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子育て・教育

大人のこころだって守らないといけない


心の傷は、体にできる傷と違って誰の目にも見えません。とくに子どもの場合、その傷の深さや痛みにその子自身が気付いていないことがあります。私たち大人は、その痛みと苦しさに思いを寄せて守ってあげなければなりません。子どもとの関係や接し方に悩んでいる人、自分の子どもが傷ついているのではないかと思っている人など、子どもとかかわるすべての人に向けて、子どもの心を守り、ケアする方法をまとめたのが「子どもの傷つきやすいこころの守りかた」です。

連載第5回は、『大人のこころだって守らないといけない』の中から、『「子どもに優しくできない」と悩む人は、子どもに優しくできる人』と『「元気な大人」ではなく「無理しない大人」を目指す』を紹介します。

※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』から一部抜粋して構成された記事です。記事内で使用している写真は本誌には掲載されていません。



 


「子どもに優しくできない」と悩む人は、子どもに優しくできる人

 子どもと毎日かかわっていると、怒ったり、悲しくなったり、ときにはイライラを子どもにぶつけてしまったりして、「子どもに優しくできないな……」と自分を責めてしまうことは結構あります。いや、かなりあります。

 ですが、「子どもに優しくできない」と思い悩んでいるこの状態は、視点を変えれば、「あの言葉がよくなかった」「あのかかわりがよくなかった」と、「子どものために」自分の行動を振り返っている状態でもあるのです。

 私が携わっている子どもの支援の場でも、「子どもに優しくできない」というつらさを訴える保護者の方は多く、「どうすればいいでしょうか」という相談を受けることがあります。しかし、そのような保護者の方に詳しく話を聞いてみると、子どもとの何気ない日常会話や生活において、多くの場面で「子どもに向けた優しい行動」をしていることがわかります。
 それなのに、相談される保護者の方は「怒鳴ってしまった」「冷たい態度を取ってしまった」「優しい言葉をかけられない」と、ネガティブな場面ばかりについて話されることが多く、子どもに向けた日々の小さな優しさについては語られません。

 このような悩みを抱える保護者のみなさんに毎回伝えているのは、「子どもに優しくできないな……」と思い悩み、自分が子どもに向ける言動を振り返るその姿勢こそが、「子どもへの優しさ」であるということです。

「子どもに優しくできないな……」というのは、子どものことを思うからこそ出てくる優しい気持ちです。本書では「子どもが今できていることを認めましょう」というお話をしてきましたが、これは大人にも同じことが言えます。今すでにある、あなたから子どもに向けた優しさを認めることから始めましょう。





「元気な大人」ではなく「無理しない大人」を目指す

 いつも元気で、子どもと全力で遊び、子どもの話を常にニコニコと聞く……。

 こんな絵に描いたような子育てができれば誰も苦労しません。そして、このような「元気な大人」を維持しようとがんばることは、子どものためになるとは限りません。「元気な大人」になろうとがんばりすぎると、体力はいずれ尽き、休息にかなりの時間が必要になります。この長い休息の時間は子どもにとって結構不安な時間でもあり、「本当に元気になるのかな?」といった心配をさせてしまいます。

 また、このような「元気→体力切れ→休息」という状態を何度も繰り返していると、いくら大人が元気な状態であっても、子どもは「また体力切れを起こすんだろうな」と、大人の元気度を常に気にしてしまい、遊びも楽しく感じられなくなってしまいます。それに加え、子どもは「いつも元気なのに、今日はどうしたんだろう?」「この前とは違って今日はやけにテンションが高いな……」というように、大人の元気度の落差を敏感に感じ取るため、元気の波が大きければ大きいほど不安になってしまうのです。

 では、どうすればよいのでしょうか。それは「無理をしない大人」を目指すことです。元気な状態であれば、積極的に子どもと遊んでほしいのですが、元気がなくなってきたと感じたときは、「ちょっと楽しすぎて疲れてきたから休憩!」のように、次の遊びやかかわりにつながるように、自分の疲れを子どもに伝えましょう。無理をせず、自分のペースを保っている大人からは元気の波が大きく感じられないため、子どもは不安を感じにくく、結果としてかかわりの中で安心を感じやすくなるのです。

 親であっても、わが子に対して常に元気でいることは難しいものです。だからこそ、「無理しない大人」を目指し、ほどほどでやっていきましょう。





子どもの心も大人の心も守ってほしい

子どもを大人の思い通りにするのではなく、ひとりの人間として尊重し、その傷つきやすい心をどうやって守っていけばよいのか。子どもは大人のどんなかかわり方に安心感を覚え、その安心をベースとして自分なりのチャレンジをしていけるのか……。なかなか難しい問題ですよね。

今日も頭を抱えながら、正解のない子育てに向き合い、泥臭くも一生懸命に子どもを支えている、そんな素敵で最高なあなたに捧げるのが、この本です。お子さん、そしてあなたの心を守ることを願ってやみません。





▼書籍情報▼


著者:こど看

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046065360

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【著者プロフィール】

こど看(kodokan)

精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務しながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
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