
ヨメルバ編集部がセレクトした絵本を、聞かせ屋。けいたろうさんといっしょに掘り下げます。第六回は、話術がすごい絵本『オレ、ねたくないからねない』です。

『オレ、ねたくないからねない』(マイクロマガジン社)

この絵本は『オレ、カエルやめるや』からシリーズがスタートして4冊目の作品ですね。

僕、実は最初このシリーズの絵とタイトルにちょっと抵抗があったんですよ。なんかちょっと刺激的すぎてウケ狙いという感じかなって思っちゃってたんです。なので、これまで手にしてなかったんですけど、この『オレ、ねたくないからねない』を読んで、ちゃんと内容で勝負してるということがわかったんです。突発的な笑いじゃなくて、じわじわくるおもしろ味がすごくいいなと思いました。

全部会話で構成されていましたね。翻訳は小林賢太郎さん(劇作家・パフォーマー)なんですね、このシリーズは。

そうですね。小林さんだから、話術がおもしろいんですよね。素晴らしいです。
この絵本の魅力的な部分は、フキダシです。フキダシは、マンガで初めて見ることが多いと思うんです。だから、マンガをまだ見たことがない子はこの絵本を見るまで未経験だったんじゃないかな。でも、この絵本なら初めてでも大丈夫。フキダシが伸びてる先の人が喋っているっていうことと、喋っているキャラクターごとに色分けまでしてあるから分かりやすい。さらに、ちゃんと読むべき会話の順番にフキダシがうまく入っているので、すごいなと思ったんですよね。

すごい強引な伸ばし方をしてる箇所とかありますもんね。

そうですね。でもほんとにポンポンポンッて会話が続くんで、テンポよく読めるんですよね。これは会話形式で進んでいくこの本の一番の魅力かなと思います。

本当ですね。あと、この手書きっぽい字もすごく新鮮でしたね。

そうですね。原書を検索してみたら、原書もやっぱり手書き風になっていて。手書き風だから、いい意味で真面目じゃない感じが出ている。

ちょっとゆるい感じが表現できますね。

文章が絵に準ずるぐらい存在感がある絵本はあまりないですよね。会話文にパワーがあるというか。

そうですね。あとフクロウが敬語でカエルが子どもらしい話し方っていうのもすごくキャラクターを強調している気がしてよいなと思いました。

フクロウって物知りのイメージなんですよね。で、そういう世間一般のイメージを素直に使うのって大事だと思うんです。

フクロウのイメージは世界共通だっていうことですよね。この絵本を読んで、けいたろうさんのお嬢さんたちが好きなシーンはありましたか?

小3の子に聞いたら、「フクロウが話しかけてきてカエルの返す言葉がおもしろかった」と言っていました。

おお。読み取ってますね。

二人のかけ合いの軽快さがおもしろいんですよね。それは原書のおもしろさもあり、翻訳した小林賢太郎さんがそれを生かしきれてるってことだと思いますよね。

そうですね。やり取りがさすがですよね。

この絵本は、会話のテンポ感が一番の魅力なんだと思うな。だって物語としてはただ冬眠を知らなかったからその事実を知らされてるだけで、何も起こってないんですよ。だいたい絵本って何かが起こるとか、何かをしに行くとか、そういうところで物語が展開するんですけど、ただ冬眠を知らなかったっていう会話だけでほぼ成り立っているから、そこはすごいと思います。

たしかに。何も起こらないですね。
うちの子どもは、一番最後に大いびきをかいてカエルが寝ているシーンでめちゃくちゃウケていました。「さんざん寝ることを嫌がっていながら、やっぱり寝るんかい」みたいな感じのツッコミどころというか。

ここ、本の作りで言うと“見返し”っていう部分なんですけど、こんなに見返しを中身と同じように大胆に使っている絵本はそんなにないですね。そこもすごいなと思います。

物語が始まる前の見返しは爽やかなスカイブルーで。物語の後は穴の中だから、ちょっと濃いネイビーですよね。

僕は、見返しの色には意味があると思っています。絵だけじゃなくて、見返しが色紙だけの時もあるんですよ。その時に、ブドウ狩りに行く絵本はブドウ色になっていたりとか、ちょっと血しぶきがあがるような怖い話は血のような赤が使われてたりとか、色がすごく大事なんじゃないかなって思います。

ほんとうですね。この本は、まさに見返しを有効活用している例ですね。そしてオチとして抜群な効果を引き出しています。

そうですね。裏表紙も面白いですね。裏表紙はシリーズの紹介をしていて、宣伝なんだけど、ここもユーモラスにやってるからいやらしくない。

いいですよね。

海外の作品って、この本を誰々に贈るとか、育ててくれたママへパパへとか、娘のサースティンへとか謝辞を載せている本があるんですけど、この絵本は「全ての寝たくない子供たちへ、分かっていますよ」って書いてあります。寝たくないですよね、遊んでたいよねというメッセージが込められていて、洒落てるんですよね。

ほんとうですよね。「分かっていますよ」っていうのがいいですね。

そこも海外の作品ならではのおもしろ味ですよね。日本では絶対ないですからね。
そんな感じでもうほんとに表紙から裏表紙、表紙、見返し、裏表紙から謝辞まで楽しめるっていう。絵本としてのおもしろ味が全開ですよね。

けいたろうさん作『オレ、ねたくないからねない』のポップ
文:デヴ・ペティ 絵:マイク・ボルト 訳:小林 賢太郎
- 【定価】
- 1,760円(本体1,600円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 26cm×26cm
- 【ISBN】
- 9784867160770