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動物と一緒に暮らしてみたい…と動物好きなら一度は夢見る世界! でも、実際はどんなことが起きているのか、動物たちのもっとも身近な存在である飼育員さんたちにお話しを伺いました。ご自身も大の動物好きという人気イラストレーター・伊藤ハムスターさんの4コママンガもお楽しみください!
第15回目は「パンダ」について、アドベンチャーワールド(和歌山県)の中谷有伽さん(飼育員歴6年)に教えていただきました。
※マンガの内容は、動物の生態を元にしたフィクションです。
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Q:飼育していて困ったこと、大変なことはどんなことですか?
エサ(竹)の準備
ジャイアントパンダは、とてもグルメな動物で竹を食べる際にはまず匂いを嗅いで美味しいと思った竹だけを食べます。成獣(大人のパンダ)の場合、1頭あたり1日に15〜20kgほどの竹を食べますが、用意する竹の量はその倍以上で1頭あたり40〜60kg。パンダたちはその中から自分の気に入ったものを選んで食べていきます。さらに、私達人間と同様に、個体それぞれに好き嫌いがあったり、日によって気分が違ったりすることもあります。同じ種類の竹でも、葉付きの良し悪しや日に当たって育ったかどうか、葉の色や茎の色など、「今、どのパンダが、どの竹を欲しがっているのか」を見極めながら、与える竹を準備しています。
Q:どのようなことに気を付けて飼育していますか?
①パンダの気持ちになって考え、行動する
パンダ以外もそうですが、動物園に暮らす動物たちは決まったスペースで飼育されており、エサや水が欲しくても私達飼育スタッフがそのスペース内に置かなければ、エサを食べたり水を飲んだりすることができません。動物たちは、言葉を話すことができないので、「今、何を求めているのか」など常にパンダの視点で考えるようにしています。
②命を預かっていることを忘れない
動物園に暮らす野生動物たちは本来、生息地以外にはいないはずです。「野生から預かっている命」であるということを忘れてはいけないと考えています。飼育をする以上、寿命を全うできるように、そして、「幸せ」という感情を持ち合わせているかはわかりませんが、幸せだったと思ってもらえるように、私たちにできることは全て対応したいと考えています。
Q:うれしいのはどんなときですか?
①毎日パンダたちが健康に元気に過ごしてくれるのが一番
毎朝「おはよう」とあいさつをしに行った際に、いつもと変わらず元気に過ごしていることを確認できるととても安心します。美味しそうに満足そうに竹を食べたり、運動場で活発に遊んでいたり、毎日「いつもと変わらない元気な姿」をご来園いただくゲストの皆様にご覧いただけることが一番嬉しいです。
②新しい命の誕生
私は、今までに2回、パンダの出産を見守ることができました。小さな赤ちゃんを、母親が一生懸命に抱き、世話をし、すくすく成長する姿を近くで見守ることができるのは、飼育スタッフ冥利に尽きます。
Q:どれくらい懐きますか?
基本的には懐きません
パンダはイヌやネコのように懐くことは基本的にないです。ただ、嗅覚と聴覚が優れているため、飼育スタッフかそうでないか、識別することはできているように思います。声などを聞き分けているのか、(エサの補充などの際に)大勢のゲストの中で運動場にいるパンダを呼んでも、私達飼育スタッフの近くに来ることは多々あります。
Q:どれくらい賢いですか?
トレーニングをして健康管理に協力してもらっています
どれくらい賢いのかは動物に対して賢いというモノサシはないので、わかりかねますが、パンダに協力してもらいトレーニングすることで、麻酔をかけずに採血や血圧測定などの健康管理をすることができています。私達人間 と同様、それぞれの性格や得意不得意が異なるので、それぞれに合ったトレーニングの計画を立てる必要はありますが、パンダたちに協力してもらうことで、パンダの体にできるだけ負担をかけず、健康管理をすることができています。
Q:一緒に暮らすとしたら…どんなことが起きそうですか?
①病気にならないように要注意
ジャイアントパンダは病気にかかりやすい動物です。特にイヌ科の動物とは狂犬病やジステンパーなど共通の感染症も多いので、私たちパンダの飼育スタッフは家でイヌを飼うことはありません。それ以外にもパンダに感染する病気のリスクは大きいので、自分自身が常に健康でいる必要があります。
② パンダのリクエストに答える竹の確保
前述しましたが、パンダはとてもグルメな動物です。一緒に暮らすパンダが1頭だったとしても、リクエストに応えるためにたくさんの竹を準備しておく必要があります。また、与える竹も泥の汚れがついていたり道路に近いところに生えていると排気ガスの匂いがして食べなかったり、取ってきた竹は野生動物のおしっこやうんちがついてしまって病気につながる可能性があるので、全て水洗いしてから与えるようにしています。これだけ手をかけて準備をした竹も、匂いを嗅いで気に入らなければポイっと捨てられてしまうことも…。それに耐えて、気に入る竹が見つかるまで準備し続けられるメンタルも必要かもしれません。
③複数頭のパンダと暮らす場合、たくさん部屋が必要
野生のパンダは基本的に1頭ずつ単独で生活する動物で、恋の季節にのみオスとメスが出会う生活をしています。複数頭と生活する場合はパンダたちが安心して暮らせるようにそれぞれ一部屋ずつ準備する必要があります。また、とても力が強い動物で、木登りが得意なパンダは鋭い爪も生えています。パンダたちが遊んでいるつもりでも、私たち人間が怪我をしてしまう可能性が高いため、その辺りの安全対策も必要です。アドベンチャーワールドでは、個体の性格などにもよりますが1歳〜1歳半をすぎると同じ部屋に入らず、必ず柵を一枚隔てた「間接飼育」に切り替え、パンダの飼育管理をしています。
④冬でも暖房は使えない
野生のパンダは、1年を通して涼しく、標高の高い山奥に生息しています。夏の暑さは苦手なので、アドベンチャーワールドでも外気温が20〜25℃を超えると外には出さずエアコンの効いた涼しい屋内で過ごせるように環境を整えています。冬の寒さはパンダたちにとって過ごしやすい季節なので、どんなに寒くてもパンダたちのために暖房はつけません。
Q:印象的だったエピソードを教えてください。
一見、どのパンダも同じような顔に見えるかもしれませんが、じっくり観察するとそれぞれに特徴があり、1頭1頭顔も性格も違います。感情表現もとても豊かな動物だと感じて います。美味しい竹を食べていると目を瞑って竹を食べたり、びっくりすると私たちと同じように目を見開いたり、気に食わないことがあると怒っていたり…。「今こう考えているのかな?」と感じ取れる機会も多いです。鳴き声も10種類程度あると言われており、運動場にいるパンダたちからも鳴き声が聞こえてくることがあります。ぜひご来園いただいた際には、運動場にいるパンダたちをじっくり観察してみてください!
アドベンチャーワールド
こちらはでは、現在4頭のジャイアントパンダや、ほかにも陸・海・空の約140種の動物たちが暮らしています。
アドベンチャーワールドHP
〒649-2201
和歌山県西牟婁郡白浜町堅田2399番地
TEL:0570-06-4481
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寄稿:中村 倫也 監修:小菅 正夫 イラスト・マンガ:伊藤ハムスター イラスト:服部 雅人
- 【定価】
- 1,540円(本体1,400円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- A5判
- 【ISBN】
- 9784041140413
中村倫也さんがスペシャルサポーターを務めるイベント
『野生動物と暮らしてみたら展』もあわせてチェックしてください!
©野生動物と暮らしてみたら展