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Children & Education

子育て・教育

子どもが「安心感・自己肯定感」を持つためには


心の傷は、体にできる傷と違って誰の目にも見えません。とくに子どもの場合、その傷の深さや痛みにその子自身が気付いていないことがあります。私たち大人は、その痛みと苦しさに思いを寄せて守ってあげなければなりません。子どもとの関係や接し方に悩んでいる人、自分の子どもが傷ついているのではないかと思っている人など、子どもとかかわるすべての人に向けて、子どもの心を守り、ケアする方法をまとめたのが「子どもの傷つきやすいこころの守りかた」です。

連載第1回は、『子どもが「安心感・自己肯定感」を持つためには』の中から、『子どもの「用事がない用事」を大切にする』と『子どもへの敬意を失ったらそこで試合終了かも』を紹介します。

※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』から一部抜粋して構成された記事です。記事内で使用している写真は本誌には掲載されていません。



 


子どもの「用事がない用事」を大切にする

 子どもたちには、「用事がない用事」という大切な用事があることをご存じでしょうか? 大人の目の前に来て歩き回ったり、「ヒマ」と言って突っついてきたり、直球で「用事はない」と言ってきたり。こういった子どもの行動を見ると、「用事がないならちょっとはお手伝いしてよ!」と思ってしまうのですが、この一見意味のない行動こそが、子どもの「用事がない用事」という大切な用事だと理解してほしいのです。

 大人は人とのかかわりに目的を持ってしまいます。それもそのはずで、育児、家事、仕事といった日々のタスクが次から次へとやってきて、自分の時間を確保することすら難しい。そんな中で、子どもの「用事がない用事」の本質に気づくことは難しく、「用事がないなら手伝って」と、子どもとの本当に大事なかかわりを後回しにしてしまいがちです。

 しかし、子どもは用事がなければ大人のもとを訪ねてはいけないのでしょうか? もちろんそんなことはありませんし、本当に用がないのであれば、子どもは大人の目の前にやって来ません。その子は確かに用事がないのだけれど、あなたのそばにいたいのです。そして、あなたと一緒の時間を過ごしたいと思っているのです。こういった複雑で純粋な思いを、子どもたちは「用事がない」と、不器用にあなたに伝えているかもしれません。

 子どもが「ヒマ」と言ってあなたを突っついてきたら、門前払いすることはおすすめしません。時間に余裕がないときは、「あと○分くらいでヒマになるよ〜」と自分がいつ手が空くのかを具体的に伝えるのがよいでしょう。子どもの「用事がない用事」をていねいに受け止めて返事をするということは、その子の気持ちをていねいに受け止めるということでもあると思うのです。





子どもへの敬意を失ったらそこで試合終了かも

 私は子どもを支える支援者のひとりとして、そして親のひとりとして、どんなときでも、子どもへの敬意を失ってはいけないと思っています。なぜなら、子どもへの敬意がないと、子どもへのかかわり方が支配的· 攻撃的なものになり、子どもとの関係性が崩れる可能性が高くなるからです。

 子育てや支援の現場でも、「子どもだから」とか、「子どもに舐められてはいけない」といった、「大人の立場が上で、子どもの立場は下」とも受け取れるような言葉を耳にすることがあります。おそらくその背景には、「子どもの前で恥をかきたくない」といった不安や、「子どもとのかかわりにそこまで時間をかけられない」といった現代の育児環境が影響しているのかもしれません。しかしこのような姿勢でいると、子どもを従わせるような強い言葉や強い態度を用いた「雑なかかわり」になりやすく、子どもとの信頼関係を崩し、子どもの大人への不信感をより強くさせる結果につながりかねません。

 特に親子の関係となると、自分と子どもが同じ存在のように感じるほど密接して生活しているので、悪い意味で親子という関係に甘えてしまい、子どもへの敬意そのものを失いやすくなります。長く深い、親子のような関係こそ、相手への敬意を払ったかかわりを普段から意識することが大切です。

 子どもをひとりの人間として尊敬し、敬意を払ってかかわることで、子どもは「自分を尊重してくれる大人がいる」と実感できます。その実感は、子どもが「自分は大切にされてもいい存在なんだ」「自分は守られるべき存在なんだ」と自分に向けた敬意を持つきっかけになるかもしれません。子どもへの敬意を失わないためにも、最後に私からひとこと。子どもへの敬意を失ったら、そこで試合終了かもしれません。





子どもの心も大人の心も守ってほしい

子どもを大人の思い通りにするのではなく、ひとりの人間として尊重し、その傷つきやすい心をどうやって守っていけばよいのか。子どもは大人のどんなかかわり方に安心感を覚え、その安心をベースとして自分なりのチャレンジをしていけるのか……。なかなか難しい問題ですよね。

今日も頭を抱えながら、正解のない子育てに向き合い、泥臭くも一生懸命に子どもを支えている、そんな素敵で最高なあなたに捧げるのが、この本です。お子さん、そしてあなたの心を守ることを願ってやみません。
 





▼書籍情報▼


著者:こど看

定価
1,540円(本体1,400円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046065360

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【著者プロフィール】

こど看(kodokan)

精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務しながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
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