
中学受験をはじめる前に知っておきたい「60のポイント」を、講師と保護者の視点を持つ矢野耕平先生が実体験をもとにわかりやすく解説します。
家庭のリアルな悩みを描いたマンガとともに、子どもと親が納得のいく選択を重ねながら、後悔のない受験生活を送るためのヒントをお伝えしていきます。
※本連載は『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』から一部抜粋して構成された記事です。
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わが子の中学受験塾を探そう
塾に通うタイミングはいつ?
ここからはわが子が通う「塾」をどうやって選ぶかという話をしましょう。中学受験が盛んなエリアには大中小さまざまな規模の塾がひしめいています。一体、どこがどう違うのかと頭を悩ませてしまいますよね。
まずは、中学受験のための塾通いはいつから始めるものなのでしょうか? この問いへの回答は難しいです。塾での学習をスタートするベストなタイミングは、子どもたちの状況によってさまざまですから。

わたしのX(旧Twitter)アカウント(@campus_yano)の質問機能を活用して、2024年6月に中学受験経験のある子を持つ保護者を対象に回答を募ってみたところ、上の図のような結果になりました(回答総数1735票)。
アンケートの回答結果を見ると、小学校4年生から塾通いを始める家庭が多いことがわかります。一方で、わたしの体感ではありますが、10〜20年前と比較すると、小学校5年生以降にスタートする子どもたちの数がぐっと減少し、3年生以前から始める子どもたちが激増しているように思えます。最近はそうでもないという話を耳にしますが、数年前までは首都圏で難関校合格者を最も輩出する大手塾の一部校舎では、小学校1年生から入塾しないと、席が確保できない (つまり、途中からの入塾が難しい)ため、早期から子どもたちを塾に入れるご家庭が一気に増えたという事情もあるのかもしれません。
早期の中学受験準備の功罪
塾通いは、早期(小学校低学年)のうちからスタートしたほうが有利なのでしょうか。わたしは「その子、ならびにそのご家庭による」と回答しています。
早期からの塾通いで嬉々として学べて、子どもたちがいろいろな知識を自ら仕入れる(たとえば、図鑑や百科事典を調べるなど)姿勢を培うことができれば、早期学習の効果は抜群でしょう。この時期に学びの面白さを堪能できれば、その後学力を伸ばすうえでの大きな原動力になります。
でも、わたしの狭い観測範囲ではありますが、そういう子どもたちはごく一部に過ぎません。ただ、子どもというのは根本的に「新しいことを知るのが好き」だとわたしはみています。だったらどうして早期学習が上手く機能しない子のほうが多いのでしょうか。耳の痛い話かもしれませんが、これは子の特性よりも、その子の保護者の性格が大きな鍵を握るのです。
小学校1、2年生の塾通い。大半の塾では「週1回」であり、授業時間も比較的短く抑えられています。宿題の量だってそんなに多くはありません。保護者がさほど関与しなくても良さそうです。
しかし、塾内テストなどが頻繁におこなわれ、得点や順位が出ると事情が変わってきます。たとえば、小学校で実施されるテストでは毎度のように良い得点だったにもかかわらず、塾内テストでは5割を切る得点率であり、平均点以下になってしまった……。こういう結果を突き付けられると、子どもより保護者のほうが焦ってしまうものです。
そうなると、塾内のテストで良い結果を収めるために一家総がかりで、塾の予習・復習の指導をおこなうことになります。わたしはこの「おうち中受」は上手くいかないケースのほうが多いだろうとにらんでいます。
保護者はわが子の「良いところ」より「悪いところ(理解できないところ)」ばかりに目を向け、叱責するケースがよく見られるように感じています。そして、子どもにとっては本来楽しい、面白いはずの学びが、徐々に辛い、苦しいものになってしまいます。そうなると、「塾に通う」のではなく、「塾に通わされる」ようになってしまいます。これに伴い膨大な知識を吸収するための子どもたちの「内なる器」がキュキューッと狭まってしまうようにわたしには思えてるのです。
このようにわが子をしばりつける可能性をご自身で感じる場合、中学受験のための塾通いは小学校3年生、あるいは4年生からで良いでしょう。ここからだって十分間に合います。