ヨメルバ編集部がセレクトした絵本を、聞かせ屋。けいたろうさんといっしょに掘り下げます。第十八回は、大人気の数字絵本『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』です。
『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』(作:柏原佳世子 えほんの杜刊)
ヨメルバ:けいたろうさんは、この絵本がお好きなんですね。
けいたろうさん:そうですね。この絵本は、まずタイトルからすごくいいと思っているんです。内容をそのままタイトルで表現するのって、案外難しいんですよね。タイトルは絵本を作っていても悩むところなんですけども、この作品は「これしかない」っていうタイトルで素晴らしい!
ヨメルバ:確かにそうですね。
けいたろうさん:絵本の中身でいうと、序盤なんですけども、王様の居ぬ間に家来たちが好き放題に遊んでいる。めっちゃ部屋を散らかして(笑)。
子どもみたいな散らかしっぷりで、これを見た子どもたちは共感するんですよね。
家来だから、多分おとななんだろうけれども、子どもと同じように散らかして遊んじゃうっていうところが、すごく可愛らしいし、絵本らしくていいなと思います。さんざん散らかしたその後に、帰ってきた王様が窓の外に見えて、あと100秒で片付けるっていうストーリーが始まるんですよね。
次のページから、文章としては1から100までを数えるだけなんですけども、その潔さが最高だと思っていて。作家としては絵を文で説明したくなるものなんですけど、絵だけ、数えるだけ、というアイデアが素晴らしいです。
中盤になって、まだ一人寝ていたことに気が付くところも最高なんです。子ども達は「えー!まだ寝てたの!?」ってなります。
終始一緒に数えながら楽しめる。
ぼくは、数をテーマにした絵本の中で、この絵本が一番おもしろいと思います。数の絵本って「1、ネコが一匹、2、犬が二匹」というように、シンプルになりがちなので、おもしろみを出すのが難しいんですよね。
ストーリーをつくろうとすると複雑になって、数えるのが途切れ途切れになってしまったりして。
この絵本はシンプルな中にストーリーもできているので、数えるのが本当に楽しい。数える意味があるというか、数えるのが楽しくなるっていうのが、数の絵本として上質だと思うんですよね。
ヨメルバ:なるほどね。この絵本は絵が細かいから家で読むのはすごくいいなと思うんですけど、例えば保育園とか、対象が大人数だとどうですか?
けいたろうさん:そうですね、この絵本を僕が勤務している保育園で読んだことがあるんですけど、子どもたちとみんなで100まで数えるという行為がすごく楽しいです。細かく絵を見るのはその後、それぞれが絵本を手に取ってっていう感じにはなるんですが。
ヨメルバ:なるほどね。
絵を細かく見てる時に横で、1,2って数えられると、見てる方もドキドキするじゃないですか。そういうのもあって、見ている子ども達のドキドキ感が増えていくような気もしますね。
けいたろうさん:そうですね。この絵本は、内容からすると本来は100からのカウントダウンだと思うんですけど、幼児にカウントダウンは難しい。カウントアップにしたことでみんなで数えられる。数えるのが簡単だから、絵を味わいながら、笑いながら数えられるっていうとこがいいなと思います。
ヨメルバ:1から100まで数えられるようにもなりますね。
けいたろうさん:はい、確かにそうなんですけど、「絵本で数を教えられるようになる!」というような狙いを持つことって、僕、実はあまり好きじゃなくて(笑)。絵本って、教材と呼ばれたりもするんですけど、何かを教えるものだとは思いたくないんですよ。
そういう目的を持つと、「どこまで覚えられたかな?」ってなっちゃう。そうじゃなくて、「どれだけ楽しめたかな?」で良いんです。
絵本を親子で楽しめる、笑い合える、そういう時間が出来るだけで、目的達成ですから。
「この絵本で、数字を楽しめるようになったらいいかなぁ」くらいならオッケーですよ! どうしても親になるとねぇ……色々学んで欲しくもなりますけどね!
ヨメルバ:そうですね、ありがとうございました!
けいたろうさん作『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』のポップ
作:柏原佳世子
- 【定価】
 - 1,540円(本体1,400円+税)
 - 【発売日】
 - 【サイズ】
 - 216mm×262mm
 - 【ISBN】
 - 9784904188507