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【〜細菌性感染症〜「溶連菌感染症」と「マイコプラズマ感染症」】「小児科医ツカダ先生に聞く 子どもの病気・ケガ&ホームケア」第10回


 子育てをしている保護者の皆さんは、子どもの成長ともに、実にさまざまな病気やケガがあることを実感しているのではないでしょうか。特に自分で症状が伝えられない小さなお子さんは、急に症状が現れたり、症状が長引いたりしたとき心配ですね。この連載では子どもの病気・ケガとホームケアについて、現役小児科医として多くの症例を見ている塚田こども医院院長の塚田次郎先生にわかりやすく教えてもらいます。

 第10回は、細菌が原因となる感染症で、子どもが比較的かかりやすい「溶連菌感染症」と「マイコプラズマ感染症」を取り上げます。細菌性感染症にはウイルス性感染症には効かない「抗菌薬(抗生物質)」が効く、と覚えている保護者も多いかもしれません。確かに抗菌薬は効果的に使えば有用ですが、使いすぎにより本当に使うべき場面で効かなくなる一面も持ち合わせており、抗菌薬が効かない「耐性菌」も近年増えています。また、「マイコプラズマ」という細菌は、他の細菌と違い通常の抗菌薬で殺せなかったり、感染により肺炎を引き起こしたりするのがやっかいです。いずれも、症状や治療のポイントを押さえておきましょう。


<これまでの連載はこちらから>

今月のトラブル
【細菌性感染症】

Trouble
【溶連菌感染症】

 溶連菌感染症は、A群β溶血性レンサ球菌という細菌が鼻やのどなどの粘膜に付着することが原因で起こります。大人も感染はしますが、子どもに多く、園や学校などの集団生活でも流行しやすい病気です。感染経路は咳や唾液などの飛沫感染や接触感染、主に鼻やのどでの感染が多く咽頭炎や扁桃炎を引き起こします。単なる「のどが痛いカゼ」にしか見えないかもしれませんが、そこから皮膚の感染につながったり、急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった合併症につながったりすることもあり、油断は禁物です。


カゼに似た症状&特にひどいのどの痛み

●主な症状

・ 38度以上の発熱
・ のどの痛み
・ 体や手足に発疹が出る(かゆみを伴うこともあり)
・ 舌にイチゴのようなブツブツが出る(苺舌)
・ 頭痛
・ 首のリンパ節の腫れ
・ 倦怠感、食欲不振、腹痛などカゼのような症状

 子どもでは発熱、のどの痛みから発症することが多く、のどは食べ物が食べられないほど痛むのが特徴的です。溶連菌感染症では咳や鼻水は主な症状にはありませんが、日常での咳やくしゃみ、唾液などの飛沫感染や接触感染でうつるので、家族や周囲の人は注意が必要です。
 医師の診断後、抗菌薬による治療で発熱、のどの痛み、発疹といった症状は1〜2日でおさまりますが、その後、てのひらや足の裏などから皮膚がはがれおちる症状が見られることがあります。また、舌の赤みはなくなっても、苺舌は数週間残る場合があります。

●溶連菌の感染が引き起こす病気

・ とびひ(伝染性膿痂疹<のうかしん>)→発疹が水ぶくれとなり、かゆみを伴うことから引っかいて広がる
・ 猩紅熱<しょうこうねつ>→全身に赤い発疹ができて最終的に皮がむける
・ 丹毒→皮膚の浅い部分に感染し、炎症を起こして高熱、悪寒などを伴う
・ 蜂窩織炎<ほうかしきえん>→皮膚の深いところに感染、炎症を起こして熱や赤み、痛みを伴う
・ 劇症型溶血性レンサ球菌感染症→まれではあるが、血液や筋肉などに感染を起こして、発熱や激しい手足の痛みや腫れを起こす(症状が急激に悪化するのですぐに治療しないと最悪死亡に至る)

 

●溶連菌感染症のあと、3〜4週間経ってから起こりやすい主な合併症

・ 急性糸球体腎炎→尿量が減少する、血尿が出る、浮腫、高血圧、全身の倦怠感など
・ リウマチ熱→関節痛、発熱、心臓の炎症、けいれん性の動き、発疹、皮膚下のしこりなど

犬上記の感染や合併症に関しては、疑いがあるときにはとにかく受診と治療が必須です。そして処方された抗菌薬の服用を途中でやめてしまわないことがもっとも大切です。


検査後、必要な薬の服用へ



 病院では診察後、溶連菌に感染している疑いがあれば、まず検査を行います。のどの粘膜を綿棒でぬぐって調べれば10分程度で結果がわかります。
 溶連菌の感染とわかれば、抗菌薬が出され、10〜14日間服用することになります。溶連菌感染症に直接効くので、1〜2日程度で熱が下がり、のどの痛みもおさまりますが、ここで大切なのが、症状が緩和されたからといって抗菌薬の服用を途中でやめないことです。症状がぶり返したり、合併症を起こしたりとトラブルが起きるもとですから、医師が決めた処方を必ず守りましょう。抗菌薬をすべて飲み終わった段階で、症状の確認と尿検査をするので、再受診します。抗菌薬が効くまでのどが痛くてものが食べられない、飲み物が飲めないときは、のどを刺激しないものをとらせて脱水状態にならないようにしましょう。

●治療途中でもこんなときは再受診を

・ 2日以上たっても熱が下がらない
・ 元気がない、顔や足がむくむ、血尿が出る(尿が赤い)など

Trouble
【マイコプラズマ感染症】

 



 マイコプラズマ感染症は、「マイコプラズマ」という細菌の一種によって引き起こされる呼吸器感染症です。14歳以下の子どもがかかりやすいとされ、大人になるまでに多くの人が感染します。初期症状はカゼによく似ていますが、咳が長引き、ときには肺炎を起こし重症化することがあるので注意が必要です。抗菌薬のうちでもマイコプラズマに効くものは一部に限られていますが、最近ではそれが効かない耐性菌も問題になっています。


鼻水や鼻づまりはみられず、しつこい咳が特徴

●主な症状

・ 発熱
・ 咳
・ のどの痛み
・ 全身の倦怠感
・ 頭痛
・ 嘔吐や下痢
・ 腹痛



 飛沫や接触感染後、長い潜伏期間(2〜3週間)を経て、発熱、頭痛、のどの痛み、倦怠感などの症状が現れ始め、そのうち、痰を伴わないコンコンと乾いたしつこい咳が出てきます。カゼと似ていますが、違いは鼻水、鼻づまりといった鼻の症状が少ないこと。また、マイコプラズマが耳に侵入すると中耳炎になって耳が痛み、胃腸に入れば嘔吐や下痢を起こすことがあります。中耳炎に加えて咳が続いているようならマイコプラズマ感染症かもしれません。長引くカゼだと思い込んでそのまま放置すると肺炎に移行してしまうこともあるので、咳や体調の様子には特に気をつけてください。

●感染すると肺炎になる?



 マイコプラズマに感染して肺炎になるのは、感染者全体の3〜5%程度と多くはないように見えますが、特に子どもは肺炎に至りやすく、またくりかえし感染する可能性があります。
 マイコプラズマ感染者のほとんどは重症化せずに回復しますが、肺炎を起こし長引くと肺の機能が低下するなどその後の体調に響くことがあり、早期に検査、診断と治療を施すことが望まれます。



抗菌薬治療が必要なとき



 マイコプラズマに感染しても、必ず抗菌薬治療が必要となるわけではありません。症状が咳のみで比較的軽いようであれば、様子を見て大丈夫です。おうちでは水分補給と安静、部屋の加湿でケアをしつつ、顔色や食欲、尿が出ているかなどの様子を観察します。疑わしいときは早めに受診し、医師の診断をあおぎましょう。状態によっては抗菌薬が使われます。
 また、マイコプラズマは、他の感染症でよく使われるペニシリン系の抗菌薬では効果がなく、通常マクロライド系抗菌薬と呼ばれるものが使用されます。ときにマクロライド系の抗菌薬が効きにくいケースもあります。症状が重い場合は入院しての治療となります。



予防とケア

 マイコプラズマ感染症の予防には、手洗いやうがい、マスクの着用といったカゼ予防の基本が効果的です。家庭内でも感染を広げないよう、基本の予防をしっかりしていきましょう。昨年から中国ではマイコプラズマ肺炎が流行しているようです。日本国内でも、通常の抗菌薬が効かない耐性菌が現れやすくなる可能性を意識していったほうがいいでしょう。新型コロナウイルス感染症の流行以後、手洗いやマスク着用の習慣が徹底されましたが、5類感染症に以降後、この習慣が急速に薄れていることも、細菌性、ウイルス性を問わず、感染症が広がりやすくなっている一因です。しっかりと基本の予防に努め、そしてかかってもあわてずに対処してください。



 

 



 



【塚田先生プロフィール】

塚田次郎(塚田こども医院 院長)
1981年自治医科大学卒業、同年医師国家試験合格。新潟市民病院にて臨床研修、新潟県立坂町病院小児科勤務を経て、1990年新潟県上越市栄町にて塚田こども医院を開設。日本小児科学会認定医。


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