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子育て・教育

【命にかかわる重大事故につながる危険〜子どもの誤飲・誤嚥(ごえん)事故〜】「小児科医ツカダ先生に聞く 子どもの病気・ケガ&ホームケア」第7回


 子育てをしている保護者の皆さんは、子どもの成長とともに、実にさまざまな病気やケガがあることを実感しているのではないでしょうか。特に自分で症状が伝えられない小さなお子さんは、急に症状が現れたり、症状が長引いたりしたとき心配ですね。この連載では子どもの病気・ケガとホームケアについて、現役小児科医として多くの症例を見ている塚田こども医院院長の塚田次郎先生にわかりやすく教えてもらいます。
 第7回の今月は、「子どもの誤飲・誤嚥事故」を取り上げます。なんでも口に入れてしまうことから起こる事故と、食品等により、のどを詰まらせる事故があります。誤飲・誤嚥しやすいものには何があるか、また万が一誤飲・誤嚥が発生してしまったときの対応についてお伝えします。


<これまでの連載はこちらから>

今月のトラブル
【子どもの誤飲・誤嚥(ごえん)事故】

Trouble
【子どもの誤飲・誤嚥事故】

 




誤飲・誤嚥って?

 「誤飲」は、有害で危険な異物を間違って飲みこんでしまうことで、「誤嚥」は口に入れたものが食道を通っていかず、気管に入ってしまうことを指します。
 誤飲は、なんでも口にしてしまう、比較的低年齢で起こりやすい事故です。一方、誤嚥は主に食品で起こる事故なので、比較的大きな子どもや大人(特に高齢者)でも起こりやすい事故です。「誤嚥」はのどや気管を詰まらせることによる窒息の危険がいちばんの心配です。異物を飲み込んで、さらにそれが詰まるといった、誤飲と誤嚥を同時に起こす場合もあります。


子どもが誤飲しやすいもの

 子どもは生後5ヵ月ごろから、手につかんだものをなんでも口に入れるようになります。液体はもちろん、1歳を超えると、包装を開けてその中身を取り出せるようにもなります。子どもの誤飲では、クレヨン、コインやビーズ、小さなおもちゃなどを飲み込んでしまったというものから、ボタン電池、画鋲などの鋭利な物、磁石、衣料用防虫剤、タバコ、薬、灯油、マニキュアや除光液といった揮発性の高い物質など、即医療機関にかかるべき重大な誤飲事故までさまざまな事案があります。
 ふと目を離した隙に、まさかこんなものを、というような異物でも子どもは口に入れてしまうことがあるのです(口だけでなく、鼻の穴や耳の穴に異物を入れることもあります)。まず大前提として、子どもが口にするべきでないものは、必ず子どもの手の届かない場所に置きましょう。

〈誤飲してしまったら、すぐ受診すべき主な異物〉
●ボタン電池
●釘、画鋲などの鋭利な物
●複数の磁石や、磁石+磁石につく金属
●衣類用洗剤や漂白剤など、家庭用化学製品
●タバコ
●医薬品
●灯油・ガソリン
●マニキュア・除光液
 など




〈異物を誤飲してしまったら〉
 基本的には異物を誤飲した場合、家庭内で無理に吐かせるのは逆に危険なことがあるので、すぐに受診しましょう。のどを押さえる、せき込む、呼吸が苦しそう、顔色が青くなる、けいれんしているなどの場合はすぐに救急車を呼ぶ必要があります。飲んだものがわかっている場合は、下記②の「中毒110番」でも相談ができます。磁石は1つだけなら通常は排便で出てくるのを待ちますが、2つ以上では胃壁や腸管壁を隔ててくっつき、内臓に穴があく危険があるため、直ちに受診が必要です。
 また、上記の「すぐ受診すべき異物」以外の、インクやクレヨン、絵の具や化粧品、石けんなどを誤飲した場合も、やはり無理に吐かせることはせず、少量であれば注意して様子を見ます。が、子どもの様子に異変を感じたり、心配だったりする場合は、診療時間内にすみやかに受診してください。

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①「こども医療電話相談」
連絡先
■#8000
※全国同一の短縮番号(#8000)をプッシュすることにより,お住まいの都道府県の相談窓口に
 自動転送されます。

②「中毒110番・電話サービスの利用方法(一般専用)」
連絡先
■大阪中毒110番(365日 24時間対応) 072-727-2499(情報提供料:無料)
■つくば中毒110番(365日 9時〜 21時対応) 029-852-9999(情報提供料:無料)
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子どもが誤嚥しやすいもの

 食品はふつう食道を通って胃に送られますが、なんらかの原因で食べ物がのどにひっかかったり、呼吸のための空気の通り道である気管に詰まったりすると、一刻を争う窒息事故へとつながってしまいます。
 誤嚥には、食品側に要因がある場合と、食べる人間側に要因がある場合と、さらにその両方が合わさって起こる場合があります。

〈食品側の問題〜誤嚥による窒息事故を起こしやすい食品〜〉
●丸くてつるっとしている…飴、ブドウ、ミニトマト、さくらんぼ、ビーナッツ、球形の個装チーズ、
 うずらの卵、こんにゃく、ソーセージ、ラムネ(お菓子)、白玉団子など
●粘着性が高く、唾液を吸収して飲み込みづらい…もち、ごはん、パンなど
●固くて嚙み切りにくい…リンゴ、イカ、肉類、生のニンジン、棒状のセロリなど
※3歳児の口の大きさは直径約4㎝。それより小さいものは、口に入ってしまいます。
 食品が大きいから口には入らないだろうと思い込むのは危険です。



〈人間側の問題〜危険な食べ方や食事のときの行動〜〉
●走り回って食べる
●何個も口に入れてしまう
●仰向けで食べる
●よくかまない
●水分をとらず、のどが潤っていない
●食事中に大人が子どもを驚かせるようなことをする
●年長の子どもが乳幼児に自分の食べているものを与える




〜子どもに起こりがちな誤嚥防止のためのポイント〜

 ★豆やナッツ類など、硬くてかみ砕く必要のある食品は5歳以下の子どもには食べさせないでください。
  喉頭や気管に詰まると窒息しやすく、大変危険です。小さく砕いた場合でも、気管に入りこんでしまうと
  肺炎や気管支炎になるリスクがあります。 
 ★節分の豆まきは個包装されたものを使用するなど工夫して行い、子どもが拾って口に入れないように、
  後片付けを徹底しましょう。 
 ★ミニトマトやブドウ等の球状の食品を丸ごと食べさせると、窒息するリスクがあります。乳幼児には、
  4分の1以下に切る、調理して軟らかくするなどして、よくかんで食べさせましょう。
 ★離乳食完了期までは、リンゴや梨はしっかりと加熱しましょう。果物類は固さや大きさによっては
  つまることがあるので注意が必要です。
 ★食べているときは、姿勢を良くし、食べることに集中させましょう。物を口に入れたままで、走ったり、
  笑ったり、泣いたり、声を出したりすると、誤って吸引し、誤嚥・窒息するリスクがあります。



もしものどや気道に食品が詰まってしまったら?

 誤飲・誤嚥によって窒息が引き起こされたときは、チョークサインといって、手でのどを押さえるような行動をとることがあります。急に顔色が悪くなる、よだれを垂らす、苦しそうな顔をするなどが見られ、声が出せなくなります。



 窒息状態になると、たった数分で呼吸が止まり、心停止してしまう可能性があります。すぐに 119 番、下記の応急処置を開始しましょう。救急隊が到着するまで応急処置を続けます。
 異物をとりのぞかないと、と思っても、口の奥まで無理に指を入れ込まないでください。口の中に見えるものは指で搔き出してあげたほうがいいですが、無理やり奥のものまで取りのぞこうとうすると危険です。

〈窒息の際の応急処置の方法〉

 1 歳未満の乳児の場合には、すぐに救護者が膝を曲げ(もしくは椅子に座り)、太ももの上に子どもをうつ伏せに抱きあげ、子どもの背中の肩甲骨の間のあたりを手のひらで 5~6 回強く叩いて詰まった食品を吐き出させます(背部叩打法)。または子どもを仰向けに寝かせ、心肺蘇生と同じように、片手で体を支えながら手のひらで後頭部をしっかり押さえ、心肺蘇生法と同じやり方で胸部を5~6 回圧迫します(胸部突き上げ法)。



 1 歳以上の子どもに対しては、腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)を行います。子どもの背中側から救護者の両手を回し、みぞおちの前で両手を組んで勢いよく両手を絞ってぎゅっと押すことを繰り返し、詰まっていた食品を吐き出させます。



※背部叩打法や腹部突き上げ法でも窒息が解除できない場合や意識がない場合には、子どもを仰向けに寝かせ、心肺蘇生と同じように、子どものみぞおちの部分を両手拳で上の方に押す方法を行います(胸部突き上げ法)。


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【参考資料】
・日本小児科学会 子どもが誤飲した時の応急処置

https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/sho_jiko_g_g.pdf
・日本小児科学会 こどもの生活環境改善委員会 2020.10.25
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20201030chissoku.pdf
・消費者庁サイト「Vol.569 パン等による子どもの窒息や誤嚥(ごえん)に気を付けましょう!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20211020/
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【塚田先生プロフィール】

塚田次郎(塚田こども医院 院長)
1981年自治医科大学卒業、同年医師国家試験合格。新潟市民病院にて臨床研修、新潟県立坂町病院小児科勤務を経て、1990年新潟県上越市栄町にて塚田こども医院を開設。日本小児科学会認定医。


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