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子どもがひとりのとき、地震がきたらどうする? 『おおじしんから いのちをまもるえほん』清永奈穂先生インタビュー

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今後30年以内に約80%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震。もし子どもがひとりでいるときに大地震が起きたら、どうすればいいのでしょうか? 8月28日発売の絵本『おおじしんから いのちをまもるえほん』の著者・清永奈穂先生に、絵本に込めた思いや家庭でできる備えについてうかがいました。


自分の命を守る大切さを伝えたい

――『おおじしんから いのちをまもるえほん』は、小学校4年生のおねえちゃんと、小学校1年生のおとうとが家で留守番しているときに大地震が起きるお話です。親と離れている設定にしたのはなぜですか?



清永先生:地震はいつ起きるかわかりません。東日本大震災は下校時間に、能登半島地震は元旦でしたが、親が旅館や飲食店、病院などに勤務中で、祖父母と家にいた子どももいました。親子が離れているときに起きる大地震は、子どもにとっても親にとっても大きな不安の種です。お話に出てくる同世代の2人が地震を切り抜ける姿を通じて、子どもたちに自分の命を守ることの大切さを伝えたいと思い、この設定になりました。

――絵本のふたりのどんな行動に注目してほしいですか?

清永先生:絵本では、能登半島地震でも起きたように、大きな揺れがおさまったあと、再び強い揺れがやってきます。



清永先生:最初の揺れが収まっても油断せず、おねえちゃんは家具が倒れない場所へ駆け込んでからだをしっかり守り、おとうとは机の下に潜って机の足にしがみついて揺れに耐えます。まずは安全な場所に素早く移動して、自分のからだをしっかり守るというところに注目してほしいです。



清永先生:絵本ではあえて安全対策をしていない家を舞台にしましたが、子どもが自分の身体を守るためには、日ごろから家の安全対策をして、安全なスペースを確保することが大切です。転倒防止グッズや飛散防止フィルムを活用した安全対策をして、親子で安全なスペースを確認しておきましょう。



ゲーム感覚で訓練できる「地震だ、パン!」

――安全対策のほかに、親子で地震の備えとしてできることはありますか?

清永先生:私がおすすめしているのが、「地震だ、パン!」という訓練です。

①「地震だ!」と叫び、「パン!」と手を叩く

② 8秒以内に安全なスペースを見つけて逃げ込む

(うさぎさんのポーズで安全な場所を探し、ねずみさんのポーズで素早く移動し、かめさんのポーズでからだを守る)

③その状態で1分間じっとする

(10秒くらいからスタートして少しずつ時間を延ばす)



清永先生:突然大きく揺れる地震もあれば、グラグラと少しずつ揺れが強くなる地震もあります。後者では、「8秒以内」に安全なところに移動すると地震発生時のケガや死亡を減らせることが過去のデータからわかっています。しかし、いざというときに揺れが怖くて立ち尽くしてしまうというケースは少なくありません。「地震だ、パン!」をゲーム感覚でくり返し行うと、8秒以内で安全な場所を探して逃げることをからだで覚え、「地震は必ず止まる」という安心感も持てるようになります。

慣れてきたら、「地震だ、パン!」であえて大きな音を立ててみましょう。大きな揺れで家具が倒れたり食器が落下したりすると、驚くほど大きな音がします。空き缶の中にブロックおもちゃを入れて振ったり、椅子をガタガタ動かしたりして、大きな音に耐性をつけておきましょう。

――宿題をしているときや、動画を見てリラックスしているときなど、さまざまなシチュエーションで練習できそうですね。

清永先生:公園で遊んでいるときや、旅行先など、ぜひいろいろなところでやってみてください。最近は、津波リスクのある地域には標識が設置されていますし、災害マップを部屋ごとに備えている宿泊施設も増えています。そうしたものを親子で見ながら、「地震が起きたらここまで津波がくるんだね」「じゃあ避難するならあの高いところかな」など話をすると、いざというときの判断力が育ちます。

通学路と連絡方法は必ず親子で確認を!

――子どもが外出先で大地震に見舞われること考えられます。どんな備えをしておくといいですか?

清永先生:通学路を親子で一緒に歩いて、危険なところをチェックしましょう。同時に、このエリアで地震が起きたら自宅に戻る、このエリアにいるときは学校に避難する、それ以外のエリアでは避難場所に向かうなど、避難先を判断する基準も話し合っておくといいですね。



清永先生:また、大人に助けを求める方法も伝えておきましょう。スクールガードなど信頼できる大人を頼ったり、交番やコンビニエンスストアなどよく知っている場所に駆け込んだりなど、具体的な例を伝えられるといいですね。子どもがひとりでどこまでできるのかは発達具合によるので、わが子にできることを見極めて伝えましょう。

――習いごとなどで電車に乗っているときは、子どもはどう対処するといいのでしょうか?

清永先生:「駅係員の指示に従うこと」「指示が聞こえるように駅係員のそばにいること」を伝えておきましょう。群衆雪崩が起きることもあるので、できるだけ混雑に入らず慌てて逃げないことも大切です。ふだんのルートではひとりで電車に乗れる子どもでも、不測の事態では迷子になるかもしれません。不安がある場合は、「地震が起きたときは必ず〇〇駅の改札にいて」「塾の近くに〇〇公園という避難場所があるからそこで待っていて」などと約束しておくといいですね。約束ごとは、成長とともにアップデートしてください。



――外出先の子どもとの連絡方法については、どんな準備が必要でしょうか?

清永先生:まずは、大地震発生後はスマホがつながりにくくなることを伝え、もしものときは公衆電話を使用できるように準備しましょう。小銭やテレフォンカードを携帯し、よく行くエリアの公衆電話の場所を確認して、公衆電話の使い方を確認しておくといいですね。

また、災害用伝言ダイヤル(171)の使い方は、ぜひ家族で覚えてほしいです。有事の混乱のなかでも使い方を思い出せるように、ふだんから練習しておきましょう。

自分の命を守る力は0歳から育める!

――『おおじしんから いのちをまもるえほん』の親子の再会シーンにはホッとしました。あらかじめ待ち合わせ場所を決めておくことは大切ですね。



清永先生:いざというときの家族の待ち合わせ場所はぜひ決めておいてほしいですね。火事や土砂崩れなどの発生に備えて、自宅や学校から約束の場所にたどり着く道順も、子どもに複数教えておきましょう。ただし、決めごとに縛られると命を失う危険があります。災害発生時の約束ごとを決めるときは、「どんなときでも、命をいちばん優先してね」とセットで子どもに伝えておきましょう。

――絵本では、親子再会後の避難所での生活もリアルに描かれていますね。

清永先生:子どもにとって、突然始まる避難所での生活は大きな衝撃です。あらかじめ子どもたちに避難所での生活を知ってほしいと思いました。とはいえ、読んでつらくなる表現にはしたくなかったので、イラストレーターの石塚ワカメさんと担当編集者さんと何度も表現を話し合いました。



清永先生:避難所に食料や水などの支援物資が届くことは多くの子どもが知っていますが、避難所で誤情報が流れることや避難所での犯罪ということを示した子ども向けの防災本はこれまでほとんどありませんでした。避難所での生活が長期化すると、子どもは避難所で留守番をして親は家の片付けや職場に行くこともあります。残念なことですが、性犯罪が起こりうる状況があるということは知ってほしいと思っています。また、避難所では子どもが大事にしているものの盗難も起きているので、大事なものは見せないということも知ってほしい。この部分も、絵本を通じて多くの方に知ってほしいことです。



――子どもに伝えることがたくさんありますね。子どもが自分の命を守るために自分で考えて行動できるようにするには、どんなことから始めたらいいのでしょうか。

清永先生:私は、子どもが自分を守る力は、0歳から育めると考えています。といっても難しいことをするわけではなくて、子どもと愛着関係を築き、子ども自身が「自分は大切な存在だ」と実感できること。これが、じつはとても大事なのです。危機的状況にあっても、お父さんお母さんがいるところに帰るんだと思える。そうした信頼関係を育むことがもっとも重要です。

――『おおじしんから いのちをまもるえほん』を親子でどんなふうに読んでほしいですか?

清永先生:防災の日や3月11日、保育園や学校で避難訓練があったときなど、防災のことを考えるタイミングに、親子で手に取ってみてほしいですね。地震について子どもたちに伝えたいことを、この1冊にぎゅっと詰め込みました。大きな地震があると火事が発生して煙が立ち上ること、津波の影響で強い刺激臭が起きること、さまざまな国にルーツを持つ人たち助け合って命を守っていくことの大切さなど、お話を通じて少しでも子どもたちに知ってもらえたらと思います。大人と中学生以降の子どもは、巻末の情報ページもぜひ読んでください。そして、いざというときの待ち合わせ場所や連絡方法を確認して、家族で防災について話すきっかけにしてもらえたらと思います。


取材・文:三東社

作家プロフィール

清永奈穂
NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事。株式会社ステップ総合研究所所長。博士(教育学)。非行やいじめ、犯罪、災害などについて研究。自分自身で命を守る力を養うために「自分で考え、自分で判断し、動いてみる」という体験型の学び・教育を推進。全国の自治体や保育・教育施設などで安全教育をおこなっている。主な著書に『あぶないときは いやです、だめです、いきません』、『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』(以上、絵・石塚ワカメ、岩崎書店)など。


 

書籍情報


監修・文: 清永 奈穂 絵: 石塚 ワカメ

定価
1,980円(本体1,800円+税)
発売日
サイズ
B5変形判
ISBN
9784041160060

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