
今回は、聞かせ屋。けいたろうさんがおすすめする絵本を掘り下げます。第十五回は、保育園での寝かしつけを見事に描いた絵本『おひるね とんとん』です。

『おひるね とんとん』(石井聖岳:作 童心社刊)

今回は『おひるね とんとん』です。いつもは編集部セレクトの絵本を取り上げていますが、今回はけいたろうさんからの推薦本となります。著者の石井聖岳さんは、絵本作家さんですが、保育士さんにもなられたんですよね?

そうですね。作者の石井聖岳さんは代表作に『おこだでませんように』ですとか、たくさんの作品があるんですけれども、保育士免許を取ったんです。ぼくは石井さんと仲がいいので、何回か試験に落ちたことを聞いたりして、時々応援したり、試験に合格したときはお祝いに焼肉をおごったりしたんですよ(笑)。

すばらしい。

ということで晴れて保育士としても働けるようになった絵本作家。早速この絵本でしたから「さすが!」と思いましたよ。ぼくも保育園で働く保育士なので、ドンピシャで「わかる~!」ってなりました。すごくリアルなんですよ。保育園の内側から見てるのが伝わってくるんです。

絵本で描かれているのは、保育園でのリアルなお昼寝の風景だから、保護者も見られないところですね。

そうなんですよ。どこの園でも午睡(ごすい)の時間って基本スタイルは、似ていると思います。この光景が広がっている。子どもたちが寝ている時間に、連絡帳を書くとか(笑)。

最初のページが保育室の広い絵で、連絡帳が積んである。今からここで連絡帳を書くんだろうなっていうテーブルがあったりするんですよね。

そう。保育士は「午睡チェック表」で子どもたちの寝ている様子をチェックしたりしながら、休憩も回したりしますね。
ここまで保育園の中をしっかりかけている絵本は多くないので、同じ保育士として嬉しかったです。

先日、「午睡のときにガリガリ背中をかいてほしい子って、本当にいるんだよね」とお話されていました。入眠する姿勢とかしぐさって、子どもによってそれぞれなんですね。「ガリガリして」っていう子がいるなんて想像もつかなかったです。

保育士としてはあるあるなんですよ。先生によってもトントンのスタイルは違って、やさしく撫でる先生とか、早めにトントントントンする人とか(笑)。何人か一斉に、前、後ろ、横ってトントンしたりもするんです。そんな中で「もうちょっと強く!」なんていう子もいたりとか。僕はトントンが強めで、揺らす感じなんです。電車の揺れって、眠気を誘いますよね? トンってしたのと同時にちょっと押すような感じで体を揺らすようにして、視界もなるべく暗くなるように、目の上を逆の手で隠したりしながらやるんです。先生のトントンもそれぞれだし、子どものしてほしいトントンも違うし……って、それが絵本になるなんて! 素晴らしい発想!

確かにあの人数を先生がトントンするのは大変だろうなとは思ってはいました。

トントンしないでいいっていう子もいるし。園によっては年長さんが年少さんをトントンする園もあるし、本当に様々なんですけど。
後半に文のないページがあるんですよね。この文のないページは多分13時半とか14時前ぐらいだと思うんですけど、全員寝ると保育室がシーンと静まり返るんですよ。いつもは聞こえない空調の音なんかが聞こえてくる。「ふう、ようやくみんな寝たか」みたいな間があるんですけど、文章を無くすことで、そういう時間を描けていて素敵だなと思いました。

なるほどね。みんなが気持ちよく寝た後の一瞬ですよね。
この絵本を保育園で読まれたことありますか?

あります。2歳クラスの子たちに読んだんですけど、子どもたちから、ウサギやタヌキが出てきて、何が次に来るのかな? みたいな期待感を感じました。また、保育園で昼寝っていうテーマが身近で、喜んでましたね。こんなに低年齢でも楽しめるんだと思いました。

なるほど。この絵本を家で読んだら、子どもは「わかるわかる」ってなるんでしょうね。親は「そうなの?」っていう感じだけど。

そうだと思います。保育園の中をちょっと覗き見るような感じで。親御さんは保育園の中って意外と見えないんだよな。

寝かしつけの真っ最中っていうのは、初めて見たなと思いました。

見事に描けてると思います。

この絵本は、保育士さんや保育園や幼稚園にお子さんを預けていてお昼寝の時間がある親御さんにおすすめでしょうか。

そうですね。お昼寝あるあるですし(笑)。

園の子供たちだけじゃなくて、外からウサギとか動物がやってくるっていうところが、絵本らしいというか、楽しいポイントだなっていうふうに思いました。

そうですね。実際は園の子供が「こうトントンして!」とか言うと思うんですけども、そこは絵本の面白味だなって思いますね。ワニの背中の感じからして、ガリガリがぴったりだと思いますし、そこは保育士絵本作家の技ですよね。

なるほど、本当にそうですね。どうもありがとうございました。

けいたろうさん作『おひるね とんとん』のポップ