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「銭天堂」シリーズで大人気の作家・廣嶋玲子さんによる、かわいすぎる子犬と女の子の友情物語『魔女犬ボンボン ナコ、こいぬと出会う』が2023年1月25日発売。
ほかの人とちがっても、あたしのパートナーはこの子しかいない! 信じあうコンビの物語冒頭を、ためし読み連載! イラストも満載で、小学校低学年のお子さんにオススメです♪
プロローグ
女の子が一人、ほうきに乗って飛んでいました。
黒いワンピースを着た、十歳くらいの女の子です。
髪は赤毛で、目は若草色。背中にはリュックサックをせおっています。うれしくてたまらない。そんな顔をしながら、女の子はほうきを飛ばしていました。
と、リュックサックからぴょこんと小さな顔がのぞきました。
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「ねえ、ナコ」
「なあに?」
ナコとよばれた女の子は、すぐに答えました。
「もしかして、気分でも悪くなった? ほうき酔いしちゃった?」
「ううん。だいじょうぶだよ。ほうきに乗るのって楽しいね。こういうのって好きだよ」
「よかった! 気に入ってもらえて! これからはいつだってほうきに乗せてあげるからね」
「うん! これからはずっと一緒だもんね!」
「そうよ。これからはなんでも一緒よ。一緒にほうきに乗って、一緒にあそんで。ベッドだって一緒につかおうね」
「あと、ごはんも! ごはんを一緒にが一番大事! ……なんだったら、お肉とデザートはボンボンが食べてあげてもいいよ? そのかわり、ナコは野菜担当ね」
「絶対おことわり!」
「ちぇ~」
「もう! ボンボンがごはんのことなんか言うから、おなかがへってきちゃったじゃない。ああ、今日の晩ごはん、なにかなぁ」
「……ねえ、ナコ。ボンボン、いきなりナコの家に行って平気かな?」
ナコはどきっとしました。ちょっとほうきのスピードを落としながら、ナコは小さな声で聞きかえしました。
「なんでそんなこと思うの?」
「だって、ボンボンのこと、知らせてないんでしょ? ボンボンの分のごはん、あるかな?」
「あ、なんだ。ごはんのこと。……。だいじょうぶよ。うちはだいたい多めに作るから。ごはんのことは心配しなくたって平気。それより心配なのは……まあ、ママたちはちょっとさわぐかもしれないけど。でも、だいじょうぶよ、ボンボン。なんたって、あたしたち、パートナーになったんだから。きっとみんなもわかってくれるから」
だいじょうぶよと、ナコはくりかえしました。
ナコ、子犬を連れ帰る
1 魔女の家
小高い丘の上に家がありました。ずんぐりむっくりとした、古い石づくりの家です。家の前にはすばらしい庭が、裏には畑が広がっていて、色とりどりの野菜や薬草が植わっています。
ここにすんでいるのは、薬作りの名人で、ママ魔女とよばれている魔女マーシア。ママ魔女の三匹の猫、ジュラ、ロラ、ミジー。そして、ママ魔女のむすめ、魔女っ子のナコです。
そろそろ夕食の時間ということで、ママ魔女はいそがしく台所ではたらいていました。猫たちもたなからお皿を出したり、塩コショウやドレッシングをテーブルにならべたりと、お手伝いをしています。
でも、ナコの姿はどこにもありません。
ママ魔女はいらいらした様子で時計を見ました。
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「ナコったら、まだ帰ってこないのかしら? 子犬にみとれて、帰る時間をわすれているんじゃないでしょうね?」
「まあまあ、ママ魔女。ここらじゃ犬はめずらしいんですから。ナコじょうちゃんが夢中になるのもしかたないと思いますよ」
年寄り黒猫のジュラがすかさずママ魔女をなだめました。
今朝、ナコのところに一通の手紙がとどきました。差出人は妖精のウララ。ママ魔女の一家とは昔からのお友だちです。
少し前、ウララの家のコーギーが子犬を産みました。その子犬たちがだいぶ大きくなってきたので、一度見にこないかと、手紙には書いてありました。
魔女の国では犬は本当にめずらしいので、ナコはよろこんで出かけていきました。そしてまだ帰ってこないというわけです。
「このままじゃナコは夕食に間に合わなくなるわねえ」
つぶやくママ魔女に、絹のような長い毛並みがご自慢の灰色猫ロラが、くすくす笑いながら言いました。
「そんな心配は無用だと思いますわ。ナコさんの腹時計はとても正確ですもの。たとえ時計を見るのをわすれていても、腹時計が夕食の時間をしっかり教えてくれるはずですわ」
「たしかに。うちの魔女っ子は食いしん坊だものね」
そう言ったのは虎猫ミジーです。三匹の中では一番若くて、一番体も大きな元気者です。
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猫たちは、ナコのことならなんでも知っていました。なにしろ、生まれたときから一緒にくらしているのです。猫たちにしてみれば、ナコは妹みたいなものでした。
と、ばたんとドアが開く音がして、「ただいま!」と明るい声が聞こえてきました。
「おや、お帰りのようですわ」
「なんかいいことがあったみたいね。声がすごく明るいわ」
「そうね、ミジー。きっと今日はずっと子犬のことをしゃべりまくると思うわ。みんな覚悟しておくことね」
「ああ、いやだいやだ」
ママ魔女たちが笑いあっているところに、ナコが台所に飛びこんできました。若草色の目をきらきらとかがやかせて、ナコはさけびました。
「ママ! ジュラ、ロラ、ミジー! みんな聞いて! あたし、パートナーを見つけたの!」
その一言に、ママ魔女はあやうくフライパンを落としかけました。猫たちもそろって目を丸くします。
パートナーを見つける。
それは、魔女にとっては一大事でした。自分のほうきをえらぶこと以上に、大事なことなのです。この魔女の国にはたくさんの猫がいますが、どの猫でもいいというわけではありません。一人一人の魔女が、「この子こそ私のパートナーだ」と、きちんと心でえらばなければならないのです。
猫?
ええ、そうです。魔女のパートナーになれるのは、猫ときまっているのです。
一人前の魔女への第一歩がはじまったと、ママ魔女は感激で胸がいっぱいになりました。
「うれしいわ! ナコがようやくパートナーを見つけられて。で、どんな子なの? もう家に連れてきたの?」
「うん! 連れてきた!」
「会わせて! 今すぐ会わせてちょうだい!」
「うん。ボンボン。入ってきて」
ナコがよぶと、ころりとしたものが台所に入ってきました。
金茶色の子犬でした。みじかくて太い足に、長い胴。おしりはぷりっとしたハート形。三角の大きな耳をぴんと立て、茶色の目をくりくりさせた、とてもかわいい子犬だったのです。
こおりついているママ魔女たちに、子犬はにこりと笑いかけました。
「はじめまして! ボンボンだよ。ボンボン、ナコのパートナーになったの。よろしくね」
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それからボンボンはくんくんとにおいをかいで、にぱあっと笑いました。
「いいにおい。もうすぐごはん? ボンボン、おなかぺこぺこ。もうすぐ食べられる? ……どうしてだまってるの?」
ボンボンが首をかしげたあとも、ママ魔女と三匹の猫たちはだまっていました。ママ魔女の顔は真っ青になっていました。猫たちの体は細かくふるえはじめていました。
ナコはまずい気配を感じました。今すぐなにか言わなければ。
「えっと……あの、ママたちの言いたいことはわかるけど、その……とにかくこれがあたしのパートナーのボンボンです。これからよろしくおねがいします。ほら、ボンボンも」
「うん。よろしくなの」
ようやくママ魔女が口を開きました。低い低い声でした。
「ナコ……。これは……犬、よね?」
「う、うん。コーギーの子犬、です」
「魔法で変身させられた猫、ってわけじゃないのよね?」
「……正真正銘の子犬です」
しゅんと、その場の空気がしずまりかえり、次の瞬間、大爆発しました。
「だめよ、だめだめだめええええ!」
「ぎゃああああっ! 犬だぁあああああ!」
「ちょ、ちょっと、ママ! ロラたちも! 落ち着いてってば! きゃああっ!」
「うわああ、おもしろい! あそんでるの? これ、なんのあそび?」
なにもわからないボンボンだけが、大よろこびでした。
第2回へ続く(1月25日公開予定)
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
廣嶋玲子さんの本を紹介!スペシャルな情報もあるよ♪
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