累計10万部を突破し、全国の学校で絶賛された森達也さんの傑作『いのちの食べかた』が待望の角川つばさ文庫(児童文庫)になりました。
絵本作家のヨシタケシンスケさんが新たにカバーイラストや多数の挿絵を手がけ、発売直後からAmazon売れ筋ランキング 本 「戦争関連」部門、「ノンフィクション・伝記」部門で第1位*(2026年7月11日調べ)を獲得するなど、大きな話題を集め、即重版となっています。
「命・差別・戦争」というテーマに二人はどう向き合ったのか。ヨシタケさんのアトリエで行われた、本音の特別対談をお届けします。
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「子どもに本当のことを言う本が少ない」――ヨシタケさんが『いのちの食べかた』の絵を引き受けた理由
ヨシタケシンスケ(以下、ヨシタケ):この作品は単行本の頃から知っていて、読みたいと思っていたんです。今回お話いただいて読ませていただいて、すごく面白かったですね。
私は絵本を描くようになってまだ十数年しか経っていませんが、「子どもに本当のことをちゃんと伝える本」って、実はすごく少ないという印象を持っています。綺麗事(きれいごと)ばかりや、教科書的な言い方でしか教えてもらえないのは、子どもにとって不幸だな、と。
この本は、生き物がどうやってお肉になるのかという身近なところから、差別の問題、そして戦争の問題まで、つながっていないようで実はつながっていることを教えてくれます。大人が話したがらない「世界の本当の姿」を知ることができる。僕自身、子どものころに読んでおきたかったと思える本でした。だから、今回参加させていただけてとてもうれしかったですし、私なりの絵で、読む人を広げられたらうれしいなと思いました。森さんの話を聞いてみたいと思ったので、とても楽しみにしていました。
挿絵(さしえ)に描き文字(テキスト)をそえた「新たな視点」
ヨシタケ:難しいテーマだからこそ、挿絵を描いてみたいと思いました。文章がすでに大切なことをしっかり言ってくれているので、絵はあくまでサポートです。でも、「絵の形で何ができるだろう?」と考えてみたくなる本でしたね。
*ヨシタケさんの挿絵の一部を掲載
森達也(以下、森):編集の坂本さんからヨシタケさんのイラストのラフを見せてもらったとき、挿絵の中にヨシタケさん自身の「言葉(テキスト)」も書きそえられていて、気持ちをこめて描いてくれているなと、すごくうれしくなりました。
ヨシタケ:挿絵にテキストをつけるかどうかは僕も迷いました。でも、森さんが書かれている深い内容を絵だけで表現しようとすると、どうしても当たり障(さわ)りのない、ありがちな絵になりがちです。それでは僕が参加する意味がない。だから、言葉で絵を補佐(ほさ)しながら、本文の文章とはまた違う「もうひとつの視点や立場」を挿絵として描かせていただきました。
世の中は良いことばかりではないし、大人側の事情を子どもに伝えないのは誠意がないと思うんです。でも同時に、「悪いことばかりでもないんだよ」という両方を伝えないとずるい。この本は、その両方をていねいに書いてくれています。「いくらでも話を丸くおさめられるテーマなのに、どこまで書くべきか」と、森さんがたくさん迷われたのではないかということも伝わってきました。
伝えたい気持ちっていうのは、読む人が子どもであれ大人であれ、伝わる。だから、「この人は本当のことを言おうとしてくれている、信用できる人だ」という匂(にお)いが、多分感じるはずです。
編集担当・坂本真樹(以下、坂本):ヨシタケさんから届いたテキスト付きの挿絵を森さんにお見せしたとき、森さんからすぐに「僕と同じ意見です。このままで進めてください!」と言っていただいたのをよく覚えています。
森:そうそう。僕はむしろ、ヨシタケさんに「もっともっと文章付きの挿絵を描いてください」って坂本さんにリクエストしようと思ったくらいです(笑)。
ヨシタケ:それくらい、読んだら何かを言いたくなる本文だったということですね。動物がお肉になる話から始まって、「どうして戦争はなくならないの?」というテーマにまでつながっていく。子どもに絵本を描く身として、これまで、世の中の「戦争をどう語るのか」や「戦争の伝え方」に少し不満があったのですが、この本を読んで、一つのすっきりとした答えをもらった気がしました。
「みんな、同じ人間」――いじめや、差別について考える
ヨシタケ:今の日本にはいろんな国の人たちが来て、一緒に暮らすことが当たり前になってきていますよね。でも、これはここ最近の急激な変化なので、戸惑っている大人たちも多いと感じます。自分の少ない情報や、人から聞いた不確かな話だけで、外国にルーツを持つ人たちに対して偏(かたよ)った意見を言ってしまう人もいる。
だれかの情報を鵜呑(うの)みにするのではなく、「世の中にはいろんな考え方があって、立場によって見え方も違うんだ」ということを、子どもたちに知ってほしいです。それを分かった上で、自分はどう考えるかを決めた方が、きっと楽しく暮らせると思います。
森:僕は仕事柄(がら)、海外のいろんな都市、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリンなどに行きますが、街を歩けば本当にいろんな肌の色、言語、宗教を持った人たちが一緒に暮らしています。ワールドカップを見ていても分かりますよね。一つの国の中に、たくさんの民族がいるのが世界の当たり前です。けれど、成田空港に帰ってくるたびに、日本ではものすごく「みんな同じ」ように見えて、均質(きんしつ)だなと感じるんです。
その日本で、なぜか「外国にルーツを持つ人を排斥したい」という意見や考えが、今とても強くなっているのだとしたら、それは学校の「いじめ」の構造と同じだと思う。集団の中で少数の異物を見つけて排除(はいじょ)する。なぜならその瞬間に自分たちは多数派になれるから。人はこうして差別や排除の歴史を重ねている。
一歩外の世界に出れば、あるいはワールドカップを見るだけでも、日本との違いが実感できるはずです。肌の色や言葉が違っても、みんな同じ人間。話せば普通に笑うし、泣くし、怒る。僕たちと何も変わらないんだということを、本を通じて実感してほしいですね。
「大人が読んでいないのに、子どもが読むわけがない」――ヨシタケさんが提案する、図書室での意外な本選び
ヨシタケ:よく「どうすれば子どもが本を読んでくれますか?」という質問をいただくのですが、僕は「大人が読んでいないのに、子どもが読むわけがないじゃないですか」と思っています。でも、すぐには読まなくても、目の前に本があると読むかもしれない。家の中に本がある状態を作ってあげてほしいですね。
また、子どもが「図書館に行っても、何を選べばいいか分からない」と言うなら、大人がヒントの出し方を変えてみるのがおすすめです。例えば、「図書室の中で、自分が一番『読みたくない!』と思う本を3冊探してきて」と言ってみる。そうすると、子どもたちは面白がって喜んで探すはずです。その次に、「じゃあ、このタイトルなら、最初の3ページくらいなら読んであげてもいいかな、と思う本を選んでみて」と言うと、不思議と自分で選べるはずです。
大人はつい「勉強になる本を読みなさい」と言ってしまいがちですが、親や先生が勧める本は、子どもにとっては面白そうに見えない(笑)。
子どもの一番近くにいる大人として、勉強に役立つとか、ネットの評判以外に、子どもに本をすすめるセリフを、大人側も仕入れておきたいですね。
また、大人はつい、子どもがゲームやマンガばかりしていると、その「好きなもの」を否定してしまいがちです。そうではなく、「それ、何が面白いの? お父さん(お母さん)に面白さを解説してみて!」と聞いてみる。どんな子どもでも、自分の好きなものなら一生懸命語ることができる。そうやって自分を言葉にする練習を一緒に面白がってあげるのは、大切なことだと思います。
「答えを急がなくていい」──『まだ考え中です』と言える勇気を持とう。
森:以前に比べて、このごろはいつも急いでいる人が多くなっている気がする。本の後書きにこんな一文を書きました。「ゆっくり歩こう。いろいろ悩みながら。いろいろ考えながら。いろいろ眺めたり発見したり、ため息をついたりしながら。ならばきっと、あなたは気づくはずだ。
樹(き)は茶色じゃないし、葉は緑でもない、空は青でもないし、肌色も一色ではない。いろんな色が混ざっている。それが世界。だからとても豊かなのだと」
ヨシタケ:この本を読んで、「ゆっくり歩こう」という速度感が、すごく大事だなと思いました。今の子どもたちは、大人や社会からいつも「答え」を急がされているように感じます。
「お前はどっち派なんだ?」「どっちの味方なんだ?」「面白かったのか、つまらなかったのか」と、答えを求められるスピードがすごく早くなっている気がする。
そういう時に、子どもたちには「答えを保留(ほりゅう)する勇気」を持ってほしいなと思います。
「まだよく分かりません。自分の中で、いま考え中です」と言っていいんだよ、と。
大人だって、よく分かっていないことや決められていないことなんて山ほどあります。急いでどちらかの味方をしなくていい。ゆっくりといろんなものを見て、ゆっくりと考えて、少しずつ自分というものを作っていけばいい。「あせらなくて大丈夫だよ」ということを言いたいですね。
お二人から読者のみなさんへのメッセージ
森:世界にはいろんな差別がありますが、日本にも、日本特有の根深い差別が残っています。それをこの本でも取り上げています。僕は映像を作る人間なので、最初は映像で伝えたかったのですが、それが難しく、今回はこの「活字(本)」という形になりました。僕が感じたこと、体験したこと、思ったことを書きました。ぜひ読んでみてください。
ヨシタケ:この本は、単純に「知らないことがいっぱい書いてある面白い本」です。みんなが思っていた世界とは、ガラリと違う見え方が書いてあります。「へーっ! そうだったんだ!」っていう。
学校の先生や親が教えてくれない本当のことがたくさんつまっているので、まずは気軽に読んでみてほしいです。
そして、「なぜ自分は今までこの事実を知らなかったんだろう?」と考えてみてほしい。大人の社会には、大人が言いたがらない秘密が実はたくさんあります。でも、それをちゃんと教えてくれる大人もいることを、この本で知ってほしい。
普通にびっくりする内容がいっぱいあって、世界は広いって感じる。世界は広い、知らないことがいっぱいある、知ることは楽しいっていうことを知ることは、価値があると思います。
写真:野口彈 文:坂本真樹
【森達也さんヨシタケシンスケさんからメッセージ ショート動画】
【著者紹介】
森 達也:1956年、広島県呉市生まれ。映画監督。作家。テレビ・ディレクター。『福田村事件』で第47回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。著書に『職業欄はエスパー』『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『FAKEな日本』(角川文庫)など多数。
ヨシタケシンスケ:1973年、神奈川県生まれ。絵本作家。イラストレーター。『りんごかもしれない』で産経児童出版文化賞美術賞、『つまんない つまんない』の英語版『The Boring Book』でニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞受賞。著書に『あるかしら書店』『メメンとモリ』『そういうゲーム』など多数。
【書誌情報】
書名『いのちの食べかた だれも教えてくれない、世界のヒミツ』
作・森 達也
絵・ヨシタケシンスケ
発行:KADOKAWA 角川つばさ文庫
発売日:7月8日(水)発売
本体価格:880円(本体800円+税)
ページ数:176ページ
サイズ:新書判 天地173mm 左右112mm
対象年齢:小学校5年生くらいから
ISBN:9784046324191
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