10代、主に「思春期」や「反抗期」と呼ばれる時期にさしかかった子どもたちのこころは、センシティブでこわれやすいもの。
子どもたちとの向き合い方に加え、スマホやSNS・ゲームと課金、不登校・OD(オーバードーズ)・自傷行為など、今どきの子どもたちを取り巻く背景や事例を取り上げ、子どもへの寄り添い方や解決策をやさしく探ります。
連載第3回は、『ゲーム、スマホ、SNSとの付き合い方』の中から、『ネットやゲームのルールを守れないのは当たり前』と『実はゲームで自分を保っているのかもしれない』を紹介します。
※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 10代のこわれやすいこころの包みかた』から一部抜粋して構成された記事です。
ネットやゲームのルールを守れないのは当たり前
子どもがいつまでもYouTubeを見続けてしまう。「ゲームは1日1時間」と決めたのに守る日のほうが少ない……。そんなとき、「うちの子は意思が弱いのかな」と心配になる方も多いでしょう。ですが、ご安心ください。そもそもネットやゲームは大人でもやめるのが難しいくらい魅力的なものです。私たちも「今日はここまで」と決めたはずなのに、「あと1話だけ……」とNetflixを見続けて、気付いたら外が明るく、なんてこともあるものです(少なくとも私は)。大人でさえ自分との約束を守るのが難しいのですから、子どもが「おしまいにする」ことが大変なのは当然です。
もうひとつ大切なのが、「守れないルール」を子どもに課していないかを考えることです。児童精神科医の吉川徹先生は、「ネットやゲームについての約束は、子どもが守るものではなく、大人が守らせるものです。少なくともネット、ゲームの世界に出会った初めのうちは、子どもは約束を守れないという前提で関わるのが手堅い方法です」(『ゲーム・ネットの世界から離れられない子どもたち 子どもが社会から孤立しないために』 吉川徹著、合同出版)と話しています。私の臨床経験からも、この言葉には強く共感します。小さな約束を守る経験を積み重ねることが、やがて自己コントロール力を育み、その結果として依存や嗜癖(しへき)の予防につながるのです。
だからこそ、「守れるルール」を優先して設定し、もし守れていないルールが放置されているなら、話し合って現実的な内容に修正しましょう。守れていない約束をそのままにしておくことは、「約束には価値がない」と教えてしまうようなものです。
ルールは子どもを縛るためではなく、子どもが自分をコントロールできるようになるための大切な土台です。一度つくったら終わりではなく、必要に応じて何度も見直し、子どもが「守れた」と思える経験を積み重ねていくことが大切なのです。
実はゲームで自分を保っているのかもしれない
ゲームに夢中になっている子どもを見ると、「ゲームばかりしていて大丈夫かな」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
かつて「ゲーム脳」という言葉が注目され、「ゲームをすると脳が萎縮する」といった説が広まりました。近年でも、香川県のネット・ゲーム依存予防対策学習シートに「脳への影響」を示す図が掲載されていましたが、こうした情報は科学的根拠に乏(とぼ)しいとして専門家の批判を受け、2025年に見直されました。このように、今では「ゲームが脳を壊す」という考え方は、医学的にも教育的にも否定されています。
だからといって、大人が子どものゲーム時間を心配する気持ちが間違っているわけではありません。大切なのは、「ゲームをしていること」そのものではなく、「その子はゲームをすることでどうなりたいのか」という視点で状況を観察することです。
現実の中で苦しさを抱えていたり、学校や家庭に安心できる居場所がないとき、子どもはゲームの世界に居場所を見いだし、心を保とうとすることがあります。学校でいじめを受けたり、家庭で?責や無関心、暴力・暴言などの虐待にさらされたりする中で、唯一安心できる場所としてゲームが存在しているのかもしれないということを忘れないでほしいのです。私自身の経験でも、「〝ゲームにハマっているから〞学校に行けない」というより、「〝学校が苦しい場所になっているから〞居場所を求めてゲームをしている」という子どものほうが圧倒的に多いと感じています。
だからこそ、「何時間やっているのか」だけではなく、「その子にとってゲームとは何か」に目を向けつつ、どんなゲームをしているか、オンラインで誰と遊んでいるか、ゲームをすることでどうなりたいのか……、そのように目と耳を傾けてみましょう。もしかしたら、ゲームがその子の今を保ち、救っているのかもしれないのですから。
自分を責めない、無理をしない
大人が思う以上にこわれやすい10代の子のこころ…。
ぜひやさしく包んであげたいところですが、保護者のみなさんは「全然できていない」とご自身を責めすぎる必要はありません。
ここに書かれていることは、できることだけやってみていただくので大丈夫です!
お子さんも保護者のみなさんも、自分をいたわってくださいね。
【著者プロフィール】
こど看(kodokan)
精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務をしながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。著書に『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』
(KADOKAWA)がある。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
X・YouTube @kodokanchildpsy