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子育て・教育

たっぷり遊ぶことが一番大事! 子どもの頃の話を聞かせて!第4回「作家・廣嶋玲子」


「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズや「おっちょこ魔女先生」シリーズなど、多数の人気作をもつ作家の廣嶋玲子さん。心躍るファンタジーで読者を引きつける廣嶋さんは、どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか。好きだった遊びや習い事、作家になるまでのことなどいろいろ聞いてみました。

【プロフィール】
廣嶋玲子
作家。『水妖の森』(岩崎書店)で、ジュニア冒険小説大賞受賞。主な作品に、「おっちょこ魔女先生」シリーズ、『こちら、ハンターカンパニー 希少生物問題課!』(すべてKADOKAWA)、「魔女犬ボンボン」シリーズ、『神様ペット× 幸運のノラネコ』『世界一周とんでもグルメ はらぺこ少女、師匠に出会う』(すべて角川つばさ文庫)、『送り人の娘』『火鍛冶の娘』(ともに角川文庫)、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズ(偕成社)、「十年屋」シリーズ(静山社)、「鬼遊び」シリーズ(小峰書店)がある。

 



野外で、家の中で、たくさん遊んだ子ども時代

 小さい頃から活発でよく遊ぶ子でした。野山を駆けまわったり、海に潜って魚を銛で突いたり……。4、5歳の頃、山のツタにつかまった父の背中におぶさって、「アアア~」とターザンごっこをしたときは、ツタがぶちっと切れて落ちました。幸い下が泥でケガはしなかったんですが、父と私の重みで、胸くらいまで泥に埋まりました。母は外遊びをするとき一緒についてきますが、もちろんターザンごっこは一緒にやりません。私たちを生温かい目で見ていたような気がします(笑)。



 父自身が外遊びで育ったいたずら坊主で、よく野外に連れ出し一緒に遊んでくれたんですよね。自然にも詳しくて「洞窟は絶対入っちゃダメ」とか「川はこういう場所が抉れているから危ない」「離岸流は怖いぞ」とか、色々言い聞かされました。父自身が洞窟で落盤にあったり、海で離岸流に流されて危ない思いをしたことがあるからだそうです。

 そのためか、私が海に入るときは常に腰にロープを巻かれていたんですよ。潜っているとすぐどこに行ったかわからなくなるから、しばらく上がってこないと父がロープを引っ張るんです。せっかく海中で魚を見つけて、銛で突こうとしているのに、波打ち際まで引きずり戻されて憤慨したこともありました。

 激しく外で遊ぶ一方、インドアな遊びも大好き。平日は、学校から帰ってくるとまず1人でじっと本を読むか、それともドールハウスで遊ぶか……。父が日曜大工でドールハウスの建物を、母がカーテンや布団や枕、人形の服などを縫ってくれました。私は紙粘土で人形や家具、調理道具、食べものを作りました。ドールハウスの中はいわば舞台です。ストーリーを頭の中で作り、何時間も集中して遊んでいました。



絵をすみずみまで見るのが好きだった

 幼いときは就寝前に絵本を読んでもらっていましたが、細かい背景に注目して、たびたびページを止めて母に話しかけるので1冊読むのに時間がかかりました。母はそういう娘の時間にできるだけ付き合ってくれました。
 もちろん自分 1人でも絵本をめくっては、エロール・ル・カインの『おどる12人のおひめさま』のお姫様のドレスを1枚ずつ見て、自分だったらどのドレスがいいかを考えたり、銀の森・金の森・ダイヤモンドの森など、細部の描写までじっくり見ていたと思います。バージニア・リー・バートンの『ちいさいおうち』や、グリム童話を描いたバーナデット・ワッツの絵本も好き。母は色彩がきれいなものが好きだったので、母が集めた絵本は美しいものが多かったですね。

 他に好きだったのはアニメ映画「シュレック」の原作者でもある、ウィリアム・スタイグの絵本作品『ものいうほね』『ロバのシルベスターとまほうの小石』など。作品に漂うユーモアと、ストーリーに「悪」がちゃんと描かれているところが好きで「悪者に食べられちゃうかも」とドキドキしながら読みました。

 母は趣味で絵を描く人で、私のために文字のない絵本を作ってくれたりしました。例えば「数」をテーマに、私の好きなものを描き込んでくれるのです。最初は1匹のカマキリがりんごを1個剥いていて、次は2匹のカブトムシがシャボン玉を吹いている。ライオン3匹が歌い、カメが4つの卵から孵化……という風に。母が描いた絵を見るのが好きでしたね。

  • うねる

  • 太古の蛇

  • うねる

  • 太古の蛇

↑ 画像は、廣嶋さんのお母様の作品


 また母には幼稚園の頃から『ホビットの冒険』や「ナルニア国」シリーズといった長編物語を読み聞かせてもらいました。小学生になるとミヒャエル・エンデの「ジム・ボタン」シリーズや『モモ』『はてしない物語』、世界各国の神話や物語などを自分でたくさん読みました。



「遊びが大事」という家庭の方針から育った集中力

 両親は「遊びが大事」という考え方で一致していました。遊びから学び、個性を伸ばすためにも、好きなことに没頭する時間を大切にしてくれました。もちろん食事の時間は守らされましたけれどね。

 習い事は、小学1年生から高校2年生までバイオリンを習っていました。音がきれいだし楽器がかわいいからやりたい、と自分で言い出したのに、練習嫌いで上達しなくて。今思えばもったいなかったと思います。でも「音」は好きになり、大人になってマンドラ(マンドリンより一回り大きく、低い音が出る弦楽器)を習ったときも比較的上達が早かったですね。あと小学生のとき習っていたのは英会話。先生に発音を褒められると嬉しかった記憶があります。昔から褒めてもらえるとやる気が出るタイプでした(笑)。

 子どもの頃は化石発掘家になりたくて、キャンプや海に行ったときに、そのあたりの石を叩き割り「化石が出ないかなあ」と探してみたりもしました。動物が好きだったので、犬や猫を治療する、腕のいい獣医さんになりたいとも思っていました。

 私自身は霊感がないので「いちばん怖かったことは?」と聞かれても、あまり記憶がないですが、「いちばん嬉しかったのは?」と聞かれれば、中学生になって犬を飼っていいというお許しを得たときですね。世話やしつけも自分でするという条件付きだったので、飼う前の半年間、犬について猛勉強しました。図書館で、図鑑から飼い方・しつけの本までありとあらゆる犬の本を借りてきて、犬種によってそれぞれどんな気質があるのか、どの子が飼いやすいか調べて……。あの猛勉強と集中力を、学校の勉強に注入すれば、東大にだって入れたんじゃないかというくらいです(笑)。



作家でいつづけるための努力

「いちばん努力したことは?」と聞かれると……やっぱり作家になるための作品作りです。これほど努力していることは、他にないかもしれません。「作家になりたい」と思い立って小説の応募を始めた当初は落選の連続。書いても書いてもダメで、ボツ回数は100回以上ですし、作家になってから編集者にボツにされたのだって300回以上あると思います。

 ボツになるたびに何がいけないんだろう、何が面白くないんだろうと一所懸命考えて「あっ、結局私は、この作品を本当に面白いと思っていないんだわ」と納得したら、とにかく自分が心から面白いと思えるものを書こうと努力しました。「いつか編集者の誰もが面白い!って唸るものを書いてやるぞ」という気持ちでした。



『はざまの万華鏡写真館』で時の不思議を感じてもらえたら

『はざまの万華鏡写真館』は、ある日ふと通りかかった道で古い写真館に入っていく子どもを見て、「こんなところに写真館があったなんて」と驚いたことから生まれた物語。窓辺に飾られた多数の古いポートレイトに、この人たちはこのときどんな思いで写真を撮ったんだろう……と想像を巡らせました。物語の中で、写真館入り口に咲いているブルンフェルシアという花は、実在の植物です。すごく暑い日、買い物の行き帰りにこの花を見かけ、涼やかな香りにひんやりした心地になって。白と紫、2色の花が同じ木に咲くのが不思議で、いつか作品の中に登場させたいと頭のアイデアの箱に入れました。現世(うつしよ)と幽世(かくりよ)の両方に存在する万華鏡写真館ならば、2色の花が同時に咲いていてもおかしくない。写真館とブルンフェルシアをひとつの物語にしちゃおうと。



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 万華鏡写真館の主人であるリューというキャラクターは、古いカメラと一体になっている男の子のイメージです。体からカチコチと歯車の音が聞こえ、真っ黒な小さなメガネをかけている。その目は実はくるくると色が変わり、妖しく美しい色合いに輝いている……。物語が進むにしたがってリューの存在感も増していきます。リューがお客さまの過去と未来を映し出していく、その物語の中に、読者をそっと引き込めたらいいなと思っています。

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ライター:大和田佳世


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