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【放っておくと聞こえに影響することも〜知っておきたい耳の疾患「中耳炎」】「小児科医ツカダ先生に聞く 子どもの病気・ケガ&ホームケア」第5回


 子育てをされている保護者の皆さんは、子どもの成長とともに、実にさまざまな病気やケガがあることを実感しているのではないでしょうか。特に自分で症状が伝えられない小さなお子さんは、急に症状が現れたり、症状が長引いたりしたとき心配ですね。この連載では子どもの病気・ゲガとホームケアについて、現役小児科医として多くの症例を見ている塚田こども医院院長の塚田次郎先生にわかりやすく教えてもらいます。

 第5回の今月は、「中耳炎」について取り上げます。中耳炎には大別して「急性中耳炎」と「滲出性(しんしゅつせい)中耳炎」があります。子どもはカゼから中耳炎に進行しやすいので、見つけ方や予防について知識を持っておくことが大切です。


<これまでの連載はこちらから>

今月のトラブル
【中耳炎】

Trouble
【中耳炎】

 




中耳炎とその種類

 中耳炎は、鼓膜の内側の「中耳」にウイルスや細菌が入って起こる感染症です。中耳とのどは、「耳管(じかん)」という管でつながっていますが、耳管は普段は閉じていて、ものを飲み込む、せきやくしゃみをするときなどに開きます。このとき、カゼなどをひいていると病原体を含んだ鼻水がこの耳管を通って中耳に入り、そこで炎症を起こしてしまうことがあります。これが「急性中耳炎」と呼ばれる状態です。さらに子どもの耳管は、大人より短くて太いので鼻水が通りやすくなっています。「そういえば子どもは大人に比べて、よく中耳炎を起こすなあ」と思いませんか? 耳管の形状だけでなく、鼻をうまくかめずに鼻水をためやすいといったことも子どもに中耳炎が多い原因でしょう。



 また、急性中耳炎を繰り返したり長引かせたりしていると、「滲出性中耳炎」につながる場合があります。滲出性中耳炎は、中耳にさらっとした液体がいつもたまっている状態を指します。急性中耳炎と違って痛みや熱がないために、保護者が気づきにくく、気づいたときには聞こえの状態が悪くなっていることがあるので、こちらにも十分気をつけていただきたいです。次にそれぞれの中耳炎の症状をみていきましょう。



<急性中耳炎>の症状

 ●耳を痛がる
 ●耳がつまっている感じを訴える
 ●耳だれが出る
 ●耳の聞こえづらさを訴える
 ●発熱

 ※乳幼児の場合は以下の様子に注意
 ●急に泣き出す
 ●むずがる
 ●しきりに耳をさわる
 ●耳を引っ張る
 ●頭を振る


 年齢が低い場合は耳の痛みを訴えられないので、不機嫌になったり、しきりに手で耳をかくような動作をするなど、いつもと違う様子が見られることがあります。





〈滲出性中耳炎〉の症状

 ●名前を呼んでも反応がない
 ●発熱や痛みはほぼない
 ●耳をよくさわる


 痛みがないと本人に自覚がなく保護者も気づきにくいですが、呼びかけても答えないようなことがあるときは放っておかず、小児科や耳鼻科を受診しましょう。


中耳炎の治療

〈急性中耳炎
 軽症の場合は、抗菌薬を使わずに様子を見ていきますが、中等症では抗菌薬を内服して、中耳内を殺菌します。痛みや熱があれば解熱鎮痛薬なども併用します。抗菌薬は途中で勝手に服用を中止するときちんと治らず、慢性化したり滲出性中耳炎に移行してしまう原因になりますので、医師の処方通り最後まで服用しましょう。
 内服薬で改善しない場合や、膿がたまるほどの重症の場合は、鼓膜を切開して中の膿を出すことがあります。鼓膜は切開しても、炎症が収まればきちんと再生しますので心配はありません。


〈滲出性中耳炎〉
 軽症であれば特別な治療をしなくても自然に治癒することが多いです。
 しかし、治らない場合には、内服治療を行ったり、鼓膜にチューブを入れて、中耳の換気を促すこともあります。
 経過が思わしくないと、耳の聞こえに影響を与え、時には難聴になることもあります。専門の耳鼻科医によく診てもらうようにしてください。

 


おうちでのケアのポイント

①鼻水がたまったままだと中耳炎が悪化しますので、こまめに鼻をかませましょう。自分でかめない赤ちゃんは、保護者が自宅用の簡易な鼻水吸引器を使ってこまめに吸い取ってあげます。
②痛みを訴えているときは、タオルで包んだ保冷剤などで耳の後ろを冷やしてあげてください。
③痛みがひどいようなら処方された解熱鎮痛薬を使います。
④入浴やシャワー、プールなどは医師の指示を仰ぎましょう。




中耳炎を予防するためには

・鼻のかみ方を練習させる(一度に両方をかむと耳を傷める原因になるので、片方の鼻をおさえて、もう片方から息を出す練習をさせる)
・鼻をかめない乳幼児は、鼻水がたまっているときは専用の鼻水吸引器でこまめに吸い取る
・小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの接種を受けさせる(中耳炎の重症化リスクを下げる)

 中耳炎のほとんどは、カゼをきっかけとして発症します。カゼをひかせないのは難しいとしても、できるだけ感染予防に努めてください。急性中耳炎が多いのは2歳ごろまでです。慢性化したり、滲出性中耳炎に進行したり、重症化したりしないための予防策をとって備えましょう。


中耳炎は難聴のもと?



 子どもの難聴の原因として最も多いものが、3~6歳ごろに多くみられる滲出性中耳炎です。
 やっかいなのが、急性中耳炎では強い痛みがあったり、熱が出たりしますが、滲出性中耳炎ではそれらの症状がほぼないため、本人も保護者も気づきにくいということです。耳が聞こえづらいことが「テレビの音が大きい」「呼んでいるのに返事をしない」「声が大きい」などからわかることもあります。特に乳幼児期は、聞こえが言葉を話す力に直結していく時期ですので、聞こえづらいことにまわりも本人も気づかないままでいると、言語発達の遅れにつながる場合があります。子どもの聞こえに「あれ、おかしいかな?」と思ったら、放っておかずに、まずは耳鼻科を受診するといいでしょう。

 


 



 



【塚田先生プロフィール】

塚田次郎(塚田こども医院 院長)
1981年自治医科大学卒業、同年医師国家試験合格。新潟市民病院にて臨床研修、新潟県立坂町病院小児科勤務を経て、1990年新潟県上越市栄町にて塚田こども医院を開設。日本小児科学会認定医。


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