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【〜集団生活で広がりやすいウイルス性胃腸炎〜「ノロウイルス」と「ロタウイルス」】「小児科医ツカダ先生に聞く 子どもの病気・ケガ&ホームケア」第9回


 子育てをしている保護者の皆さんは、子どもの成長ともに、実にさまざまな病気やケガがあることを実感しているのではないでしょうか。特に自分で症状が伝えられない小さなお子さんは、急に症状が現れたり、症状が長引いたりしたとき心配ですね。この連載では子どもの病気・ケガとホームケアについて、現役小児科医として多くの症例を見ている塚田こども医院院長の塚田次郎先生にわかりやすく教えてもらいます。

 第9回の今月は、「ウイルス性胃腸炎」を取り上げます。 冬場には毎年、乳幼児を中心にウイルス性の胃腸炎が流行します。別名「嘔吐下痢症」ともいわれるように、急に吐いたり、水のような下痢をするのが特徴です。とくに保育園や幼稚園などの集団生活では、感染者が出るとあっというまに広がってしまいます。感染予防と、感染後の対策を中心にご紹介します。


<これまでの連載はこちらから>

今月のトラブル
【ウイルス性胃腸炎】

Trouble
【ノロウイルス/ロタウイルス】

 感染性胃腸炎には比較的暑い時期に流行しやすい細菌性の胃腸炎と、比較的寒い時期に流行しやすいウイルス性の胃腸炎があります。ただ、最近では季節を問わない感染症の流行が多く、今年も例年流行のピークが冬場とされているノロウイルスが夏場に猛威をふるいました。どの時期であっても起こりうるという前提で、子どものノロウイルスやロタウイルス感染に備えておきましょう。




ノロウイルスとロタウイルス、どこが違う?

 ノロウイルスもロタウイルスも、基本的に症状は嘔吐と下痢なのでほぼ同じといっていいでしょう。保護者が判別するのは難しいと思いますが、おおよその特徴を知っておきましょう。

★流行時期
ノロウイルス / 例年秋頃から。12月~1月にかけて流行のピークを迎える。

ロタウイルス / ノロウイルスよりもやや遅く、例年1月頃から感染者が増え、流行のピークは3月~5月。
➡︎春先に突然の嘔吐や下痢がある場合はノロウイルスよりもロタウイルスへの感染の可能性が高い。先述したように、夏場にもノロウイルスが流行することがあるので、要注意。

★かかりやすい年齢
ノロウイルス / 乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層。型によっては変異しやすく、一度かかっても再び別の型で感染することがある。

ロタウイルス / 主に乳幼児での流行が多く、ほとんどの子どもが5歳までに感染する。最初の感染での症状が重く、2回目以降では症状が軽くなる傾向がある。だいたいの大人は抗体ができているので、軽めの症状で済む、ないしは症状が出ないことが多い。

★感染予防ワクチン
ノロウイルス / 現在までのところなし。

ロタウイルス / 日本では2011年に承認、予防接種は2020年10月から定期接種となっている。

★症状
ノロウイルス / 潜伏期間は1〜2日程度。突然の吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、37℃台の発熱などで発症。発熱は比較的軽度の微熱で済むことが多い。感染しても症状が現れない「不顕性感染」や、軽い風邪のような症状で済む場合もある。

ロタウイルス / 潜伏期間は2~4日。ノロウイルス同様、急な吐き気や嘔吐、下痢、腹痛、発熱などで発症。水のような多量の下痢がノロウイルスよりも長く続く傾向があり、白い便がみられることもある。39℃を超える高熱が出る場合もあり、乳幼児は重症化しやすく、けいれんや、肝機能異常、急性腎不全、脳症、心筋炎などの合併症を引き起こすことも。




感染してしまったら

 嘔吐や下痢の症状があったからといって、ノロウイルスやロタウイルスの感染とは限りません。新型コロナウイルスの感染でも、後遺症として下痢や腹痛が報告されていますし、ウイルスではない細菌性の感染症の可能性もあります。が、現在通っている園や周囲にノロウイルスやロタウイルスの感染が確認できているようなら、かなり疑わしいといえるでしょう。いずれにせよ医師の診断がないと確かなことはわからないので、受診をおすすめします。
 では、ウイルス性胃腸炎ではどんな場合に医療機関にかかるべきか、また、おうちでのケアで気をつけることについてお伝えしましょう。

〈こんなときは早めに医療機関を受診〉

⬜︎繰り返し吐いている
⬜︎元気がなく、顔色が悪い
⬜︎唇が乾いている
⬜︎水分を受け付けず、おしっこが出ない
⬜︎発熱や強い腹痛がある
⬜︎水のような下痢を何度も繰り返す
⬜︎血便が出た


※症状を言葉で訴えられない乳幼児は特に注意が必要です。発熱が続く場合や強い腹痛、血便などがある場合はもちろん、水分がとれず、とってもすぐ吐いてしまう、尿が出ていない、唇が乾いているといった脱水症状を起こすのが特に危険です。脱水とともに「低血糖」にもなりやすく、注意が必要です。そのようなときは休日や夜間でも早急に医療機関を受診してください。

※受診の際には、飲んだ水分の量、下痢や嘔吐の回数などをメモしていくと診断に役立ちます。



〈おうちでのケア〉
 嘔吐が続いているときや脱水症状が強いときには点滴や入院も必要になります。医療機関では、症状に応じて吐き気どめや腹痛を緩和する薬を処方することがありますが、家庭で市販の下痢止めなどを、自己判断で使用するのは控えてください。
 子どもの嘔吐はとても心配になるものですが、受診後おうちで様子を見るように言われた場合は、重症にならないように様子の変化を見つつ、家庭でできるケアをしてみてください。もちろん、受診後にも前述した脱水症状が見られる場合は、ためらわず再受診してください。

★嘔吐に対して
●吐き気が強いときは、吐いてから30分くらいは水分をとらせない
●吐き気が落ち着いてきたら、経口補水液などを、少しずつとらせる
(まずティースプーン1杯ほどをとらせ、吐かないようならまた5〜10分後にティースプーン1杯、を繰り返して、大丈夫なら水分の量を少しずつ増やしていくようにする)



★下痢に対して
●吐き気がおさまって下痢症状だけになったら、便の様子を見ながら、少しずつ消化のよい食べ物を与えていく
(水のような便のときは、野菜スープやおもゆなど、ドロドロの便であればバナナの裏ごししたものやニンジンやカボチャをやわらかく煮つぶしたものなど、やわらかい便くらいになったらおかゆ、うどんなどを食べさせていく)




●風呂は嘔吐や下痢がひどいときは控える
●下痢を繰り返すことでお尻がかぶれるので、シャワーなどでお尻のまわりだけ洗う



〈二次感染を防ぐ〉
 看病をする家族や周囲の人にうつさないためにも、吐瀉物やふん便、子どもが触れたものの処理について特別な配慮が必要です。汚物は乾燥してしまう前に処理を済ませましょう。
 ウイルス性胃腸炎のウイルスは、新型コロナウイルスに使用するようなアルコールでは消毒ができませんので注意してください。



★吐瀉物やふん便の処理
① 吐瀉物やふん便を処理するときには、使い捨てのガウン(エプロン)、マスクと手袋、を着用し(処理セットをふだんから用意しておくとよい)、次亜塩素酸ナトリウム消毒液(下記に作り方あり)を準備する
② 新聞紙やペーパータオルなどを吐瀉物やふん便に広めにのせ、ウイルスが飛び散らないように静かに拭き取る
③ 拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウムで浸すように床を拭き取り、その後水拭きする
④ オムツ、また拭き取りに使用した新聞紙、ペーパータオルなどは、漏れることのないようビニール袋に密閉してから廃棄する(このとき、できればビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウムを入れるとよい)
⑤ 処理後はウイルスが屋外に出て行くよう十分に喚気を行う
⑥ 処理後の石けんでの手洗い(手首のほうまで)を忘れずに

★吐瀉物やふん便のついた衣類や布類などはどうするか
① ウイルスが飛び散らないように気をつけながら汚物を取り除き、前述の方法で廃棄したのち、洗剤を入れたバケツなどの水の中で静かに下洗いする(下洗い後のバケツは次亜塩素酸ナトリウムで消毒後洗剤で掃除する必要あり)
② 下洗いした後の衣類などの消毒は、85℃・1分間以上の熱水洗濯か、または次亜塩素酸ナトリウムの消毒が有効、その後も十分にすすぎを行う



★家庭用塩素系漂白剤を使った次亜塩素酸ナトリウム消毒液の作り方
・汚物の付着した場所や衣類などの消毒には……
0.1%濃度(1000ppm)の消毒液→水500mLに対して家庭用塩素系漂白剤を10mL入れる

・便座、ドアノブなどの共有部分、感染者が触れた場所の消毒には……
0.02%濃度(200ppm)の消毒液→水500mLに対して家庭用素系漂白剤を2.5mL入れる





感染自体を防ぐには?

 ふだんからできる予防対策としては、外出先から帰ったとき、トイレのあと、食事の前などに、石けんを使用した流水でしっかりとした手洗いをすることです。手を洗える年齢の子どもは手洗いを習慣化しましょう。また子どもが乳幼児の場合にうっかりしがちなのですが、オムツ替えのあと、大人の手洗いがきちんとされていないことで感染を広げてしまうことがあります。
 また手洗いに関してはできるだけ手を拭くタオルを別々にするか、ペーパータオルを使うといいでしょう。



 現在、ロタウイルスにはワクチンがあります。生後6週から24週までの間に2回受けるタイプと、生後6週から32週までの間に3回受けるタイプの2種類です。定期接種になっていますので、お住まいの自治体で確認して、ぜひワクチンを受けておきましょう。

 

 



 



【塚田先生プロフィール】

塚田次郎(塚田こども医院 院長)
1981年自治医科大学卒業、同年医師国家試験合格。新潟市民病院にて臨床研修、新潟県立坂町病院小児科勤務を経て、1990年新潟県上越市栄町にて塚田こども医院を開設。日本小児科学会認定医。


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