10代、主に「思春期」や「反抗期」と呼ばれる時期にさしかかった子どもたちのこころは、センシティブでこわれやすいもの。
子どもたちとの向き合い方に加え、スマホやSNS・ゲームと課金、不登校・OD(オーバードーズ)・自傷行為など、今どきの子どもたちを取り巻く背景や事例を取り上げ、子どもへの寄り添い方や解決策をやさしく探ります。
連載第2回は、『親子の間にやさしい境界線を引く』の中から、『ほどよい距離感を保つために「バウンダリー」を意識しよう』と『どんなときも守るべきは「子どもの権利」』を紹介します。
※本連載は『児童精神科の看護師が伝える 10代のこわれやすいこころの包みかた』から一部抜粋して構成された記事です。
ほどよい距離感を保つために「バウンダリー」を意識しよう
私たち大人は、「子どもとなんでもわかり合いたい」と願ってしまうものです。けれども、たとえ親子であっても同じ感情を持つことはできませんし、感じ方や考え方、「こうありたい」という願いは、それぞれに違っていて当然です。
この違いを認め合うために必要なのが「バウンダリー」という考え方です。バウンダリーとは、「私は私、あなたはあなた」と互いを区別する境界線のこと。これは子どもとのかかわりに限らず、大人同士の関係にも当てはまるもので、決して冷たく突き放すためのものではなく、「私とあなたは別の人間だよね」と尊重し合う姿勢を前提にした、温かいかかわりの土台になる大切な考え方です。
では、実際にどう役立つのでしょうか。例えば、子どもが「今日はひとりでいたい」と言ったとき、大人はつい「どうして?」「何かあったの?」と追いかけたくなりますよね。そこをグッと堪えて「わかった、気が向いたら声かけてね」と一歩引く。これもほどよい距離感を保つバウンダリーを意識したかかわりのひとつです。
また、「あなたのため」と言いながら自分の考えを押し付けることは、子どものバウンダリーに踏み込む行為となってしまうので、「あなたのため」と言いたくなったときにこそ、「子どもはそれを望んでる?」「大人の都合や価値観を優先してない?」と自分に問いかけてみることが大切です。
「相手を大切にするからこそ、境界線を引く」というかかわりを重ねていくと、子どもは「尊重された」と実感できます。その経験はやがて、「人はそれぞれ違ってもいい」と自然に受け入れ、他者とほどよい距離感を保つ力を育ててくれます。
子どもとよい関係を築くために、大人がまず「違ってもいいし、それがいい」と肩の力を抜き、互いを認め合う感覚を大切にしていきたいですね。
どんなときも守るべきは「子どもの権利」
子どもとのかかわりは判断の連続です。急に泣き出したかと思えば、ケロッとして「お腹すいた」と言ってきたり、提出期限が過ぎたプリントを手に「何とかして」と無茶振りされたり、突然「死にたい」と打ち明けられることさえあります。
まったく予想もつかない展開や判断の連続に戸惑った経験は、みなさんにもあるのではないでしょうか。
私自身、「あのかかわりでよかったのかな」「もっと別の言い方をすればよかったかな」と何度も振り返っては後悔していますが、どれだけ考えても、どれだけ知識をつけても、「これが答えだ」という結論にたどり着けないのです。ただ、もしかしたらそれが正解なのかもしれないと、今になって思います。なぜなら、「これが正解」という方法論ありきで子どもとかかわると、「子ども」ではなく「方法」と向き合うことになり、肝心のその子を中心としたかかわりにはならないからです。
とはいえ、どんなときも考える猶予は与えられず、瞬時の判断を連続で迫られる子どもとのかかわりを、何の基準もなく続けるのは膨大なエネルギーが必要です。
そこで知っておいてほしいのが「子どもの権利」です。子どもとのかかわりにおいて、私の軸とも言える考え方です。
子どもの権利とは、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」に基づくもので、すべての子どもが生まれながらにして持っている権利です。この権利には、特に大切な4つの柱があります。
①【生きる権利】……命が守られ、必要な食事や住まい、適切な医療を受けることが保障されること。
②【育つ権利】……教育を受け、遊び、休みながら、子どもが自分の力をのびのびと伸ばすために必要な環境が保障されること。
③【守られる権利】……暴力や搾取、戦争、差別などから子どもが安全に守られること。
④【参加する権利】……子ども自身が意見を表明し、それが尊重され、必要な情報にアクセスできること。
(『知っておきたい 子どもの権利 わたしを守る「子どもの権利条約」事例集』〈鴻巣麻里香著、平凡社〉、日本ユニセフ協会「子どもの権利条約の考え方」を参考に著者作成)
では、この4つの柱を実際のかかわりの中で、私たち大人はどう守っていけばよいのでしょうか。その行動の目安となるのが「4つの原則」です。これは子どもの権利条約に基づく大切な考え方で、ここからは私の経験を交えながら解説していきます。
①【差別の禁止】……性別や年齢、言葉、文化、障害など、どんな理由があっても子どもを差別してはならないという原則です。日常の中でつい口にしてしまいがちな「男の子なのに泣かないの」や、「その色、女の子っぽいね」などの言葉も、無意識の差別につながることを忘れてはいけません。
②【子どもの最善の利益】……大人の都合や価値観を優先するのではなく、その子にとって何が一番良いのかを考え、行動することです。「あなたのため」と言いながら、実は自分の安心のために行動していないか、一度立ち止まって考えることが大切です。
③【生命・生存・発達に関する権利】……生きるために必要な衣食住、医療、安心できる環境は、大人が子どもに保障すべきものです。たとえ家族であったとしても、「食べさせてあげている」「生活させてあげている」といった考え方は、時に子どもの権利を脅かすことにつながってしまうことを忘れないでください。
④【子どもの意見の尊重】……子ども自身が意見を言える場が提供され、その意見が大切にされることです。例えば、男の子が「紫色のランドセルがいい」と言ったとき、驚いたり、違和感を持ったりするかもしれません。それでも「どうしてその色がいいの?」と理由を尋ねたり、「いいね!」と受け止めたりすることが、子どもの権利を守る行動です。
子どもの権利を意識するというのは、「特別扱いする」ことではなく、すべての子どもが生まれながらに持つ権利を私たち大人が大切に守るということです。子どもの権利を保障するのは私たち大人の義務なのです。
子どもとのかかわりで迷ったときは、「子どもの権利を守る行動ができているか?」と自分に問いかけてみてください。
「この子の生活と命が安全に守られているか」
「この子にとってもっともいいことはなんなのか」
「この子が育ちたい方向にのびのび育つ環境を提供できているか」
「この子の意見を大切に聞けているか」
こうした問いを持ち続けながら子どもとかかわることで、迷いが生まれにくくなり、目の前の子を中心としたかかわりができるようになります。特別な道具や技術は必要ありません。そして、あなたの優しさを変える必要もないのです。必要なのは、「子どもの権利」を忘れずに意識すること。ただそれだけです。
自分を責めない、無理をしない
大人が思う以上にこわれやすい10代の子のこころ…。
ぜひやさしく包んであげたいところですが、保護者のみなさんは「全然できていない」とご自身を責めすぎる必要はありません。
ここに書かれていることは、できることだけやってみていただくので大丈夫です!
お子さんも保護者のみなさんも、自分をいたわってくださいね。
【著者プロフィール】
こど看(kodokan)
精神科認定看護師。精神科単科の病院の児童思春期精神科病棟に10年以上勤める。現在も看護師として病棟勤務をしながら、「子どもとのかかわりを豊かにするための考え方」をSNS等で精力的に発信中。著書に『児童精神科の看護師が伝える 子どもの傷つきやすいこころの守りかた』(KADOKAWA)がある。メンタル系YouTuberの会所属。一児の父。
X・YouTube @kodokanchildpsy