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子育て・教育

【試し読み連載】『大人になってもできないことだらけです』 第3回 役に立っても、立たなくても

役に立たないことを大切にしてみる

 「こないだお酒飲んだ店で店員さんがムービー撮ってくれてて、ええこと言うたよな面白い話してたよな盛り上がったよなと思って酔いが覚めて見返したら、俺全然おもろいこと言ってないねん。シラフで見たら恥ずかしいくらい。けど、それもまたええよなって。あれは、ただ酒を飲んで、ただ楽しく笑うためのものやわ。ためになることなんかないけど、楽しくて笑えるだけで意味があんねん」
 この原稿を書いているときに電話した友人がそんな話をした。飲んだくれている自分を正当化するための戯言かもしれないけれど、ああそうだよなあと深く納得したのだ。なにかの役に立たなくてもいいよなあって。



 酒を飲む、甘いものを食う、漫画を読む、映画を観る、わけのわからないことを言って笑い合う。大好きな時間はほとんどがなんの役にも立たないことじゃないか。
 そうか、無駄でもいいと思えたらいいな。役に立つことばかりが大切なことではないよ、無駄でもいいじゃない、今ちゃんと満たされているんだからって。それは気休めではなく、大切なものを大切にするために必要なことなんじゃないかなと思う。
 育てなければ。うまくやらなければ。生活も子育てもハックしなければ。役に立つことを探して正解を探して間違えないように。そうやって必死になって、ハックどころか四苦八苦する。
 うまくやらなくていい。保育も子育ても、役に立つかは置いといて目の前の美味しいとか楽しいとかを見てみようって。本を読んで付箋を貼って学ぶのもいいけれど、今その文章をそのまんま楽しんでみよう。
 あとで思い出すために写真に残すのもいいけれど、今、肉眼で見て味わってみよう。子どもだけでなく親も保育者も、そんな風に日々を過ごせたら少し肩の荷が下りるんじゃないかなあって。
 一緒にお風呂に入ったり、美味しいものをニコニコと食べたり、寝顔を見てかわいいなと思ったり。それが、かけがえのないことなんだよねって、たまに振り返ることができたら。
それを楽しめるように周りのみんなが手伝っていけたらいいんじゃないかな。外食でもデリバリーでもいいから、一緒に食べるの美味しいねって。
 そうやって、「役に立たないんじゃないかな」「意味のないことなんじゃないかな」と思って焦る気持ちを、「大丈夫だ」と思えたらいいな。ただ笑いあった毎日は、なにかの役に立たなくてもきっと、 10年後を生きる力にはなっているだろうから。
 そして、僕たち保育者は、それを「実は、ほんとに大丈夫なんですよ」と専門的な知識からあと押ししていけたらと思う。「見えないところだけれど、こんな風に育ってますよ」って。

 

 人の役に立てると嬉しい。役に立つことで喜ばれると、もっと役に立てるようにと思う。そうやって誰かに褒めてもらうことも、自分は価値のあることをやっているんだと思えることも、誰かに求められることを求めるのも、悪いことではないよね。
 けれどたまに、役に立てないと価値がないのかな、と自分を追い詰めそうになったときには、あえて無駄なことをしてみよう。無駄なことをしているなあ、なにも役に立たないことしているなあ、けれどこの時間が充実していて好きなんだよなあと感じられたらいいな。



余談ですが

 関西人はバイキングに行くと「もととるでえ~」と言うイメージがあるらしい。なんという失礼で極端な偏見だろうか。関西人みんなが言うわけない。上品なほうの関西人に謝ってほしい。
 僕はどうかといえば、上品ではないほうなので言う。「もととるでえ~」って。父も言う。まあなんだ、「いただきます」の代わりみたいなものだ。ただ、その「もとをとる」とはなんなんだろうと考えたことがある。
 たくさん食べたり原価率の高いものを選んだりして「食事代のもと」を取ることだろうか。だいたいそう思われているけれど、実は違うよなあと思う。
 人間は食い溜めできないのだから、料金分のもとを取ろうとしてたらふく食べても一食は一食だ。必死に食べて腹を下したらむしろ損だ。
 じゃあバイキングの醍醐味ってなにかと言えば、非日常の空間で多くの種類の食べ物から「自分の食べたい物を好きな量だけ食べられる」ことだ。その気持ちと空間にお金を払っているのだ。
 だから、選ぶのうきうきするなあ、いろんな味があって美味しいなあ、って目の前のものを楽しめるのが一番贅沢なんだろうな。「せっかく来たのに同じものばかり」とか「もっと食べなきゃもったいない」とか考えなくていい。好きなものを好きなだけ、それがバイキングの秘訣や。知らんけど。
 そんなことを言いながら腹一杯になっても「せっかくやしもう1回」とお代わりしてしまうんやけどね。



第4回では、第1章:大人になってもできないことだらけでした「荷物をおろして余裕をもって」を公開いたします。(10月6日公開予定)

『大人になってもできないことだらけです』
全3章もくじ 公開




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1,430円(本体1,300円+税)
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A5判
ISBN
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