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「吃音が心配です。周囲のお友だちにからかわれたりしたらと思うと……」子どもの発達お悩み相談室


みなさまが、小学生以下のお子さまを育てていて、「うちの子ちょっと変わってる?」と思い、お子さまの発達などに関してご心配になっていること、お悩みになっていること、お気づきになったことなどについて、脳科学者の久保田競先生と、その弟子で児童発達研究者の原田妙子先生が児童の脳や発達の最新研究をもとに回答します。

Q2. 吃音が心配です。周囲のお友だちにからかわれたりしたらと思うと……

■家族構成
相談者:じぇふぎぶす(相談したい子の父、30代後半)、妻(30代後半)、長女(相談したい子、4歳)、次女(2歳)

■ご相談
 4歳の長女は赤ちゃんの頃から人見知りが激しく、大きくなってからも引っ込み思案で内弁慶。外で自分を表現することが苦手です。そんな子ですが、会話が発達してきた3歳頃より吃音の症状が見られます。一生懸命伝えようとすると最初の言葉がつまずきます。上記の通り、外では口数が少ない子なので吃音も目立たないのでは、と妻は楽観的です。ただそんな私も吃音に悩んで成長したということがあり……。吃音って遺伝するのでしょうか。

 また本人が気にしないように現状私たち親は、娘の吃音を指摘しておりません。長女が話せるまで聞くように心がけています。ただ周囲の友達にからかわれたりするのではと心配です。今後の付き合い方などをお聞きしたいです。

 

A. 専門家の回答

本人が気にしすぎないよう、おおらかに見守りましょう
 じぇふぎぶすさんご自身も、吃音に悩みながら成長された、とのこと。大変でしたね。

 吃音は、話し言葉がスラスラと出てこない発話障害の一つです。言葉を覚え始めて、2語文以上の複雑な発話をしだす頃に起こりやすく、2、3歳〜5歳くらいで発症することが多いです。幼児期に吃音になる確率は全体の8%前後で、男女比を見ると、年齢にもよりますが、3:1程度の比率で男の子に多い特性です。

 吃音を調べた脳研究では、“話すこと”に関連する脳領域は多くの場合左脳にあると言われていますが、吃音のある人の脳ではそれが右脳に見られるそうです。そして、吃音の訓練を受けると脳の活動領域が右から左へ変化するという報告もあります。はっきりとはわかっていませんが、脳の活動領域の違いが吃音の原因になっているのかもしれませんね。

 また、じぇふぎぶすさんのご質問にもありましたが、吃音の発症に関しては8割程度遺伝すると言われています。とはいえ、吃音の遺伝子を持って生まれたからと言って、必ずしも吃音を発症するわけではないこともわかっています。そして一度吃音が出ても、3年以内に女の子では8割、男の子では6割程度が自然に回復していきます。

 吃音があると、社交不安障害を発症するリスクが高くなることもわかっていますので、娘さん自身が気にしないように、「何を言ってもかまわないんだよ」という気持ちで接し、消えるのを待つのがいちばんです。4歳ぐらいのお子さんの場合、自分とお友達の話し方を比べるといったことをようやくしだしたかどうか、くらいの時期ですので、まだ、自分の症状に気づいていないことが多いです。ママさんのように、そもそも口数の少ない子だから吃音も目立たないわね、くらいのスタンスで、今の時期はおおらかに見守ってあげましょう。

 ただし、保育園や幼稚園の先生などには、早めにお話しされたほうがいいですね。周りのお子さんたちに急かされたり、からかわれたりしないように、娘さんがお話を始めたら、「ゆっくり待ってあげようね」とか、ちょっと別のことに他の子の注意を向けるとか、環境づくりをしてもらえるからです。

 とにかく本人が気にするまでは、今やっていらっしゃるように指摘せずリラックスして待ちましょう。娘さんも、言いたいのに言えなくてもどかしい思いをしているのかもしれません。「緊張しなくていいよ」といったプレッシャーになるような声がけもしないほうがいいでしょう。こちらが言葉を補ったり、推測して先回りして言うたたみかけもしないでください。

 クラスの中心にいるタイプではないかもしれませんが、それなりにのんびり待ってくれるお友達とうまくやれれば、大きな問題はありません。親御さんも心配しすぎないようにしてくださいね。

小学校入学の1年前を目安に、専門機関の受診を
 まずはそうやって環境を整え少し様子を見てください。それでもまだ吃音が消えず、悪化するようでしたら、就学を見すえて市の発達相談センターなどに相談されるとよいと思います。言語聴覚士や心理士がいるので、本人にあった適切な指導をしてくれるでしょう。治療には1年以上かかることが多いので、受診の決断は入学1年前が目安となります。

 現在、吃音は発達障害者支援法に含まれる発達障害の一つとなっています。また、他の発達障害と診断されるお子さんの中でも、吃音のある子が1〜2割います。

 いったん治ってよくなっても、また思春期に出たり、就職して緊張した場面で出たり、一生付き合っていく場合も中にはあります。じぇふぎぶすさんが経験者ということで、当事者の気持ちや、周りにどのように接して欲しいのか、ということもおわかりだと思うので、娘さんにはパパさんが心強い味方だと思います。

 IT化の進んだ現代、実際に言葉を発する会話だけがコミュニケーション手段というわけではありません。話すことが苦手でも、意思を伝える方法はいくらでもあります。あまりおしゃべりだけにこだわらず、文章を書くことやメールを打つこと、絵を描くことなど、いろいろなコミュニケーション手段を小さい頃から教えてあげるのもよいかもしれません。

 「自分を表現するのが苦手な子」だと思っていた娘さんは、実はお喋りが苦手なだけで、心の中にはとても豊かな世界を持っていて、自分に合った方法が見つかれば、どんどん表現してくれる日が来るかもしれませんよ!

「うちの子ちょっと変わってる?」子どもの発達お悩み相談室はこちら

 

久保田競先生
1932年大阪生まれ。
東京大学医学部卒業後、同大学院で脳神経生理学を学ぶ。米国留学で最先端の研究を身につけ、帰国後は京都大学霊長類研究所で教授・所長を歴任。
『バカはなおせる 脳を鍛える習慣、悪くする習慣』『天才脳を育てる3・4・5歳教育』『あなたの脳が9割変わる!超「朝活」法』等、脳に関する著書多数。

原田妙子先生
福岡大学体育学部修士課程卒業後、久保田競に師事し博士号取得。海外特別研究員としてフランス国立科学研究センター(College France CNRS)認知行動生理学研究室、パリ第六大学 脳イメージング・運動制御研究室を経て、現在は浜松医科大学 子どものこころの発達研究センターの助教。専門は子どもの脳機能発達。


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