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中学受験・保護者の心構え『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』ためし読み

中学受験・保護者の心構え

保護者の関与する「温度」を事前設定する

保護者サイドが中学受験をスタートさせる前の「決め事」の必要性について説明しましょう。

1点目は保護者がわが子の中学受験勉強にどの程度関与するかということです。小学校2〜4年生で、しかも初めての塾通いであれば、塾の予習や復習を自力で進めるのは難しいでしょう。ですから、最初は保護者が勉強に付き添ったり、宿題の丸付け、学習スケジュールの管理をおこなったりすることもあるでしょう。

しかし、いつまでも「親離れ」あるいは「子離れ」できないと、小学校5年生以降に課される高いレベルの学習に付いていけなくなります。

もちろん、わが子に対して感情的にならない「腕利き」の保護者も中には居て、「良き指導者」として学力伸長の手助けになるケースも観測されます。ただ、そういうタイプの保護者はごく少数です。

話を戻します。保護者にはわが子の中学受験勉強をスタートさせるより前に、大雑把で構いませんので、「いつぐらいの時期から宿題の丸付けを自分でさせていくか」、「どのタイミングで自身の手で学習スケジュールを構築させ、それを実行させていくか」……まずはそれを段階的に決めましょう。もちろん学習状況によって、その目安の時期は前後するでしょうし、その際の微調整は問題ありません。

大切なのは、保護者が直接わが子の中学受験勉強にタッチするその「温度」を事前設定しておくことです。もちろん、ご家庭の諸条件、たとえば、共働き夫婦かそうでないか、保護者が中学受験経験者か否か、などによってこの「温度設定」は変わります。後述しますが、この「温度設定」で通う塾のタイプを絞りこむことだってできるのです。

夫婦の役割分担を決める

2点目は、わが子の中学受験における夫婦の役割分担を明確にすることです。たとえば、母親が中学受験に関与する(塾に慣れるまでの学習管理をおこなったり、塾の保護者会や面談会に参加したり、塾の担当講師とのやりとりをおこなったりする)のであれば、父親は敢えて中学受験からは一歩引いて、いざ何か大きな問題が起こったときに母親の相談役になったり、わが子が学習面でスランプに陥るなどした場合はガス抜きをしたりする、などの務めを果たすと良いでしょう。これが夫婦ともに同じベクトル・熱量で中学受験に「熱く」なってしまうと、わが子が受験勉強の途上で隘路に嵌ってしまったときに、「逃げ場」がなくなってしまいます。いざというときのアジールになることも保護者の大切な役目です。

またシングル家庭であれば、そのアジールを祖父母や自身の兄弟姉妹に求めたり、頼れる塾講師を相談役にしたり、できることはたくさんあるはずです。

「ルート変更」のラインを引く

先ほど、中学受験は「大変」な世界だと申し上げました。正直に打ち明けますが、わたしの塾に通う子どもたちの一部には、中学受験を貫徹することなく、途中でやめるケースもあります。その理由の一つとして筆頭に挙げられるのが、「保護者が思い描いた成績に到達しなかった」というものです。中学受験を始めたばかりのころは、わが子がどれだけ「偏差値」をぐんぐん伸ばしていくか期待に胸が膨らむもの。しかし、学力を飛躍的に伸ばしていく子どもたちがいる一方で、伸び悩む子どもたちもいるのが現実なのです。そもそも「偏差値」は相対評価ですから、誰かが数値的に高くなれば、誰かが低くなるという性質を持ちます

こういう点も勘定に入れつつ、「こうなったら中学受験をやめる」というおおよその基準を事前に考えてほしいのです。これは数値的なものでなくとも構いません。できれば、質量ともにハードなものが課されるようになる小学校5年生以前でラインを決めておくのが望ましいでしょう。

また、中学受験から切り上げることを「撤退」と表現する人がいますが、わが子の前でそんな負の側面の強いことばを使うのはやめましょう。「自分は逃げてしまったんだ」と当人が自信喪失してしまうことにつながるリスクをはらんでいます。

繰り返しますが、中学受験は特殊な世界。地元の公立中学校に進学して高校受験をするのが一般的です。中学受験を途中で断念したからといって、そんなのは負けでもなんでもないのです。

中学受験は子どもたちの「時間」を奪う

中学受験の過程で身につける算数・国語・理科・社会の解答スキルや知識などは、子どもたちの「その後」の学びの土台になります。ですから、受験勉強に打ち込むこと自体、どの学校に合格するか否かにかかわらず、大変意義深いものです。

一方で、中学受験勉強は子どもたちから多くの時間を奪うこともまた真実です。先述のように、特に5、6年生の2年間は「塾中心」の生活になり、習い事の時間を確保するのが難しくなってしまいます。それだけではありません。友人たちと遊ぶ時間、趣味やスポーツに没頭する時間だって奪われてしまいます。

だからこそ、わが子を中学受験の道へ誘う保護者には次のような覚悟を持ってほしいのです。「たとえ、第一志望校でなかったとしても、どこかの中高一貫校には進学させる」ということです。

抽象的で言いたいことが少々わかりづらいかもしれません。こう言い換えてみましょう。「わが子の6年生の(学力的な)数値状況を冷静に捉えて、『挑戦校』『実力相応校』『安全校』を組み合わせて中学受験の本番に臨むべきであり、合格したら進学することをためらわない学校を安全校に組み込むべきである」。わたしが言いたいのはこういうことです。

これは塾講師として「どこでも良いから合格校を確保して『全員合格』を謳いたい」などという我田引水の価値観で申し上げているのではありません。

先ほど言及しましたが、中学受験は子どもたちの膨大な時間を「奪う」ものです。

「このレベルの学校でなければ通う価値がない」などと保護者が判断し、中学受験結果を受けて地元の公立中学校へ進学、高校受験での「リベンジ」を目指すのであれば、またすぐに塾通いをしなければなりません。さらに「このレベルの大学でなければ進学する意味はない」などと保護者は考え、高校入学後にまた塾・予備校に通わせる……。この手の保護者は、中高一貫校はすでに先取り学習をしているため、そこに追いつかなければならないと焦りを覚える傾向にあるでしょうから、こうなるのはごく自然なことです。

もうお気づきでしょう。こうなってしまえば、わが子のティーンエイジは「塾漬け」になります。塾講師が言うのはおかしいかもしれませんが、受験勉強以外のことに専心する機会をこの時期に失う子は「不幸」だとわたしは考えます。そうは思いませんか?

次回『わが子の中学受験塾を探そう』へ続く(5月29日公開予定)

書籍情報


著者: 矢野 耕平 漫画: ぴよとと なつき

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784046070562

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