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『メメンとモリ』第16回MOE絵本屋さん大賞2023 第2位 受賞記念 ヨシタケシンスケさんインタビュー


「第16回MOE絵本屋さん大賞2023」で『パンどろぼうとほっかほっカー』に続く第2位を受賞した『メメンとモリ』。「生きる意味とは?」という壮大なテーマに挑み、今回の受賞を果たしています。作者のヨシタケシンスケさんに、受賞の喜びと作品にかける思い、制作の裏側についてお聞きしました。

「二度出会える本をつくりたかった」

――受賞おめでとうございます。

ありがとうございます。僕自身、この作品が上位にきたことに、すごくびっくりしています。『メメンとモリ』は、子どもにとっては難易度が高いテーマだと思っていたので。
 

――「人は、なんのために生きてるの?」というドキッとする問いかけや、「どんなものでも、いつかはこわれたりなくなったりするんだから。」という哲学的な台詞が、『メメンとモリ』には次々とあらわれますよね。

そうですね。だから、絵本というカテゴリーで評価していただいたことが、とてもうれしく、励みになっています。今回、書店員さん自身がおもしろいと感じたことを理由に投票してくれたことが多かったそうで、そのことにも救われました。本のプロである書店員さんと、直接ではないけれども、本や賞を通じてコミュニケーションできて、とてもうれしいです。
 

――『メメンとモリ』は、「子どもが読んでキョトンとする絵本」とのコンセプトでつくられたのですよね。

僕、対象年齢がよくわからない本が好きなんですよ。子どものころに読むと、意味がわからないけど、なんだか気になる。大人になってからもう一度読んで、『あ、こういうことだったのか』とわかる。そういう謎がある本って、記憶に残るんですよね。
僕にも、大人になって謎が解けた本が何冊かあります。一冊の本の中に、わかるところとわからないところが両方あると、大人になって読み返したときに新しい発見ができる。そういう“二度出会える”本を、最近は目指しています。


 

ヨシタケシンスケ流「オチの作り方」

――ヨシタケさんの絵本は、どの本も最後にクスッと笑える要素が用意されていますよね。物語のオチは、どのように考えているのですか?

作家にはいろいろなタイプがあって、バーンとオチを思いつく天才肌の方もいらっしゃいます。僕はそういうタイプではないので、オチは理屈で考えていますね。

おもしろいことって、当たり前のことや常識から「距離がある」ことだと思うんです。多くの人の共通するイメージから離れたとき、人は「おもしろい」と感じるわけです。でも、距離が遠くなりすぎると、意図が伝わらず、おもしろくない。予備知識なしでも理解できて、ホッとできる。ちょうどいい距離感が「いいオチ」なんです。

だから僕は、「普通はこう終わる」という結末を、まずは考えます。そのあと、そこから少しずつ、距離を離していく。たとえば、ものの大きさを変えてみるとか、色を変えてみるとか、シチュエーションを逆転してみるとかね。そうして条件を1つずつ、ずらしていくと、時間はかかるけど、おもしろいオチをつくっていけるんです。
これは、絵本作家になる前、イラストレーターとして鍛えたやり方です。現在も週刊誌で1コマ連載をかれこれ10数年担当しているのですが、その連載では毎回この考え方で描いています。


 

たくさんの選択肢から、いちばん腑に落ちるものを選んでほしい

――『メメンとモリ』は、中学や高校の図書館でもよく紹介されているようです。

僕がいちばん悩んでいた年齢ですね(笑)。いまその年代を過ごしている人たちにとって、何か一つのヒントになればうれしいです。
 

――ヨシタケさんは、「場が荒れないように周囲に気をつかう子どもだった」と、かつてインタビューで話していました。現在よく言われる「空気を読む」ということについて、どう感じていますか?

最近の子は空気ばかり読もうとする、言われた以上のことをやらない、覇気がないという論調がありますが、僕自身、非常にまわりを気にして過ごしてきた子どもだったから、言われる側の気持ちが、ものすごくよくわかるんです。言われたことをすれば、責められることはないし、評価が悪くなることもない。それのどこが良くないの? 空気を読むのは、みんなのためじゃなくて、自分が穏やかでいるため。そう思って選択する人が多いから、時代の空気にもなっているんだと思います。
 ▶ヨシタケさんの子ども時代についてはコチラから 

 

――「選択」という言葉がありましたが、『メメンとモリ』をはじめ、ヨシタケさんの作品では、たくさんの選択肢が表現されていますね。

大人にできることは、「こういう生き方があるんだよ」「こう言っている人もいるよ」と、選択肢を増やすことくらいだと思うんです。人間にはタイプがあって、それぞれのいいところ、悪いところがある。そんな当たり前ともいえる世の中のありようを教えてくれる本があったら、すごく助かったなと、学生時代を振り返って感じます。選択肢はたくさんあるし、その中からいちばん腑に落ちるものを選んでいい。そう伝えられる本を作っていきたいですね。

 

2024年1月24日、第16回MOE絵本屋さん大賞2023の贈賞式が行われました。

  • メメモリ

  • メメモリ

入り口には、1位~10位の受賞作品が並べられています。
 



第2位『メメンとモリ』
ヨシタケシンスケさんへ、記念のクリスタル盾が贈られました。

 



『メメンとモリ』の制作動機や内容についてお話されるとともに、2位に選んでくださった全国の書店員の皆様に感謝の言葉を述べられました。また、MOE絵本屋さん大賞を主催している主催者の方々にも「たくさんの絵本作家や絵本作家を目指す人にとって、目標であり励ましの存在であるこの賞の存在はとても大きい」と、この賞への思い入れを語られていたのが印象的でした。
 



『パンどろぼうとほっかほっカー』(KADOKAWA)で1位を受賞された柴田ケイコ先生と。柴田先生、大賞受賞、おめでとうございます!!
 



全国の絵本屋さんから寄せられた推薦文の中から『メメンとモリ』でベストレビュアー賞に選出されたフタバ図書 TSUTAYA TERA広島府中店の沖野めぐみさんと。沖野さんの素敵なレビューは『MOE』2月号に掲載されていますのでぜひチェックしてみてください!


4年ぶりの開催となった第16回MOE絵本屋さん大賞2023。たくさんの方々のあたたかいお祝いの気持ちにあふれた、どこを見ても笑顔でいっぱいのとても素敵な贈賞式でした。


 

取材・文:三東社
撮影:松本順子


著者:ヨシタケシンスケ

定価
1,760円(本体1,600円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784041133958

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著者プロフィール

ヨシタケシンスケ
1973年、神奈川県生まれ。 筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。 日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書 の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。2023年に絵本作家デビュー10周年を迎えた。


『メメンとモリ』の作品概要&最新情報を紹介中



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