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実はもっと伝えたい婦人科の話【『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』】ためし読み

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「妊娠したかもしれない」「どうすればいいんだろう」。

妊娠・出産は人生のなかでも大きな出来事ですが、そのスタートには不安や戸惑いがつきものです。

 はじめてのことだからこそ、何を聞けばいいのかもわからない——そんな方のために、知っておきたい大切な知識を、現役の産婦人科専門医がやさしく、わかりやすくまとめたのがこの『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』です。

妊娠がわかったときにすることから、妊婦健診の流れ、出産の準備や赤ちゃんとの生活まで。
知っておくだけで安心できる情報が、イラストや図解とともにぎゅっと詰まっています。
自分のためにも、大切な赤ちゃんのためにも、まずは「知ること」からはじめてみませんか?

※本連載は『はじめてでもよくわかる 知っておきたい妊娠と出産安心BOOK』から一部抜粋して構成された記事です。


※これまでの連載はコチラから


◆ 不正出血は病気の前ぶれ?

 さて、ここからは婦人科関連の話も書いていきたいと思います。「妊娠・出産と関係ないじゃないか!」と思うかもしれませんが、それは大間違い! 婦人科疾患と妊娠・出産は関係が大アリなのです。

 初婚の平均年齢が上がるとともに初妊娠年齢もアップします。2023 年の平均初産年齢は29・5歳、特に大学病院だと妊婦さんの4割以上が高齢出産(※1)なんてことも珍しくありません。

 こうした妊娠の高齢化にともなって、無月経や子宮内膜症、子宮筋腫といった婦人科関連の病気を若い頃に放置してしまい、不妊症の原因になったり、妊娠時のリスクが増えたりするケースも多くなってきたのです。

 働く女性にとって仕事で忙しいうえに、「婦人科はちょっと近づきにくい……」という印象があるのか、若い頃は、少しくらい生理の異常や不正出血があっても「大丈夫だろう」と思って、病院にかからない人って多いですよね。 

 ところが不正出血は何らかの病気の前ぶれである可能性も! 場合によっては、「検査をしたら子宮にがんが見つかった」「●●の病気だった」といったケースも(脅かすようですが、医師としては伝えたい! )。なので、産婦人科医としては絶対に放置せずに病院にかかってほしいと思っています。

 婦人科に抵抗がある人に、あらかじめどんな検査をするかお話ししましょう。まず不正出血があることを伝えると、内診でがんを調べるための細胞診と経腟超音波でチェックします。この2つの検査によって、一番怖い病気であるがんだけでなく、子宮・卵巣に発症するほとんどの病気を調べることができるのです。2つの検査で異常がなければ、あとは生理の異常がないかの確認を行います。

 無月経の話については次のページに回しますが、細胞診・超音波・生理の状況、いずれも問題なければ、初めて「放っておいても大丈夫な不正出血」と判断できるのです。

「忙しいから~」と後回しにしたり、「よくあるからノープロブレムだわ」なんて簡単に考えて放置したらダメですよ。



 

 遠藤先生の伝えたいこと  



・不正出血は絶対に放置しないで! 

・放置して悪化すると、将来、妊娠・出産に影響が!




◆ 婦人科の病気と妊娠・出産の関係

 最近は初産年齢が上がってきたのにともなって、婦人科の疾患を合併した妊婦さんも増えてきました。ただ「疾患がある=妊娠・出産は無理」というわけではないのでご安心を。ここでは代表的なトラブルについて解説します。妊娠への影響や、妊娠中に注意が必要なものもあるので、チェックしてみてください。また、早い段階で婦人科系の疾患を発見できると、治療が容易になるケースも見受けられます。20代から発症することも多いので、20歳を過ぎたら1年に1回は健診を受けることをおすすめします。





 

 遠藤先生の伝えたいこと  



・婦人科系疾患があっても妊娠・出産できないわけではない

・疾患ごとに妊娠への影響や注意点が異なる




◆ H P V ワクチン積極的推奨の再開

 マザーキラーと呼ばれる病気をご存じですか?

 これは子宮頸がんの別名です。若い女性において、乳がんについで発症する可能性が高いがんで、ちょうど出産や子育ての時期に重なり、発見が遅れれば命を落としてしまうことからこんな不名誉な名前がつきました。子宮頸がんの怖さは、産婦人科医であれば誰しもが知るところです。

 マザーキラーの主な原因は、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」と呼ばれるもので、この発見は2008年のノーベル賞を受賞しています。あれだけ恐ろしい病気が、まさかウイルス感染が原因だったというのは驚きでしたが、この大きな発見を皮切りにさまざまな研究が進み、いろいろなことがわかってきました。何百種類もあるHPVのうち、少なくとも15種類が子宮頸がんの原因となりうること(ハイリスク型HPV と呼びます)。HPVは性交渉によって感染するのですが、感染力が大変強く、生涯で数名のパートナーとの性交渉経験があれば感染してしまうこと(つまり現状、日本では経験者の大半が感染している)。さらに、以前までは感染したとしてもおよそ9割は自然軽快すると考えられていたものの、実は自身の免疫の力によってウイルスの活動を一時的に抑えているだけということもわかってきました(一度感染すると、生涯にわたり子宮頸がんの発症リスクを背負う)。

 さて、これまでは子宮頸がんについては子宮がん検診による早期発見しか手立てがありませんでしたが、2006年にハイリスク型HPVのいくつかの種類の感染を予防するためのワクチンが開発されました。俗に言うHPVワクチンです。このワクチンの登場により、ハイリスク型HPVそのものを世界から減らすことで、マザーキラーを撲滅しようという試みが世界中で始まりました。

 特に積極的に取り組んだのがオーストラリアで、これまでに着実に実績を積み重ね、2028年には子宮頸がんが撲滅(10万人あたり4人以下の希少がんになる)と試算を出しています。WHOは、HPVワクチン接種率90%、さらにがん検診受診率70%を達成することで、子宮頸がんの撲滅が可能だとも明言しており、各国がこの目標に向けて動いています。

 しかしながら我が国では、完全におくれをとっているのが現状です。記憶にも新しい、メディアによる強烈なHPVワクチンバッシングによるものです。国が定めた定期接種から一度も外れたことがないにもかかわらず、2013年からは積極的推奨を控えるという不可思議な状況が、長らく続きました。学会からの度重なる要請もあり、2022年についに積極的推奨が再開され、各自治体から具体的にHPVワクチンの周知がされるようになりました。対象年齢やスケジュールなど、詳しくは厚生労働省のホームページなどでチェックしてみてください。

 一時期接種する人が極端に少なかったHPVワクチンですが、このところだいぶ接種数が増えてきました。しかしながら、まだまだ目標には程遠いのが現状です。いつか日本でも、「昔は子宮頸がんって病気があったんだよ。今はなくなったんだけどね」なんて話をしたいなと、心から願っています。

 遠藤先生の伝えたいこと  



・HPVワクチンの接種条件をチェックしよう

・できれば、性交渉経験前にHPVワクチンを打とう




大切な妊娠期~産後を、より安全に、より楽しんでほしい

妊娠・出産は、人生のなかでもかけがえのない一大イベントです。
うれしさと同時に、不安や疑問が押し寄せてくるのはごく自然なこと。
「これで合ってるのかな?」「こんなとき、どうしたらいい?」
診察時になかなか聞けない、相談できないこともあるでしょう。

また、妊娠・出産は女性だけが担うものではありません。
パートナーや家族も一緒に知識を持ち、支え合って新たな命を迎える時代です。
はじめての人にも、もう一度の人にも。この一冊が、みなさんにとって安心して出産の日を迎えるための心強い味方になりますように。

【書籍情報】


著者: 遠藤 周一郎

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
A5判
ISBN
9784046069177

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