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生け垣の間にのぞく、月と太陽の模様が刻まれた小さな扉。
この緑色の扉が開かれたとき、あなたは、『写真館』のお客様として迎え入れられる――。
「銭天堂」で大人気の廣嶋玲子さんが贈る最新作、ダークファンタジー『はざまの万華鏡写真館』。
この記事では、本作の魅力を伝えるために、編集者ができる『こだわり』についてご紹介します。
作品の魅力を伝えるために、編集者ができる『こだわり』とは
本作のカギとなるのは、『写真』。
大切な人を撮ったり、おいしいごはんを撮ったり、風景を撮ったり。
スマホを常に持ち歩くわたしたちの生活は、たくさんの写真での記録とともにあると言っても過言ではありません。
でも、写真を撮ることが日常の一動作になった現代においても、『写真館』で撮る写真はやはり特別なもの。
「写真って不思議なものですよね。
撮っているのは現在そのものなのに、
撮った次の瞬間には過去のものとなってしまう。
でも、ひょっとすると、その過去が今度は
未来を紡ぐものとなるかもしれない。
この写真館ではそういう写真をお撮りしているんです。――」
(作中より)
本作は、写真を通して、『日常』と『特別』の間にひそむ、はっとするような真実や、ほんのちょっぴりの毒の余韻が香るダークファンタジーです。
魅力的な言葉でつづられる本作の雰囲気を伝えるために、編集者ができることのひとつが、『造本にこだわること』です。
造本とは?
『造本』とは、書籍の印刷・製本・装丁に関する企画や作業のことを言います。
どんな紙で、どんな印刷で、どんな加工をするのか。その結果、本を手に取った方にどういう印象を与えるのか。作品の魅力を、『本』という物体で伝える手段が、『造本』です。
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『はざまの万華鏡写真館』の造本
本作の魅力のひとつは、色彩の描写です。
生け垣の葉にとけこんで、見落としてしまいそうになる緑色の扉や、白と灰色のレンガ作りの小さな洋館、アンティークのランプが放つ琥珀色の光など、情景がありありと伝わってきます。
その中でも特に印象的なのは、洋館の入り口近くに植えられた、ブルンフェルシアの花の色です。
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写真:PIXTA
ブルンフェルシアの花は、咲き始めは紫色で、次第に白に変化します。紫と白の花が、同じ枝に同時に咲く不思議な木です。
印象的なこの花を、小説の本文ページにあしらうことにしました。
本作は、本文ページもカラー印刷なので、紫色、うす紫色、白色すべての花の色を印刷することができました。
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本文見開きデザイン
花に添えられたデザインは、セピア色+アンティーク調で、作品のイメージである1920年代イギリスを感じるあしらいにしています。
『造本』を二度味わう
『はざまの万華鏡写真館』を開いて読み始めたばかりの方は、本文の隅で咲くブルンフェルシアの花を見たとき、きっと、『作中に咲く花をあしらったんだな』と思うと思います。
でも、本を読み終わったときに、紫と白のブルンフェルシアの花に対して、いったいどういう思いを抱かれるでしょうか。
造本のこだわりが、読後の余韻にも花を添えることができますようにと願っています。
ぜひ、本をお手に取って、体感していただけたらうれしいです。
▼書籍情報
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