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可能性を最大限に広げるのが「読書」! 【スペシャリストに聞く 子どもの頃の話を聞かせて!第6回】「Yondemy・笹沼颯太」


東大在学中に起業して、日本初のオンライン読書教育サービス「ヨンデミーオンライン」を立ち上げた株式会社Yondemy代表取締役の笹沼颯太さん。「いまの自分があるのは、本を読んでいたから」と話す笹沼さんの子どもの頃のお話や、本との付き合い方、読書教育にかける思いを聞きました。

【プロフィール】
笹沼颯太
株式会社Yondemy代表取締役。筑波大学附属駒場中・高等学校、東京大学経済学部経営学科卒業。筑駒時代からの友人とともに、東大3年次に株式会社Yondemyを設立。「日本中の子どもたちへ、豊かな読書体験を届ける」をミッションに、オンラインの読書教育サービス「ヨンデミーオンライン」を提供中。

 



 

友達と競い合うように読書した子ども時代。読んだ本は年間500冊!

 祖父母のことが大好きで、夏休みは祖父母と一緒に家族でキャンプに行くのが恒例でした。自然のなかで遊び慣れていない僕に、祖父は渓流釣りや焚き火のやり方などを手とり足とり教えてくれました。

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 「子どもがやりたいと言ったことはやらせてあげたい」というのが母の方針で、テニスや水泳、英語などの習い事をしていました。中学3年生まで続いたのが「ピアノ」。練習は嫌いでしたが、母から「練習しないなら、やめる?」といわれ、ピアノがやめたくなくて練習しました。今にして思えば、母は、子どものコントロールが相当うまいタイプでしたね。ピアノをやめたくないという僕の気持ちをわかったうえで、逆説的な声かけで、僕の口から「やる」という言葉を引き出していました。

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 じつは小学校中学年のとき、学校の先生とはあまり馬が合わなかったんです。「この問題、わかる人?」といわれて手を挙げても当てられず、授業が楽しくなかった。だから、授業中はずっと本を読んでいました。読書が好きになったきっかけは、『北極のムーシカミーシカ』。200ページ以上のボリュームのある本ですが、ストーリーをじっくり楽しめて、読み切れたことが自信になりました。『ハリーポッター』や『マジック・ツリーハウス』などのファンタジー系、人気の小説や物語など、学校の図書館にある本は片っ端から読んでいましたね。仲の良い友達も本が好きで、おもしろい本を見つけては、どちらが先に読了するか競い合いました。年間500冊ほどは読んでいたと思います。

 ピアノと勉強は、母にうまくのせられたところが大きいですね。母は、僕の学校での話をよく聞いたうえで、「好きなタイプの先生が多い学校がいいなら、中学受験をがんばってみたら?」と言いました。勉強する理由付けをしたうえで、がんばっているときは成績にかかわらず、ご褒美で甘やかしてくれた。総じて、母は僕のことをとてもよく観察していたと思います。暗記が苦手で、社会の成績はイマイチでしたが、母はそこには目をつぶり、勉強中に集中が途切れたら「ちょっとだけゲームする?」とよく休憩を提案されました。

  • 代替えテキスト

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初めての挫折と、起業につながる「失敗/成功体験」

 進学した筑波大学附属駒場中学は、自由闊達な校風で、僕の性格に合っていました。ただ、入学してあっという間に挫折を味わいました。算数とピアノは得意なつもりでしたが、筑駒では勉強ができるのは当たり前で、そのうえ数学オリンピック出場者も、ピアノのショパン国際コンクール受賞者もいる。勉強以外の「何か」がないと、自信が持てる場所が見つからないんです。

 多くの筑駒生が、こうした牙を折られる体験を一度はしています。だから筑駒では、「ずらして戦う」「掛け算で戦え」と代々伝えられています。1つの領域で100万分の1を目指すのは難しいけど、100分の1になれるもの3つを掛け合わせれば、100万分の1になれるというわけです。
 筑駒時代に大きな自信につながったのが、高校3年生の「文化祭」での体験です。筑駒は音楽祭・体育祭・文化祭の3つの行事に力を入れていて、とくに秋の文化祭は1年がかりで準備します。

  • こども時代8

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 僕は、舞台で出し物をする「ステージ班」で、「歌×お笑い」をテーマにしたプログラムのディレクターを担当しました。リーダー役を担うのが初めてで、僕の力不足もあって、1年近くかけて準備したものの、おもしろく仕上がらず、文化祭2週間前にすべて白紙にするという緊急事態になりました。そこからの立て直しは、大変でしたね。完成したプログラムの評判は上々でしたが、人を引っ張っていく難しさを知りました。準備期間をうまく活用できなかった「失敗体験」と、2週間でチーム一丸となって立て直した「成功体験」、どちらも経験することができ、のちの起業にもつながる大きな転機になりました。
 

いまの自分は、すべて『読書』で成り立っている

 ビジネスコンテストへの応募をきっかけに、東大3年次に筑駒時代の仲間と読書教育を広める会社を立ち上げました。「読書教育」を広めたい、「読書教育」を広めるのは自分たちしかいないと思ったからです。



 というのも、いまの自分は「読書」で成り立っていると思っているんです。大学受験に向けて通った塾は、英語書籍の読書を通じて英語を学ぶという「英語多読」の塾1つ。学習はすべて、通信教育と自主学習でやっていました。1人で問題集を解いて解説を読んで理解できたのは、読書を続けていたから。本を読むことが勉強につながっているという実感が、強くありました。

 子どもの読書離れの深刻さも、肌で感じていました。当時、家庭教師をしていましたが、どの家庭でも必ず保護者から「うちの子、本を読まなくて……」「学生のとき、どんな本を読んでいましたか?」と質問されました。これを東大の同級生に話すと、ほぼ全員が「聞かれたことがある!」と。それほど、多くの家庭が困っていたんです。

 とはいえ、「本を読むのが嫌い」という子は、それほど多くはない。「本を読むのは嫌じゃないけど、動画を見るほうが100倍好き」というのが子どもの言い分で、動画もゲームも漫画も、楽しいかどうかが判断基準なんです。
 そうであるなら、読書が楽しくないのは、楽しみ方を知らないだけ、いい本に出合っていないだけかもしれない。だからヨンデミーでは、子どもの読書レベルに合った選書を重視しています。僕たちスタッフが児童書などを1冊ずつ読んで、主人公の性格や本のジャンル、難易度など、およそ200項目を数値化したデータベースを作成。これをもとに、子ども一人ひとりの読書傾向やレベルに合うぴったりの一冊をおすすめしています。



↑子どもの読む力をヨンデミーオンラインのアプリ内で判定。AIが一人ひとりにマッチする本を選書する。

読書が得意になる、たったひとつの方法

 子どもが読書をするようになるコツをひとつ挙げるとすれば、「読書のハードルを下げること」です。児童書ではよく「小学○年生向け」という表記がありますが、これは本を読み慣れている子を想定したもので、実態とは大きく乖離しています。実際、ヨンデミーオンラインのデータによると、子どもの読む力は個人差が大きく、約8割の子どもは、およそ2学年分の読書力の差があることがわかっています。

 国内のほとんどの家庭では読み聞かせをしていて、本を読む準備は多くの子ができています。ただ、読み聞かせから1人読みに移行する段階で、本離れが起きる。だとしたら、難しい本を読ませようとがんばらせるのではなく、まずは読書のハードルを下げて、「これなら読める」「おもしろい」という経験をしてほしい。小学生のうちに「読書が得意」「本を読むのが好き」になれば、あとは自然とアドバンテージができていきます。



 グローバル化、プログラミング、生成AIと、子どもや社会に求められるスキルは目まぐるしく変化しています。そうした状況のなかで問われるのは、「本質的な言語能力」だと僕は考えています。そして、子どもの可能性を最大限に広げておくためにできることが「読書」です。大人になってどんなキャリアを選択しても、業務の大部分はドキュメントを読んだり、書いたりすること。専門的な仕事も、マネジメント職に就けば書類作業は必須でしょう。そんなとき、本があって読書さえできれば、やりたいことが実現しやすくなるはずです。僕もそうでした。



↑読書後は子どもがアンケート形式で本の感想を記入。感想はフィードバックされ、本ごとの数値化の見直しや次回の選書などに活用される。

 今後ヨンデミーでは、読むだけでなく、「書く」支援も始めようと思っています。そして、いずれは子どもたちから寄せられたたくさんの本の感想をもとに、子どもたちが読みたいと思う本づくりにもチャレンジしていきたいです。

取材・文 三東社

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