発売記念インタビュー「松葉杖のような本になれたら」。ヨシタケシンスケ最新刊『そういうゲーム』に込めた想いとは。
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大人気絵本作家、ヨシタケシンスケ氏。今回は、初めての全編モノクロ絵本『そういうゲーム』の発売を記念して、新たな表現に挑んだ本書への思いやこだわりをヨシタケさんに伺いました。
自分自身に「人生はゲームみたいなもの」と言い聞かせていました
――全編モノクロ絵本『そういうゲーム』を作ることになった経緯を伺えますか?
「絵本を通して、日常の出来事をゲームのように考えるきっかけにしてもらえたら面白いのでは?」と思い付いたことがきっかけでした。実は、企画自体はだいぶ以前からあり、ストックしているアイデアの中でも、特に気に入っていたものだったんです。世の中の出来事を、ゲームの小さな勝ち負けぐらいの気持ちで日々過ごす方が、気楽に取り組めることも数多くあるのではと思ったんです。私自身が心配性だったり、不安が強かったり、物事を難しく考え過ぎるきらいが昔からあったため、その度に自分自身に「ゲームみたいなもの」と言い聞かせていました。人生には、思い通りにいくこともあれば、思い通りにならないことも数多くあります。そんな、自分や身近な人の経験と、想像の両方から得た場面を拾い集め、自分の中でネタのオーディションをしてこの絵本ができあがりました。
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――『そういうゲーム』のこだわったところや本書に込めた思いを教えてください。
各見開きページのテキストの最後に「そういうゲーム」というフレーズが必ず付くというのがルールになっています。まず日常の場面を“ゲーム”として捉え、そのネタをテキストの形で表現してから、その後で絵を付けました。ひと見開き1ゲームという単純な仕組みなので、読者を飽きさせないようにページの順番を決めていきました。たとえば、幼いころに誰もが経験したことあるような日常のひとコマと、一方で生き方や死に方というような大きいテーマの場面とをバランスよく配置できるように心がけました。また、勝ち負けの「勝ち」という文字はあえて全てひらがなで表記しました。漢字はメッセージが強くなりすぎることもあるためです。他人と競争しなくてもいいゲームもありますからね。
壮大なオチや起承転結はありません。それぞれの見開きがいろいろな人にとっての1シーンであるように、日常のくだらなさをフラットにして、同じ熱量で扱いました。それがこの本自体のメッセージになると思ったからです。物事がうまく運んでいない人にとって、捉え方の選択肢を増やせたらという思いを込めています。悩みをゲームに置き換えることで、松葉杖のようにその人の生き方をサポートできたらいいなと。
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途中で箸休めのページを作り、後半をまた読んでもらえる工夫を加えた。
絵を四角に囲う額縁の意味
――これまでのヨシタケさんの絵本は、色鮮やかさが特徴的でしたが、今回初めて絵を全てモノクロにした意図はどんなことですか?
絵本作家になって11年目というこのタイミングで、やっとモノクロの絵本を出せました。僕は、自分の思うことを言葉で記録してきたのですが、そのネタ帳に最も近い作品が今回の『そういうゲーム』です。また僕は色付けが苦手なので、普段はデザイナーに色を付けていただいています。今回は色を付けずに最後まで自分だけで作業したという意味でも、作っていて楽しかったですね。これまでより躊躇せずにもっと素を出せた感覚はあります。
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絵を四角に囲う縁は、カメラのファインダーのような効果を狙っているのと、絵がシンプルなので額縁のような意味があります。ただ、最初と最後の絵だけ縁を付けていません。日常の何気ない世界から始まり、また日常に戻るということを表したかったからです。この絵本を読んだときに、ゲームという言葉をポジティブな意味でいい加減に使えるようになってもらえたらいいなと思っています。
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――本のサイズにこだわったことは?
今回は大人向きの絵本であるので、大人へプレゼントする時に気軽に手渡しできるような小ぶりのサイズを選びました。鞄に入れてもかさばらない手軽さ、身軽さを大事にしています。ただあまり小さ過ぎると、書店で目立たないのでそのバランスは探りましたね。
――カバーイラストにはどんな意味がありますか?
僕はいつも人の全身を入れて描いていますが、今回もそのようにしています。というのも、人の気持ちは、しぐさやポーズに表れるからです。例えば背中の丸さで体調の悪さを表現することもできます。また定点観測のように「こういう人がいます」と俯瞰する視点で描きました。色や配置は、デザイナーさんから様々ご提案いただいて、適した形に落とし込みました。完全にモノクロにすることもできましたが、書店でパッと目立ってほしいので少し色を入れて、なおかつ地味さを損なわないバランス感覚でデザインしてもらったんです。
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この本をお弁当に例えると、白いご飯と子持ち昆布だけ(笑)
――ヨシタケシンスケさんのお気に入りはどのページですか?
手のひらの上に人形が乗っているページです。今はまだ、理想とする自分のあるべき姿にはなっていないとか、なかなか元気になれないとか、微妙な申し訳なさは誰しもあるような気がしています。それでも、自分で現状を心地のいいものに変えていく工夫ができないはずはないということを表しているんです。
例えば、人間関係で思った通りにいかない嫌なことがあったときに、外から見ると相手を許すふりをすることもできなくはないということです。
――絵本を作る上で大切にしていることはどんなことですか?
作品づくりは、お弁当箱に素材を詰めていく作業に似ています。洋風にしてみようとか、大人っぽくしてみようとか……。1個1個バラバラな素材をどうセレクトしていくかという感覚ですね。この『そういうゲーム』をお弁当に例えるなら、白いご飯と、具材は子持ち昆布だけみたいな(笑)。自分の好きなものだけを入れた感覚です。
この絵本は子どもたちにとっては、カラーではない分、少し難しいかもしれません。でも、そのよくわからないという気持ちも大切にしてほしいと思うのです。人生で2回、出会えるのも絵本の良いところ。大人に成長して謎が解ける頃に再び読むと、子どもの頃とはまた違う感想を持つことができるからです。
読者が子どもでも大人でも自分なりの“ゲーム”を思い付いたら、作り手としては成功なのかなと思いますね。
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取材・文 石井広子
撮影・澤木央子
【書籍情報】
作家プロフィール
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ヨシタケシンスケ
絵本作家、イラストレーター
1973年 神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。
日常の一コマを切り取ったスケッチ集や、装画、挿絵など、幅広く活動している。
MOE絵本屋さん大賞、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞など、受賞多数。