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絵本『せかいは すきで あふれてる』著者・大森裕子さんインタビュー「もっと絵がうまくなりたい」

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わすれていいから』で「MOE絵本屋さん大賞」「TSUTAYAえほん大賞」など数々の賞を受賞してきた大森裕子さん。新刊『せかいは すきで あふれてる』は、大森さん史上もっとも使った色鉛筆の色数が多い一冊だといいます。今回は『せかいは すきで あふれてる』のなかから大森さんに一枚の原画をピックアップしていただき、絵本づくりに対する情熱と、今なお抱き続ける創作にかけるひたむきな想いをうかがいました。

47色の色鉛筆で描いたクライマックスの「夕焼け」

 大森さんが『せかいは すきで あふれてる』の原画のなかから選んだのは、空一面が鮮やかに染まる「夕焼け」のシーン。グラデーションが美しいこの一枚は、47色の色鉛筆を使って描かれました。


美しい夕焼け。青、紫、グレー…。見れば見るほどいろいろな色が見えます。


「この夕焼けの絵は、一度すべての原画を描き終えたあと、もう一度描き直したものなんです。描き終わった直後の疲れたからだは寝たがっていましたが、小さな違和感をどうしても見逃せなくて。物語のクライマックスとなる大事な場面なので、最初に描いたときは知らず知らず緊張で力が入り、慎重になってしまって色鉛筆の乗りが重くなり、軽やかさがなくなっていました。視点の高さ(アイレベル)を変えて画面にさらに広がりを出したり、色のトーンを整理したり、力を抜きまくって色鉛筆を走らせたら、伸びやかな軽やかさが出せました。描き直しを終えたとき、心の底から『あのとき寝ないでよかった』と思いました(笑)」


スケッチを見ると、完成までの道のりがうかがえます。


圧倒的色数で描いた「男の子のこころの変化」

 今作『せかいは すきで あふれてる』は、大森さん史上「もっとも色数が多い」作品になったといいます。

「自分調べではありますが、『せかいは すきで あふれてる』は、これまでの作品のなかで圧倒的に色数が多い作品です。これまではホルベインの『アーチスト色鉛筆150色』をメインにして、補助的にフェリシモの『500色の色えんぴつ TOKYO SEED』も使っていましたが、『せかいは すきで あふれてる』ではフェリシモの『500色の色えんぴつ』もフル活用しました。微妙な彩度や明度の違いを表現したかったからです」


使った色鉛筆の一部。「描き切った、と思ったけど、やっぱりまだ手を入れたくなっちゃいます」と大森さん。


「たとえばフェンスや通学路の草の色は、くもり空の物語前半と、光が差し込む物語後半とで、あえて異なる色鉛筆を使っています。物語後半に彩度と明度を上げた色絵筆を使うことで、光が差しこんで明るくなっていく世界とリンクするように、男の子の気持ちが変化していく様子を表現したかったんです。地面を描くときも、これまではイエローベースのグレーや茶か、ブルーベースのグレーや茶か、というふうにどちらかで統一して描いていましたが、今作ではより複雑な表現をしたかったので両方使いました」

 絵本の制作過程には、テスト印刷した校正刷りを絵本作家が目視確認して色味の調整を行う「色校正」という作業があります。「意識を向ける先が変われば、世界が変わる」というテーマを伝えるため、入念なチェックが行われました。

「物語前半のくもっている場面はあえてメリハリがないトーンにし、光が差しこむ物語後半はきらきらと輝いた世界になっていく。その差が出るように意識しました。とくに物語後半は、光を表す黄色やオレンジがきれいに出るように、グラデーションにメリハリをつけてもらいました。私が感覚的に話したことを、デザイナーさんが的確に汲みとって修正を指示してくれて、とてもありがたかったです」





猫の目の色、毛の模様の濃さ、光の色などなど、2回の校正をほぼ7時間かけてチェック!

これまでの自分を超えて「もっとうまくなりたい」

 大森さんは過去の作品でも夕焼けのシーンを描いています。『せかいは すきで あふれてる』で夕焼けを描くにあたりその場面を見返して驚いたといいます。

「当時は全力を注ぎ、納得して世に送り出した大好きな作品であることには変わりないのですが、改めて見返してみて、言葉を選ばずにいえば『なんてしょぼいんだろう』と思ってしまったんです。でもそれは、自分が拾える情報量や表現の引き出しが増えたということだと思います。20代30代の若くて荒いけどみずみずしいパワーで押し切る、みたいな表現から、今はもっとこまやかで温かく、深みがあるけど軽やか、みたいな表現がしたいなあと思っています。とは言え、今回はありえないほどの短期間で原画を仕上げる必要があり、気づいたらペンだこに水膨れができていて、すべて描き終えた後に腰もやりました(笑)」

 そう笑う大森さんですが、チャレンジの裏側には、今なお続けるひたむきな努力と創作にかける熱い想いがあります。

「描けば描くほど、自分は絵が下手だなぁと思います。『わすれていいから』の制作後にもそう思い、今の画力では『せかいは すきで あふれてる』は描けないと思いました。それで動画サイトでアニメーターの方の描画動画を見たり、作画技術の本を読んで模写やデッサンをしたり、いろいろな資料を探したりして練習しました」

『せかいはすきであふれてる』の制作では入念な取材を行ったといいます。


入念な取材をもとに、何枚もスケッチを重ねてから下絵に入ります。


「男の子は、高校生になった次男にポーズをとってもらい、それを頭のなかで小学生のからだの大きさに補正して描きました。大学生の長男にポーズをとってもらい、服のシワの入り方を研究したことも。息子たちが通った小学校にも取材のお願いをして足を運び、教室の中などの写真を撮らせてもらいました。つい最近まで、資料を見なくても想像で描けるようになりたいなどと思っていたのですが、そんなの100年早かったわ、資料が充実しているほど絵も充実すると思うようになりました。表現したいことを表現するために、もっと絵がうまくなりたいです。かなり切実にそう思っています」


取材・文:三東社  撮影:澤木央子


【作家プロフィール】



大森 裕子

神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院在学中よりフリーランスで活動をはじめる。『おすしのずかん』『パンのずかん』『ねこのずかん』『いぬのずかん』などの「コドモエのずかん」シリーズ(白泉社)、『ぼく、あめふりお』(教育画劇)、『ちかてつ もぐらごう』(交通新聞社)など著作多数。『わすれていいから』で「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」第2位、「キノベス!キッズ2025」第3位など受賞。

 

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