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「子どもの近視について知る(後編)」~近視が進行しないよう親ができること~



 近年、子どもの近視は世界中で、特にアジアの先進諸国で増加傾向にあります。日本も例外ではありません。

 近視は眼鏡が必要になるというだけでなく、将来の白内障や緑内障などの目の病気リスクを高める可能性があります。そのため、「小児期の近視の発症と進行を防ぐことが大切」と、子どもの近視に詳しい東京都立広尾病院の五十嵐多恵先生は言います。

 子どもの近視は小さいうちに発症すればするほど、進行が早いということがわかっています。また、子どもは自分で近視に気づきにくい、気づいたとしても大人に知らせることが難しいもの。ですから子どもの近視を発見し進行させないためには、親のかかわりが重要なのです。

 子どもの近視についてのお話を全2回に分け、前編では近視にさせないための予防中心に、後編ではなってしまった近視の進行をどう抑制するかの治療を中心に、五十嵐先生にうかがいました。

【プロフィール】
五十嵐多恵(いがらし たえ) 

現職:東京都立病院機構広尾病院眼科医長 / 東京医科歯科大学眼科非常勤講師 

2004年、金沢大学医学部卒業後、卒後臨床研究を経て眼科に入局。転居に伴い、2009年東京医科歯科大学眼科入局。以後、成人以降の強度近視による眼合併症を専門に診療と研究活動を行う。2018年、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科病院に網膜フェローとして留学し、2021年、東京医科歯科大学眼科医学部内講師 (キャリアアップ) となる。2018年に、同大学眼科の先端近視センターの設立に伴い、小児期からの近視予防の重要性の啓発活動に力を入れ、近視抑制治療を提供する近視治療外来を新たに立ち上げる。





子どもが近視になってしまったら眼鏡が必要?



  
 一度近視を発症してしまうと、元通りに戻すということができません。近視は体の成長とともに進むため、一般的に10代後半まで進行し続けるとされています。もちろん20歳を超えても、目の使用状況によっては近視は進行します。

 近視の治療には、眼鏡やコンタクトレンズで視力を矯正するのが一般的です。しかし、子どもの場合には年齢や状況を考慮する必要があります。

 近視の場合は近くは見えるので、日常生活に支障がなければ即眼鏡が必要というわけではありません。小さなお子さんには眼鏡をかけさせることが難しい場合もあります。

 小学校に上がってからは、黒板の字が見えにくいなど実際の不便が出てくることがあるので、必要に応じて眼鏡を作って使用すべきでしょう。放っておいて近視が進んでからでは、初めてかける眼鏡の度数が強すぎると感じてしまい、適切な度数の眼鏡で、処方を開始できないことがあります。

 この場合は慣れるまで弱い度数の眼鏡をかけることになり、黒板の字が見えないなどの不便が解消されないこともありますし、作り替えも必要になります。軽度の近視でも眼鏡をときどき使うことで慣れておくといいでしょう。

近視進行抑制治療の選択肢は

 近視治療の選択肢は眼鏡で近視を矯正するだけではありません。日本ではまだ研究段階で利用できない治療もありますが、海外では多くの近視進行抑制治療の選択肢があり、効果を上げている治療もあります。

 ただ、それらの治療法は日本ではいまだ承認されておらず、自由診療という形での治療となっているのが現状です。それをふまえた上で、治療の選択肢として検討していただければと思います。

 子どもの年齢や特性に合わせた治療を選べるように、まずは治療の選択肢と実情を知って、できるだけ近視を専門とした眼科で相談してみてはいかがでしょうか。

 以下、現在自由診療で受けられる日本での治療をご紹介します。

1 低濃度アトロピン点眼

 眼鏡やコンタクトが難しいお子さんが試しやすいものとしては、近視進行抑制のための目薬(アトロピン点眼)があります。

 副作用の点から治療への使用が控えられていましたが、低濃度にまで薄めたアトロピンであれば副作用が問題にならないということがわかってからは、近視抑制に効果がある治療として注目されています。



特徴

  • 毎日点眼することで近視の進行を抑制する効果がある
  • 0.01%、0.025%、0.05%の低濃度アトロピン点眼が日本でも自由診療で処方されている
  • 他の近視進行抑制治療法と併用もおすすめ

2 オルソケラトロジー(角膜矯正レンズ)

 角膜矯正用の特殊なハードコンタクトレンズをつけて、近視の進行を抑制します。

 夜寝ている間に装着することで角膜を物理的に圧迫し、近視を矯正しますが、同時に近視の進行を抑える役割も果たします。長期の成績と安全性が確認されていますが、使用については専門医による慎重な処方と管理が必要です。



特徴

  • 夜寝ているあいだに装着して、朝にはレンズを外してもしばらく形状が維持されるので日中は裸眼で過ごせる
  • ハードタイプのレンズが基本で、装着にはそれなりの習熟が必要
  • 低濃度アトロピン点眼と併用で相加効果があることが報告されている

3 多焦点ソフトコンタクトレンズ

 もともとは老眼矯正のための遠近両用コンタクトレンズですが、海外ではすでに子どもの近視進行抑制として使用されています。

 日中に装着するため、ゴミが入ったときなどに自分で取り外しができることが条件なので、小学校高学年以上など比較的高い年齢の子どもへの使用が適しています。また、適切なフィッティングや定期的な眼科での診察が必要です。



特徴

  • ハードコンタクトレンズを装着するオルソケラトロジーと比べると、刺激が少ないことから装着しやすい
  • 日中の装着、着脱の取り扱いが必要なので、低年齢では使えない
  • 海外で販売されている商品は効果的で人気が高いが、日本では使用できる製品が限られている

4 光治療(レッドライト)

 低レベル赤色光の光を照射することで、近視の進行を抑制します。

 現在のところレッドライトが効果的とされていますが、日本ではまだ研究段階で安全性など未知の部分が多く、今後が期待される治療法です。

特徴

  • 自宅で1回3分、1日2回、専用の装置を使って赤色光をのぞき込むのみなので子どもへの負担が少ない
  • 正しい治療法を75%以上守って行った場合、近視進行抑制効果は9割近いという報告もある
  • 光を照射する安全性が長期的に確保されていないため、慎重な使用が望ましい


子どもの目 健康コラム  
~ 一番オススメの治療法が日本ではできない!? ~

 眼科医として、現在個人的に一番いいと思っている近視進行抑制治療は「近視進行を抑制してくれる眼鏡」です。   

 これは、オルソケラトロジーや、多焦点ソフトコンタクトレンズと同じく、近視を矯正しつつ、進行も抑制できてしまうというすぐれものなのですが、残念ながらここでご紹介することができません。日本ではまだこの近視抑制の眼鏡の使用が承認されていないのです。  

 すでに海外ではこの眼鏡を3~4種類の商品の中から選べますし、先述したようなさまざまな選択肢が豊富にあります。いろんな選択肢の中で、そのときお子さんがどうしたいかで決められるという意味では理想的な状況です。  

 眼鏡をオススメする理由としては、なんといってもその手軽さと安全性。乳幼児でなければ比較的どの年齢の子でもできますし、なんといっても他治療と比べてリスクも少なく、治療費も少なくすみそうなのがメリットです。この眼鏡は日本以外の国、アジアでは韓国、中国、シンガポールなど多くの国では購入できるようになっています。  

 最近では、早いと5歳ぐらいから近視になってしまうことが多くなっています。低年齢であるほど近視の進行が速いので、じゃあ1本眼鏡を作っておこうというときに、その眼鏡をかけておけば進行も止まるというのは保護者にとっても負担が少ないはず。低濃度アトロピン点眼との併用で相加効果があることも報告されているので、負担の少ないこれらの治療はおすすめです。  

 そういう意味でもコスト面で優れ、定期的な交換で視力維持が可能な近視進行抑制眼鏡が一日も早く日本の子どもたちに使えるようになってほしいと思っています。    

 生活と環境を見直す



 
 近視が他の目の病気を招くリスクがあることがわかってきた昨今では、早期に発見して積極的に治療していくことが求められますが、保護者の方がすぐにできる一番の予防と対策は、生活と環境に問題がないか見直していただくことです。  

 子どもの視力は3歳までに急速に発達して、6歳ごろには1.0程度の視力を獲得します。その間にどのような環境でどのように目を使うか、それは子どもの目の一生にかかわる大事なポイントです。  

 外遊びの時間が作れているか、手元で見るもの(特にデジタルデバイス)を長時間見続けさせないようにしているか、動画の視聴に休憩を作っているか、寝る前に視聴させていないか、そういった基本的なことを振り返ってみてください。  

 特に動画などの視聴にルールを設けずにいると、小学校や中学校に上がって簡単にその生活スタイルを変えることが難しくなります。  

 ぜひ、お子さんと一緒に以下のような動画で楽しく学んで、目の健康を守ることをご家族で考えてみてください。

動画紹介) 
日本眼科医会の動画 『近視啓発動画 進む近視をなんとかしよう大作戦の巻』 
https://www.youtube.com/watch?v=eNz-U3VA3jM  
※このリンクをクリックすると、外部サイトへ移動します。

サイト紹介)
公益社団法人 日本眼科医会サイト 『子どもの目』
https://www.gankaikai.or.jp/children/index.html 
※このリンクをクリックすると、外部サイトへ移動します。


画像提供 : PIXTA

◆「子どもの近視について知る(前編)」 ~近視にさせないために親ができること~ の記事はこちら


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