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「楽しい」を追求したら、「楽しい」を仕事にできた! ⼦どもの頃の話を聞かせて!第9回「東大卒クイズ王・伊沢拓司」


「全国高等学校クイズ選手権」で2連覇を達成後、「東大卒クイズ王」としてクイズバラエティ番組などで大活躍。現在はクイズプレーヤー、YouTuber、そして株式会社QuizKnockのCEOとして、クイズで学びを楽しくするために活動中の伊沢拓司さん。
どんな難問も、すばやく解答してしまう圧倒的な知識量と、明るくパワフルなパーソナリティーで、クイズ好きの小中学生から絶大な人気を誇っている存在です。
そんな伊沢さんに子どもの頃の話などを聞いてみました。



【プロフィール】
伊沢拓司
1994年生まれ。東京大学経済学部卒業。『高校生クイズ』で史上初の個人2連覇を達成。2016年に東大発の知識集団・QuizKnockを立ち上げ、現在YouTubeチャンネルは登録者数215万人を突破。2019年に株式会社QuizKnockを設立し、CEOに就任。『東大王』『冒険少年』などのテレビ番組に出演するほか、全国の学校を無償で訪問するプロジェクト「QK GO」を行うなど、幅広く活動中。

挫折を通して客観性を身につけた子ども時代

子どもの頃は、本当にごくごく普通でしたね。鉄道が好きだったり、アニメや特撮ヒーロー、そしてサッカーに夢中になったり。変わっていることと言えば、家のベランダから、すぐそばに流れている川にいるザリガニを釣って遊んでいたことくらいでしょうか(笑)。

そんな中で、地元の小学校が県下一のマンモス校になったので、教育のクオリティ低下を懸念して東京都の暁星小学校に通うことになったんです。両親はだいぶ頑張ってお金を集めてくれました。
暁星小の生徒のほとんどは幼稚園に通っていた子ばかりで、僕以外全員、ひらがなが書けたんです。みんなができることができない、というのは、子どもながらに結構ショックで。敗北の原体験として記憶に刻まれていますね。
今振り返ると、自分とあまりにも違う他者ばかりの環境に身を置くことで客観性が育ったという側面もあったかもしれません。

また、電車で通学していたので、その時間で読書をしていました。家にあった歴史の学習まんががきっかけで歴史好きになり、伝記をよく読んでいましたね。放課後はサッカーや水泳、ピアノに硬筆と、結構多く習い事をしていました。小3くらいでだいたい辞めちゃうんですけどね。


画像:PIXTA


中でも硬筆は、唯一自分で「通いたい」と言った習い事でしたね。小学一年生の二学期くらいになると、より客観性が育ってきたこともあって、自分の字が周りにくらべてすごく汚いということに気づいてしまったんです。一学期から続いていた「他人よりできない」という感覚が溜まりに溜まった結果、悔しくてなんとかしたいと親に泣きついて、通うことになりました。結局この硬筆だけは5年生まで続きましたね。

「どうして通い続けていたのか」と、今考えると、自宅から近かったことと、「面倒じゃなかった」ことが大きかった気がします。習慣が続く要因って、意外とそういう些細な心地よさかもしれませんね。
そういう意味では、僕の両親は、子どもに学ぶための環境を用意することが上手でしたね。

子どもにラベルを貼らず、導いてくれた両親

正直に言うと、子ども時代の僕には何もなかったんだと思います。そこそこのレベルで、いろいろなことが好きな子ども、という感じですね。向上心とか、粘りとか、そういうものはなくて、ただやりたいことに飛びついていただけなんです。

鉄道が好きだけど、ビデオを見て名前を覚えるくらい。サッカーも好きで、「将来はサッカー選手になりたい」と言うものの、めちゃめちゃリフティングの練習をするという訳でもない。与えられた環境の中で、たまたまうまくいったものに一時的にハマっただけの小学生でした。

そんな中で、親からは「お前はこうだ」というラベルを貼ったり、枠にはめるということをされなかったので、小さい頃に「自分は○○だから」と思ったことがなかったですね。
なにかが特別にできるわけでもない中で、でも自分のことをなんとも思っていなかったから、様々なことをやってみて、一番うまく言った勉強にハマっていけたんだと思います。自分というものを良い意味でも悪い意味でも評価されずに育ってよかったな、と今になって思います。
もちろん、ゲームをやる時間の制限もあったし、習い事もそこそこあったしで、当時こそ不自由さを感じてはいたんですけどね。


幼少期の伊沢拓司氏


6歳の頃は野球選手、9歳まではサッカー選手になりたい、と思っていました。でも、小3のとき、明らかに自分は周りより下手だということに気づいたんです。好きだけど、上手くはないという状態が、子供ながらになかなか辛くて。
結果「将来の夢は特にないです」みたいなことを言う子供になってました。実際、将来なりたいものも、みんなが語るような夢も他には思いつかないし、かといって「サッカーは諦めた!」みたいな割り切りもできなかったんでしょうね。

いい環境は整えてもらってたんですが、粘り強くないタイプだったから、負けの体験はたくさんあります。悔しさを覚える機会も多かったけど、それが「なにくそ!」みたいなパワーになるのは小6くらいになってからだったかもしれません。

そのあたりも踏まえると、中学受験という体験と、それを経て入学した開成で得た自由が、自分を今の自分にしてくれた、という感じはすごくしています。
ただ、小学生時代に味わった悔しさとかは、意外と覚えていて、後々それをバネにできることもある、自分はそうでした。あんまり悔しさを見せない子でも、もしかしたら後からバーンと伸びることもあるかもしれませんから、働きかけ続けることが大切ですよね……難しいことですけど。

僕は今、大好きなクイズを仕事にすることができていますが、両親にはすごく反対されましたね。大学院まで行かせた子供が大学院中退してYouTuberになってクイズでお金を稼ぐなんて、普通は反対しますよね。
だから、感覚的にもごく普通の両親なんです。親が特殊な教育をしてたとか、凄い方法論があるよとか、そういうことじゃないよというのはお伝えしておきたいですね。突飛なことはせず淡々と、自分にとって良い環境を、できる範囲で整えてくれていたのだと思います。地味ですけど、なかなかできないことですから本当にありがたいですね。


勉強に対するモチベーション、そしてライバル…。中学受験を機に訪れた成長


小学3年生になって、学習塾に通うようになったのですが、その理由のひとつは、放課後の遊び相手が欲しかったからなんですよね。やっぱり自宅から離れた東京都内の小学校に通っていると、帰宅してから遊ぶ友だちがいないんです。保育園が一緒だった友だちも、同じ小学校に通う友だちがいるので…。

そんな状況で通った塾では、苦手な算数の成績は上がらなくても、得意な国語がどんどん伸びて、新しい友だちもできるし、本当に楽しかったんです。
塾で社会科を習い始める4年生になると、歴史好きとか、読書とかが活きて成績が上がって「友だちがいて、いい結果が出せるから楽しい」という、ゲームと変わりない感覚で通えるようになりましたね。まあ、小3で通い始めたきっかけは「模試の成績がいいとゲームがもらえるから」だったんですけどね(笑)。

そんな中でライバルと呼べる存在も現れて、「こいつには負けたくない」という気持ちで勉強についてだいぶ自覚的になった時に、塾長から「君は開成中学を受けるといいんじゃないか」とアドバイスを受けました。その言葉がきっかけで開成中を知り、文化祭などのイベントで学校見学をすることもなく「僕は開成に行くんだ」と思い込んで受験して、合格した感じですね。
むしろ当時の僕のモチベーションは「開成中に合格するぞ!」ではなく、「隣のヤツにどう勝つか」だけでした。


画像:PIXTA


今思えば、自覚的に勉強をコントロールしていたという感じではなくて、やっぱり目の前のことをこなし続けている感じでしたね。だからやりたくないことは嫌々やっているだけで、ゆえに6年生になっても苦手な算数は苦手なまま。ただただ「隣のライバルに勝ちたい」という気持ちで、でも勝つ方法を考えるとかじゃなく、やりたいことをやるだけ。
結果がついてきたのはひたすらに幸運で、環境に恵まれてたなと思います。

塾で一緒だった理系の彼は、算数が得意だけど、国語や社会が苦手で、完全に僕と真逆だったんです。そんな彼が6年生の時、社会の補講を受け始めて、苦手を克服してきたんです。
それを見てようやく「こいつがやってるんだったら、俺もやんなきゃ」と、初めて算数という教科に真剣に向き合う覚悟ができて、自覚的に取り組むようになったんですよ。先生のアドバイスを初めて受け入れてみたりとか。

「彼が一歩先に行ってるから負けられない」「ライバルが頑張っているんだから僕も頑張らなきゃ」と、思える存在ができたことは、人生の上でとても大きなことだったと思います。この時のライバルとは、一緒に開成中・高に通い、僕は東大へ進学した際、彼は筑波大学に行き、今は一緒にQuizKnockで働いています(笑)。

「楽しい」を追求することで出会えた「クイズ」という宝物


中学生の伊沢拓司氏


開成でクイズ研究部に入ったのは、だいぶなりゆきというか、運動部をやめた結果として途中から入れる部活がクイズくらいしかなかったからなんですが、結果的にこれが当たりました。部員も一桁しかいなくて、たまに先輩にも勝てたりする。得意なことはたくさんやりたくなる自分に向いている環境が、そこにたまたまありました。

たまに勝てると、もっと勝ちたくなる。しかも、自分が好きだと思えているものですから、当然受験勉強より真剣にやります。受験での体験も後押しになって、負けから多くを学んで、「負けないようにするにはどうしたらいいか」と自覚的に振り返るようになりました。

ここで、僕は初めて「自分」というものを得た気がするんです。自分をどう律し、高めていくか、そういう意識が身につきました。受験のときにきっかけを掴んだのもよかったですし、「自分」に出会う前の環境がとても良いものだったのは幸運ですよね。ポジティブなマインドでクイズと出会えたので。

毎回、部活に顔を出す度に「次はこうしよう」「これは上手くいったぞ!」という気づきがあって、どんどん自分を高めていく。そんな成功体験を重ねるなかで、どんどんクイズと、自分自身にのめり込んでいったんです。


とにかくクイズに熱中


中学生の頃はクイズ以外にやることがなかったので、クイズにすごく集中していましたし、それ以外には面白い漫画を読んで、アニメを見て、くらいしか望みがなく…人よりいっぱい問題集を読んで、何も考えずに他校に行って部活に参加したりを繰り返していた結果、誰よりも多くの問題に触れたことで勝てていたんです。物量勝負ですね。

ようやく大学生ぐらいになって、初めて様々な知識を俯瞰する力を少しだけ得て、今まで蓄積してきた大量の知識がつながり始めました。教養と呼ばれそうなものになったり、ものを考える力に変換されたりしましたけど、それまではそんなことを考えずにひたすら量をこなして、「僕が一番だ」「勝てなかったらめちゃくちゃ悔しい」と思いながら戦っていましたね。

別にそれが悪いことだとか劣ったことだとかは微塵も思わないですけどね。段階というものがあるし。結局中学生で「自分」を見つけたのと同じで、学んだものがいつ効いてくるかなんてのは人それぞれなんだなと思います。


大学時代のクイズ大会の様子


僕の人生で、ずっと変わらないのは「気持ちいい」「楽しい」を追求してきたこと。幸運にもそれが否定されたり、諦めざるを得なかったりということがなかったので、何かを成し遂げるための方法論や、情熱の飼いならし方を学ぶことが出来たと思います。
失敗の乗り越え方も、楽しいことへの情熱があったからこそ「どうにかして乗り越えたい!」と思いながら学んだことですしね。

僕が中心となって運営している「QuizKnock」は、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信している、エンタメと知を融合させたメディアです。やっぱり、「楽しい」の持っているパワーを僕は信じているので、ひとりでも多くの人を楽しさに巻き込んでいきたいですね。
『QuizKnock クイズで学ぶ47都道府県』『QuizKnock クイズで学ぶ漢字の世界』など、親子で楽しく学べる書籍も刊行しています。楽しい時間を過ごした結果、知識がついていた。そんな体験を僕たちのクイズを通して味わってもらえればうれしいです。

取材・文:中村実香

▼書籍情報▼


著: QuizKnock

定価
1,320円(本体1,200円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784049139655

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著: QuizKnock

定価
1,210円(本体1,100円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784049145199

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著: QuizKnock

定価
1,210円(本体1,100円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784049145205

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