10代、主に「思春期」や「反抗期」と呼ばれる時期にさしかかった子どもたちのこころは、センシティブでこわれやすいもの。
子どもたちとの向き合い方に加え、スマホやSNS・ゲームと課金、不登校・OD(オーバードーズ)・自傷行為など、今どきの子どもたちを取り巻く背景や事例を取り上げ、子どもへの寄り添い方や解決策をやさしく探ります。
連載第5回は、『大人のこころにも十分なケアを』の中から、『大人のこころとからだが疲れ切っていないか』と『子どもに期待してしまう自分を責めなくても大丈夫』を紹介します。
※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 10代のこわれやすいこころの包みかた』から一部抜粋して構成された記事です。
大人のこころとからだが疲れ切っていないか
子どもの将来、親子関係、仕事との両立……。今日もそんな不安を抱えながら子どもを支えている方も少なくないでしょう。しかし、その不安を誰かに相談できるかというと、現代ではなかなか難しいのが実情です。
内閣府の「人々のつながりに関する基礎調査(令和6年)」では、約4割の人が孤独感を抱えていることが示され、特に20〜50代の現役・子育て世代でその傾向が高いことがわかっています。一方、行政やNPOなど公的機関に相談ができている人は7%ほどにとどまり、「どのような支援があるのか知らない」「手続きが面倒」「支援が必要だが、我慢できる程度である」といった理由から、不安を抱えていても支援につながりにくい現状が明らかになっています。
とはいえ、「不安なのは当たり前」と片付けることはできません。不安を抱えたまま子どもに向き合えば、親子どちらにとっても大きな負担となるからです。だからこそ、まずは自分の状態に目を向けることが大切です。起きてから寝るまで、少しでも自分の時間を持てているでしょうか。「休んではいけない」と思い込んでいれば、それは休養が必要なサインです。休むことが不安をやわらげるための第一歩になります。
エネルギーを取り戻したら、少しずつ社会との接点を広げましょう。相談窓口を利用したり、制度やサービスを調べたり、進学や就労の多様なルートを知ることは、不安を整理する助けになります。そして、子どもを新たな視点で見つめ直すきっかけにもなります。「ひとりで抱え込んではいけないよ」と子どもに言っているあなた自身が、ひとりで抱え込んでいないでしょうか。「不安なときもあるけれど、安心できる時間やうれしい瞬間もある」、そんな心の状態を保ちながら、子どもとの関係性をやわらかく変えていけるように、自分のこころとからだに目を向けることから始めましょう。
子どもに期待してしまう自分を責めなくても大丈夫
「子どもに期待し過ぎないほうがいい」と耳にすることはありますが、正直なところ、これはとても難しいことです。子どもを信じているからこそ、「きっとできるはず」と期待してしまうのは、ごく自然なことなのです。だからこそ、「期待してしまった……」と自分を責める必要はありません。期待そのものは、子どもへの信頼の裏返しでもあるからです。
大切なのは、期待を持つこと自体を否定するのではなく、その大きさや伝え方を調整することです。期待値が高過ぎれば「どうしてできないの?」「もう〇歳なのに」と、理想と現実のギャップが大きくなって苛立ちや怒りを覚えやすくなります。逆に期待値が低すぎると、子どもは「期待されていない」「何をしても評価してくれない」と感じ、自尊心や挑戦する気持ちが弱まる可能性もあります。
意識したいのは、「期待のハードルをどう下げるか」という視点です。例えば「今はできなくても、時間をかければ大丈夫」と、ほかの子ではなく過去のその子と今を比べて成長を見守る視点を持ったり、「できたらうれしいけどできなくても大丈夫」と伝えれば、プレッシャーではなく安心として受け取ってもらいやすくなります。
このように期待の伝え方を工夫することで、子どもは「信頼されている」と感じ、保護者も、苛立ちや焦りに振り回されにくくなります。結果として関係は安定し、子どもも自分のペースで挑戦や失敗を経験できるようになります。成長には停滞も後退も含まれます。「自分の子どもへの期待は今どの位置にあるんだろう」と都度見直すことが大切です。子どもへの期待は、あなたが子どもをよく見て、力を信じている証です。どうか「期待してしまう自分」を責めず、その気持ちを子どもとの関係性を育むエネルギーに変えていってください。
自分を責めない、無理をしない
大人が思う以上にこわれやすい10代の子のこころ…。
ぜひやさしく包んであげたいところですが、保護者のみなさんは「全然できていない」とご自身を責めすぎる必要はありません。
ここに書かれていることは、できることだけやってみていただくので大丈夫です!
お子さんも保護者のみなさんも、自分をいたわってくださいね。
【著者プロフィール】
こど看(kodokan)
精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務をしながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。著書に『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』
(KADOKAWA)がある。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
X・YouTube @kodokanchildpsy