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僕が絵本を好きになったのは22歳の頃、短期大学で保育の勉強をしていた時でした。
きっかけは、授業で先生が読んでくれた数々の絵本。中でも、映画を見ているように感じた絵本を紹介します。
愛犬との別れを描いた絵本です。少年と犬のエルフィーは、幼い頃から共に育ちます。「エルフィーは、せかいで いちばん、すばらしい犬です。」という言葉に、絆を感じます。そして、印象に残った一文があります。「すきなら、すきと いってやればよかったのに だれも、いってやらなかった。いわなくっても、わかると おもっていたんだね。」当時の僕の心に、スッと入ってきました。
この絵本を読んでくれたS先生は、「静かだと、悲しくなり過ぎちゃうから」と言って、BGMをかけながら、読み聞かせをしました。読んでもらう側の僕らは、20歳前後の保育学生。子どもではありません。でも、誰一人喋らずに、絵本に目を向けました。そして、愛犬との別れの場面を過ぎると、鼻をすする音が聞こえてきました。僕は驚きましたが、違和感はありませんでした。いつもと同じ学校のホールなのに、その時は映画館に居るような雰囲気があったからです。
よくよく考えてみると、年を重ねると「別れの経験」も増えるはず。絵本の内容と実体験が重なって、より胸に響くことがあると気が付きました。「絵本は子どものもの」と考えていた自分にとって、その気付きは衝撃的で、今でも忘れられません。「絵本は、大人でも楽しめるもの」と捉え直しました。
『ずーっと ずっと だいすきだよ』は、お話し自体がとてもドラマティックです。それに、まるでスクリーンを見るように、皆でひとつの画面(絵本)を見るというシチュエーションがあいまって、まるで、4分間の映画を見たように思えました。
もう一冊、別の日にS先生は
『コッケモーモー!』(徳間書店)という絵本も読んでくれました。
鳴き方を忘れた雄鶏が、「コッケブーブー!」「コッケメーメー!」と鳴き声を間違え続けるお話です。イギリスの絵本なのですが、牧場を舞台とした動物コメディー映画を見ている気分になったのです (笑)。 皆で絵本を見て、皆で笑っているというその場の雰囲気がファミリー映画を見ているようでした。ちょうどその頃金曜ロードショーで見ていた映画「ベイブ」を思い出したのです(笑)。
そして、こちらもやはり「大人数でひとつのものを見て、それぞれに何かを感じている」というシチュエーションがまるで映画館のような雰囲気でした。
僕は、先生の読み聞かせを見て笑いました。大人が大人に絵本を読んでもらって、声を出して笑えたのです。そんな経験は初めてでした。
これ程大人が楽しめる絵本があるのなら、大人が絵本を読んでもらう場があっても良いと思いましたし、絵本好きな大人がもっと増えて良いんじゃないかと思いました。そうなれば、子どもはもっと絵本を読んでもらえるはずだと思ったのです。
その後僕は、夜の路上で大人に向けて絵本の読み聞かせを始めることになります。鞄にはもちろん、『ずーっと ずっと だいすきだよ』と『コッケモーモー!』が入っていました。
S先生のように映画のような時間をお届けすることが、出来ていたかなぁ。
作・絵/ハンス・ウィルヘルム 、 訳/久山太市
- 【定価】
- 1,320円(本体1,200円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 18.5cm×23.2cm
- 【ISBN】
- 9784566002760
文/ジュリエット・ダラス・コンテ、絵/アリソン・バートレット、訳/たなかあきこ
- 【定価】
- 1,540円(本体1,400円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- B4
- 【ISBN】
- 9784198614508