
子育てをされている保護者の皆さんは、子どもの成長とともに、実にさまざまな病気やケガがあることを実感しているのではないでしょうか。特に自分で症状が伝えられない小さなお子さんは、急に症状が現れたり、症状が長引いたりしたとき心配ですね。この連載では子どもの病気・ゲガとホームケアについて、現役小児科医として多くの症例を見ている塚田こども医院院長の塚田次郎先生にわかりやすく教えてもらいます。
第4回の今月は、「アトピー性皮膚炎」について取り上げます。アトピー性皮膚炎は小児期に多く発症するアレルギー疾患として知られていますが、正しい診断や治療で悪化を防ぐことができます。また、毎日の適切なスキンケアで、普段から皮膚のバリア機能を高めていくことを心がけていきましょう。
<これまでの連載はこちらから>
Trouble
【アトピー性皮膚炎】

アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎とは、かゆみを伴う湿疹が全身のさまざまなところにできて、それが慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。
まだ解明されていないこともありますが、アトピー性皮膚炎を発症する主な原因としては、皮膚の「バリア機能」(外界の刺激、乾燥などから体の内部を守る機能)が低下したところに、食べ物やダニ、ハウスダストなどのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)の侵入といった要因が重なることが考えられています。
やっかいなのは、なんらかの原因で皮膚の働きが弱くなっているところに、掻くという刺激が加わって、さらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ってしまうことです。

アトピー性皮膚炎の診断基準
●皮膚をかゆがっている。または、皮膚を引っ掻いたり、こすったりしている
●特徴的な湿疹が出ている
●乳児期には湿疹が頭、顔から体や手足に広がる傾向がある
●幼児、小児期には湿疹が首、手足の関節に出る傾向がある
●良くなったり悪くなったりを何度も繰り返す
●家族に喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などの
アレルギー疾患の既往がある
といったところを主に診ていきます。まったく別の皮膚病のこともありますので、まずは子どもがかゆがっていたり、顔や体を引っ掻いていたりしたら、皮膚の状態が悪化する前にかかりつけ医や小児科に相談するとよいでしょう。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係
ひと昔前は、アトピー性皮膚炎は食物アレルギーを持っている子どもが発症するものと考えられていました。
がしかし現在では、食物アレルギーはバリア機能が低下している皮膚に食べ物が直接触れ、皮膚からそのアレルゲンを吸収することによって、発症することがあるとわかっています。つまり、湿疹やアトピー性皮膚炎が先にあり、それによって食物アレルギーを起こす場合があるということです。
ですから、皮膚のバリア機能が低下していれば、まずはその対処を開始する方が食物アレルギーの発症を抑制できると考えられます。また、アトピー性皮膚炎を発症していないとしても、普段からスキンケアを正しくすることは、お肌の乾燥を防ぎ、食物アレルギーの予防にもなって一石二鳥です。
さらに必要であれば、アレルギーの原因を把握するために血液検査や、症状の出た食材などを皮膚へ直接入れて反応を検査する「プリックテスト」を行うこともあります。アレルゲンには食物だけでなく、ダニやハウスダストや花粉、動物の毛やフケなどさまざまなものがあります。ただ、血液検査で高めの値が出たら即アレルギーというわけではありませんし、原因には複数の要素がからんでいることが多いので、検査ですべてがわかるわけではありません。

アトピー性皮膚炎の治療は?
症状によって治療の組み合わせは異なりますが、「アレルゲンまたは悪化原因の除去」「薬物療法」「スキンケア」が主な治療法となります。
【アトピー性皮膚炎の治療】
①原因を除去する
ダニやハウスダストなどの環境改善、食物除去(アレルゲン除去食)を行う
②外用薬の使用
ステロイド剤、非ステロイド剤、免疫抑制剤、保湿剤を患部に塗る

③内服薬の使用
抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤(かゆみ止め)、漢方薬を服用する
④スキンケア
清潔、保湿につとめる

⑤悪化因子の除去
皮膚の汚れや汗、皮膚の乾燥、生活環境、ストレス、体調不良などを考慮して改善する
「スキンケア」&「薬」と上手につきあう
大人でもかゆみを我慢するのは難しいのに、子どもにかゆいところをかかないようにさせるのは並大抵のことではありません。
かゆいところを冷やす、清潔にして保湿するなど、かゆくなりにくい状況をできるだけつくってあげることも必要ですが、かゆみがひどいときは、適切な薬をきちんと塗って、皮膚がぼろぼろにならないようにしていくこと、悪化させないことが大切です。

まず、医師と相談して決めた治療法を、ちょっと良くなったからという理由でやめたり、治療の途中で通院をやめたりするのは控えましょう。アトピー性皮膚炎はいったん良くなったように見えたり、急に悪くなったりを繰り返す病気です。症状に一喜一憂せずに、「できるだけ良い状態をキープすること」を心がけてください。
そして、皮膚に刺激の少ない、毎日のスキンケアを習慣にしましょう。アトピー性皮膚炎は、年齢を重ねてあっさりと治っていくこともあれば、症状または治療が長期にわたることもあります。保護者の方も治療に疲れてしまわないように、家族やまわりの人と日頃のケアを共有していくことをおすすめします。
【状態が良いときも悪いときも継続したいスキンケア】
・汗をかく、よだれや食べ物が顔につくなどしたら、すぐにふきとる、または洗い流してそのつど保湿します。
・離乳食期の赤ちゃんの場合は、食事の前にあらかじめ口のまわりにワセリンなどを塗って保護すると、皮膚からのアレルゲン侵入の予防になります。
・石けんやシャンプーはよく泡立てて、手でなでるように優しく洗います。浴用タオルの使用も刺激になるので、体もできるだけ手で洗います。

・石けんが顔や体に残ると肌への刺激や乾燥の原因になるので、ていねいに洗い流してください。
・お風呂のお湯はぬるめを心がけましょう。
・お風呂から上がったら、やわらかいタオルでポンポンと軽くたたくように水気を取り、肌が乾ききる前に保湿剤をしっかり塗りましょう。

・チクチクした素材の衣類は刺激になるので避けます。
・寝るときは、布団のかけすぎや部屋の湿度を上げすぎないように気をつけましょう。
・引っ掻くことを考慮して、爪は短めにして、尖ったところはやすりなどでなめらかにしておきます。


【塚田先生プロフィール】
塚田次郎(塚田こども医院 院長)
1981年自治医科大学卒業、同年医師国家試験合格。新潟市民病院にて臨床研修、新潟県立坂町病院小児科勤務を経て、1990年新潟県上越市栄町にて塚田こども医院を開設。日本小児科学会認定医。