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子どもとのコミュニケーションをおざなりにしないで


心の傷は、体にできる傷と違って誰の目にも見えません。とくに子どもの場合、その傷の深さや痛みにその子自身が気付いていないことがあります。私たち大人は、その痛みと苦しさに思いを寄せて守ってあげなければなりません。子どもとの関係や接し方に悩んでいる人、自分の子どもが傷ついているのではないかと思っている人など、子どもとかかわるすべての人に向けて、子どもの心を守り、ケアする方法をまとめたのが「子どもの傷つきやすいこころの守りかた」です。

連載第3回は、『子どもとのコミュニケーションをおざなりにしないで』の中から、『大人の不機嫌は子どもをいい子にさせる』を紹介します。

※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』から一部抜粋して構成された記事です。記事内で使用している写真は本誌には掲載されていません。



 


大人の不機嫌は子どもをいい子にさせる

 大人の不機嫌は子どもをいい子にさせます。これは、私が児童精神科病棟での臨床経験を10年経た上で実感していることです。

 みなさんに注目してもらいたいのは、いい子に「させる」という部分です。つまり、「大人が不機嫌になると子どもは自然といい子になる」ということではなく、「大人が不機嫌になると子どもはいい子にならざるを得ない」ということを私は言いたいのです。

 例えば、子どもが不機嫌な様子で床にものを投げつけた場面を見たとき、みなさんだったらどのように考えるでしょうか? きっと不機嫌になっている理由を考えるはずです。「友達とケンカしたのかな?」「先生に怒られたのかな?」「テストの点があんまりよくなかったのかな?」など、いろいろな可能性を考えた上で、「何かあったから、この子は今、不機嫌なのね……」と思うのではないでしょうか。

 では、大人と子どもの立場が逆だったらどうでしょう? 大人が床にものを投げつけたとき、子どもは大人と違って「誰かとケンカしたのかな?」などと想像することはできません。真っ先に「自分が悪いことをしたんじゃないか」と思い込んでしまうことが多いのです。どうしてでしょうか? 実はこの違い、大人と子どもの心の成熟度の違いによるものです。

 ここでちょっと変なことをお聞きしますが、あなたは私とは別の存在ですね? そして、あなたはあなたと一緒にいるお子さんとも別の存在ですね? つまり、あなたは「自分はほかの誰でもない唯一無二の存在である」と認識しています。

 この「自分は唯一無二の存在である」という認識は、E・H・エリクソンが提唱した心理社会的発達理論の中で「アイデンティティ」と呼ばれ、このアイデンティティの獲得が青年期(目安は13〜22歳ごろ)に達成されるべき発達課題であるとされています。つまり、22歳以下、特に子どもは「自分は唯一無二の存在である」という認識がまだ十分にできていないということです。我々大人はアイデンティティが確立されているため、「私は私、あなたはあなた」と、自他の境界をはっきりと区別することができ、子どもの不機嫌な様子を見たとしても、「この子の不機嫌はこの子の不機嫌」と捉えることができます。

 しかし、これからアイデンティティを確立していく子どもは、自他の境界をはっきりと区別することができないため、目の前の大人の不機嫌をあたかも自分の問題かのように感じ、「自分が悪いことをしちゃったから不機嫌になっているのかも……」と思い込むことがあるのです。その結果、「怒られるかもしれない」「見捨てられるかもしれない」といった不安や恐怖を感じてしまいます。

 この状態になると、子どもは「大人から不機嫌を向けられている」という、とってもイヤな状況を回避しようと、一生懸命大人のためにがんばります。それが周りからは「いい子」に見えるのです。しかし実態は、大人の不機嫌によっていい子にさせられているという苦しい状況に置かれているわけです。

 これが、「大人の不機嫌が子どもをいい子にさせる」大まかな流れです。

 問題はもうひとつあり、大人の不機嫌が結果的に子どもをいい子にさせているため、「不機嫌を使うと子どもが言うことを聞いてくれるようになった!」と、大人側の間違った成功体験が積み重なってしまうことがあります。これにより、大人が「次もまた不機嫌を使っちゃおう」と考えて、子どもとのかかわりに頻繁に不機嫌を使うようになると、たとえ大人が上機嫌であったとしても、「今、不機嫌じゃないかな?」「これから不機嫌になりそうかな?」と子どもは常に大人の顔色をうかがいながら自分の行動を決めるようになってしまいます。判断基準が自分ではなく他者になってしまう状態ですね。こうなると、子どもと大人の対等な関係性が崩れ、「おびやかす/おびやかされる」関係に変わってしまいます。

 だからこそ、大人のみなさんには、目の前の子どもがいい子に見えたときこそ、「自分は不機嫌を子どもに向けていないかな?」と自分に問いかけてほしいのです。そして、自分が子どもとのかかわりに不機嫌を使っていないか、定期的にセルフチェックしてほしいと思います。もしも「不機嫌な感じを出しちゃっていたな」と反省したら、子どもに対して誠実に謝りましょう。間違ったことをしたらきちんと謝る大人の姿は子どもにとって糧となりますし、子どもは「大切にされている」と感じられるでしょう。
 





子どもの心も大人の心も守ってほしい

子どもを大人の思い通りにするのではなく、ひとりの人間として尊重し、その傷つきやすい心をどうやって守っていけばよいのか。子どもは大人のどんなかかわり方に安心感を覚え、その安心をベースとして自分なりのチャレンジをしていけるのか……。なかなか難しい問題ですよね。

今日も頭を抱えながら、正解のない子育てに向き合い、泥臭くも一生懸命に子どもを支えている、そんな素敵で最高なあなたに捧げるのが、この本です。お子さん、そしてあなたの心を守ることを願ってやみません。





▼書籍情報▼


児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた

  • 著者:こど看
  • 【定価】1,540円(本体1,400円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】四六判
  • 【ISBN】9784046065360

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【著者プロフィール】

こど看(kodokan)

精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務しながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
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