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アニメ絶賛放送中!「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」の著者・廣嶋玲子最新作!『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』が11月26日に発売!新しい魔法のものがたり第1章を公開です!
花丸小学校には、乙千代子先生という保健室の先生がいます。あだ名は、おっちょこ先生。あまりにドジでおっちょこちょいだからです。
でも、このおっちょこ先生は、じつは魔女でした。悪い魔女ではなく、子ども達を魔物から守ったりするいい魔女です。
そして、この秘密を知っているのは、二人だけ。五年生の松谷いさなと雪村千種です。二人はおっちょこ先生によって、この世に魔法と魔物が存在することを知りました。
でも、それは魔女の秘密。
そして、魔女の秘密は、どんなことがあっても人間に知られてはいけないものだったのです。
いさなは目をきらきらさせながら、体育館に立っていました。
今日は終業式。明日からは夏休みです。もちろん、頭の中はこれからの夏休みのことでいっぱいで、壇上にいる校長先生のありがたいお話など耳に入ってきません。
「とりあえず、毎日プールに行くでしょ。それからお祭り。お父さんは海とキャンプに連れてってくれるって約束してくれてるし。夜は花火も絶対したい。あ、今年はスイカを何個食べられるかな? うへへへ」
一方、いさなの相棒の千種も、目をうっとりさせて、これまた上の空でした。
「明日から夏休み。すばらしい。体育の授業がないと思うと、本当に心が軽くなるよ。とりあえず、毎日図書館通いだな。クーラーの効いた図書館で本に囲まれる。ああ、最高だ。むふふ」
そんなこんなで終業式は終わり、今学期最後のホームルームも終わり、いよいよ解散となった時です。
いさなはふと、千種に言いました。
「おっちょこ先生は夏休みをどう過ごすんだろうね?」
「魔女の夏休みか。なにか気になるね。ちょっと聞いてみようか」
保健室の先生、乙千代子先生こと、おっちょこ先生はじつは魔女なのです。ひょんなことからその秘密を知ってしまったいさなと千種は、なんとなくおっちょこ先生のことが気になってならないのです。
「あ、それと、おっちょこ先生にメガネを返さないと」
「ああ、そうだったね。一組の早川さんに憑いていた魔物を捕まえるのに、借りたままだった」
二人はおっちょこ先生に教えてもらったおかげで、世の中には魔物というものがいて、人に取り憑いては悪さをするということを知りました。だから、だれかが急にいつもと違う感じになった時は、おっちょこ先生から魔物を見ることができるメガネを借りて、魔物が憑いていないかを調べ、憑いていたら、それを捕まえるようにしているのです。
二日ほど前にも、急に泣きだすようになった子から「泣き虫」をひっぺがしました。でも、メガネを返すことをうっかり忘れていたのです。
そこで、ほかの子ども達がどんどん家に帰っていく中、二人は保健室に向かいました。
「おっちょこ先生、いるー?」
「入りますよ、おっちょこ先生」
声をかけて保健室に入ると、おっちょこ先生がそこにいました。小柄で、えくぼのかわいいおっちょこ先生は、にこりとしました。
「いらっしゃい、二人とも。今日はどうしたんですか?」
いつものとおりのおっちょこ先生。でも、二人にはなにか引っかかりました。
千種がそっと聞きました。
「もしかして……身代わり先生ですか?」
おっちょこ先生は魔女の用事があって、ちょこちょこ保健室からいなくなることがあるのです。その時は、わら人形に自分そっくりに化けてもらい、身代わりになってもらうのです。
はたして、おっちょこ先生はうなずきました。
「そのとおりです。……どうしてわかりました?」
「うーん。なんとなくです」
「そう。なんか、ちょっと違うなって感じがするんだよね」
「ふむ。その違いとやらをクリアしなければいけませんね。見破られてしまうなんて、身代わりわら人形として失格です」
本物のおっちょこ先生より、身代わりのほうがずっとまじめだなあと、いさなと千種は笑いました