケアする方法をまとめたのが「子どもの傷つきやすいこころの守りかた」です。

連載第4回は、『子どものこころを守るために知っておきたいこと 』の中から、『「大丈夫?」には「大丈夫」としか返せない』と『「子どもを変えるぞ!」より「子どもを守るぞ!」と思う』を紹介します。

※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』から一部抜粋して構成された記事です。記事内で使用している写真は本誌には掲載されていません。



 


「大丈夫?」には「大丈夫」としか返せない

 子どもとのかかわりにおいて「大丈夫?」という問いかけをしたことがない人はいないでしょう。全人類が使っていそうな「大丈夫?」ですが、実は私はこの言葉を要注意ワードと認定しています

 私たち大人は、子どもの口から「大丈夫」と聞くと少なからず安心してしまう生き物です。そのため、子どもの「大丈夫」を引き出しやすい「大丈夫?」という問いを多用してしまう傾向にあります。

 その上、自覚なく「大丈夫?」を多用していると、次第に「大丈夫」を聞いて安心したいがために、無意識のうちに語気を強めたり、表情を硬くしながら「大丈夫?」と子どもに聞くようになってしまいます。こうなると、子どもは大人側の意図を敏感に察知し、「大人を心配させないようにしよう」と考え、大丈夫ではないのに「大丈夫」と答えてしまいます。この場合の「大丈夫」は、「大丈夫(って言ってほしいんでしょ?)」といったニュアンスを含むもので、子ども側からすれば、なんとも悲しいコミュニケーションになってしまうことを忘れてはなりません。さらに、子どもが「心配させちゃいけないモード」に入ってしまうと、つらくても自分から周囲へ助けを求めることが難しくなってしまいます。

 もし、子どもが助けを求めていないかを知りたいなら、「大丈夫?」と聞くのではなく、「子どもの状態を見た自分の主観」を伝え、自分ができそうなことを提案したり、助けが必要でないかを率直に聞くのがよいでしょう。自分の安心を得るためではなく、「子どもが何に困っていて、どのような助けを求めているのか」という子どもの心に向けた思いを、「私はこう思うんだけど」という形に落とし込んで、一度だけではなくちょくちょく伝えていくことが大切なのかなと思います。





「子どもを変えるぞ!」より「子どもを守るぞ!」と思う

 私は子どもの支援に燃えてはいますが、熱く燃えすぎないように気をつけています。なぜなら、熱く燃えるような姿勢で子どもとかかわると、子どものためにならない結果になりやすいと経験的に理解しているからです。

 子どもとかかわっていると、「もっとこうしたらいいのに!」と、自分の価値観を押しつけそうになる場面が結構あります。そんなとき、「子どもを変えるぞ!」と熱く燃えてしまうと、「子どものため」ではなく、「自分のため」のかかわりをしてしまうことが起きます。例えば、子どもが「学校に行くのは嫌だ。行けても保健室まで」と言っているのに、「保健室に行けるなら教室にも入れるはず! ○○さんならできるよ!」といった形で、子どもの意向を無視し、自分の意見を押し通してしまうのです。

 そして、これは支援者に限った話ではありません。保護者の方から、「『子どもを変えるぞ!』という熱心な思いから、子どもに無理をさせてしまった」という後悔の念をよく聞きます。さらによく聞くのが、「静かに見守っていればよかった」「子どもの話をもっと聞けばよかった」という反省です。こういった声を聞いているからこそ、「子どもを変えるぞ」と熱く燃えるより、「子どもを守るぞ」と静かに燃えることをおすすめしたいのです。

 熱心に子どもとかかわる姿は、周りからは頼りになる存在に見えるでしょう。しかし、その熱心さは子どもの「こうなりたい」を最大限に尊重しているでしょうか? 子育ても、子どもの支援も、長期戦です。熱く燃えすぎて早々に燃え尽きてしまっては、元も子もありません。子どもの未来を思う私たち大人にできることは、子どもの行く末を照らすように静かに燃え、子どもの「こうなりたい」を尊重して守り抜くことだと思います。





子どもの心も大人の心も守ってほしい

子どもを大人の思い通りにするのではなく、ひとりの人間として尊重し、その傷つきやすい心をどうやって守っていけばよいのか。子どもは大人のどんなかかわり方に安心感を覚え、その安心をベースとして自分なりのチャレンジをしていけるのか……。なかなか難しい問題ですよね。

今日も頭を抱えながら、正解のない子育てに向き合い、泥臭くも一生懸命に子どもを支えている、そんな素敵で最高なあなたに捧げるのが、この本です。お子さん、そしてあなたの心を守ることを願ってやみません。





▼書籍情報▼


著者:こど看

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046065360

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【著者プロフィール】

こど看(kodokan)

精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務しながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
X(旧Twitter) ・  YouTube

 

 

 


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