子どもがどうしてもゲームがやめられない……そんな悩みを抱えている親御さんも多いのではないでしょうか?
本連載では、子どものゲーム依存について、ネット・ゲーム依存専門心理師として、カウンセリングだけでなく講演活動も行っている森山沙耶さんにわかりやすく教えてもらいます。
前回はゲーム依存の症状やどこからが依存なのかについて説明しました。第4回はゲーム依存が疑われ、家庭内での解決が難しくなってしまった場合、どこに相談するのとよいのかについて解説していきたいと思います。また相談できる場所だけでなく、実際にはどのような治療や支援が行われているのかも紹介します。
ゲーム依存はケアやサポートが必要な状態
ゲーム依存のケースでは、日常生活を送る上で「うまくいかないこと」や「難しさ」を抱えている場合が多くあります。例えば、学習場面でのつまずき、集中して物事に取り組むことの難しさ、身の周りのことを順序立てて行うことが苦手、自分の気持ちをうまく表現できないなど、さまざまな困りごとが見られます。
本人なりに頑張っていても、失敗が続いたり、人間関係がうまくいかなかったりすると、「自分はダメだ」と自分を責め、自己評価が下がってしまうことがあります。また、そういった難しさが周囲から十分に理解されず、叱責や注意を受けることばかりが多くなると、さらに自信を持ちづらくなり、投げやりな気持ちにもなります。
そのようなとき、ゲームの中で、仲間に褒められたり、誰かの役に立つことができたり、何かを成し遂げる経験ができたりすると、現実で抱えているネガティブな感情が癒され、安心感や居心地の良さを感じられるようになります。
ですから、ゲームに依存すること自体を否定したり、無理に取り上げることはさらに本人を苦しめ、追い込むことになるかもしれません。ゲーム依存は適切な治療やサポートを受けることによって回復することもできる状態です。ここでは、子どものゲーム依存についてどこに相談できるのか、どのような治療が受けられるのかを紹介していきます。
診断や治療は医療機関へ
まずは専門の医療機関の受診を検討しましょう。依存症はうつ病などと同様に「心の病気」に分類されます。また、内科的な疾患や他の精神的な疾患が背景要因になっていたり、併せ持っている場合もあります。
例えば、ゲーム依存と発達障害の関連性については多くの研究で報告されています。中でもADHD(注意欠如多動症)との関連はよく知られています※(1)。ADHDは「不注意(注意を持続することが難しいなど)」や「多動-衝動性(じっとしていられない、思いつくと行動してしまうなど)」の特徴が同世代より強くみられ、日常生活に困難が生じている状態です。カウンセリングでもADHDの診断を受けているケースは比較的多くみられます。他にも、自閉症スペクトラム症やうつ病、起立性調節障害などを併せ持っていることがあります。このような場合には、それぞれの症状や特性に応じて薬物療法などの治療が行われることがあります。
ゲーム依存の治療では、薬物療法に加えて心理面、生活面の相談や心理療法(カウンセリング)を組み合わせるのが一般的です。症状が深刻で生活が大きく乱れている場合などには、医師の判断の元で入院治療が行われ、生活リズムを整えたり、入院中に心理療法やデイケアに参加してゲームとの付き合い方を学んでいくこともあります。
ただし、ネット・ゲーム依存を専門に診療できる医療機関は全国的にまだ少なく、予約を取るのに数ヶ月待つことも珍しくありません。児童精神科や小児科で診療しているところもあるので、地域のクリニックや病院も調べてみましょう。
子どもへの関わり方などを知りたい場合は相談機関の利用も
本人が医療機関の受診を拒否している場合や家族相談を行っていない場合、あるいは診療時間が短く、十分に話を聞いてもらうことが難しい場合などがあります。そのようなときに、保護者が悩みや困りごとをじっくり相談したい、家庭での対応について具体的なアドバイスがほしいという場合は相談機関への相談も検討してみてください。
【地域の相談機関】
各都道府県にある精神保健福祉センターや各地域の児童相談所、子ども家庭支援センターといった行政の窓口では、無料で相談することができます。ゲーム依存について専門的に対応できる職員がいない場合もありますが、子育てや子どもの生活面・心理面など幅広く相談できます。
また、学校のスクールカウンセラーや養護教諭に相談するのも良い方法です。学校や家庭での様子を共有しながら、学校での支援体制を整えてもらえる可能性もあります。
【民間のカウンセリング機関】
民間のカウンセリング機関でも、ネット・ゲーム依存を専門としているところがあります。私自身も、民間で個別カウンセリングを提供しています。
医療機関を受診しながら民間のカウンセリングを受けることもできます(この場合、医師の同意を得てから行っています)。まず心理カウンセリングを利用し、その後に医療機関の受診を検討することも可能です。ただし、民間の機関は医療ではないため保険適用外になり、自費での利用となります。
ゲーム依存の心理療法とは?
ネット・ゲーム依存の回復を支援する心理療法は、医療機関や相談機関で提供されています。臨床心理士や公認心理師、機関によっては医師や看護師といった専門職が対応します。
最近では、心理療法でも「エビデンスベースドプラクティス(Evidence-Based Practice; EBP)」の考え方が広まっています。EBPとは「対象者の特性や文化、好みを踏まえながら、最善の研究知見と臨床的な専門性を統合すること」※(2)を指します。
ゲーム依存は比較的新しい疾患であり、効果的な心理療法については研究の蓄積が必要ですが、現時点でも有効性が高いとされるアプローチが報告されています。相談機関を選ぶ際には、科学的根拠に基づいた心理療法を行っているかどうかも一つの目安になります。
ゲーム依存に有効とされる心理療法には、認知行動療法や家族療法があります。これらに、動機付け面接法などを複合的に組み合わせたアプローチも効果があるといわれています。認知行動療法はうつ病などの様々な心の病に対する有効性が証明された心理療法で、依存症にも用いられています。ストレス等で固まって狭くなった考えや行動を柔軟にし、自由に考え、行動することをサポートします。ゲーム依存では、ゲーム以外の気分を楽にする行動を増やしたり、現実の人間関係の改善を図ったりします。
また、家族に対してはCRAFTというアメリカ発祥の家族支援のアプローチを用いることがあります。これは依存対象のゲームよりも、健康的で本人が楽しいと感じられる活動を増やし、家族の関わりを通して新しいライフスタイルを見つけていく方法で、本人の治療への動機付けを高めることにもつながります。
家族と一緒に一歩ずつ焦らずに進んでいく
ゲーム依存について不安や心配に思う保護者の方も多いと思いますが、早期に気づき、必要な治療や支援を受けることで、改善が見込める場合は少なくありません。回復は一直線ではなく、行きつ戻りつしながらスモールステップで「安全にコントロールできるゲームとの付き合い方」を探っていく過程です。
また、一歩ずつ進んでいくためには、本人だけでなく、家族が相談したりサポートを受けたりすることも大切です。深刻な状態になってからではなく、少しでも不安や困り感があれば一歩踏み出してみてほしいと思います。
【引用文献】
(1)Koncz, P. et al. (2023). The emerging evidence on the association between symptoms of ADHD and gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Clinical Psychology Review, 106, 102343
(2)Levant R. (2005). Report of the 2005 Presidential Task Force on Evidence-Based Practice. https://www.apa.org/practice/resources/evidence/evidence-based-report.pdf
【プロフィール】
森山 沙耶
ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)所長
公認心理師、臨床心理士、社会福祉士
2012年、東京学芸大学大学院教育学研究科修了。家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。
2019年、ネット・ゲーム依存予防回復支援サービスMIRA-i(ミライ)を立ち上げ。当事者とその家族に対するカウンセリング、予防啓発のための講演、執筆活動を行う。
著書に『専門家が親に教える子どものネット・ゲーム依存問題解決ガイド』(2023年7月Gakkenより発売)
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