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「子どもの歯の健康を守る【7歳以降 就学後編】」~知っておきたい口腔ケアの基本~


 近年、小さいころからの正しい口腔ケアが、その後一生のからだの健康に影響するという見方が浸透してきています。今や歯医者は「歯が痛くなったら行く」だけの場所ではなく、定期的な口腔ケアと治療を支える、おつきあいの長い場になっているといえるでしょう。

 生まれてから変化しつづけていく子どもの歯の健康を親はどのように守っていけばいいのか、【1~3歳 乳幼児編】【4~6歳 就学前編】【7歳以降 就学後編】の3回に分けて、子どもの歯を専門に診察・治療を行う、小児歯科専門医の坂部 潤先生にお話をうかがいました。

 今回は第3回の【7歳以降 就学後編】をお届けします。

◆第1回【1~3歳 乳幼児編】はこちら
◆第2回【4~6歳 就学前編】はこちら

プロフィール

坂部潤(さかべじゅん)
歯科医師、歯学博士(小児歯科学)、日本小児歯科学会認定小児歯科専門医、4児の父親、小児歯科専門医院「キッズデンタル」を目黒、成城、麻布、代々木上原、麹町にて運営〈www.kidsdental.info

 



7歳以降のお口のトラブルとケア

小学校入学時は、歯がところどころ欠けているお子さんがほとんどですよね。ちょうど子どもの歯が抜け始め、大人の歯が生えるのを待っているタイミングで、この時期は、歯の一生にとってはひとつの大きな節目です。
 この、一般的に永久歯が生え始める6~8歳頃は特に注意が必要です。乳歯で起きた問題は、生え変わりによって多少リセットできる部分もありますが、出てきた永久歯に問題を抱えてしまうと、一生の影響が出る可能性があります。そのためにも、仕上げみがきや口腔管理、歯科医師による健診をきちんと続けることが大切です。

 また、歯ならびの問題が少しずつ明確になる時期でもあります。

【発達状態による歯ならびのチェック】

7歳頃→前歯の生え変わり: 6歳から8歳頃に、上と下の前歯(中切歯と側切歯)が永久歯に生え変わります。この時期に、歯の大きさや隙間(または重なり)から問題が見つかることが多いです。

9~12歳頃→奥歯の生え変わり: 奥歯や犬歯の永久歯が生え始める時期です。この頃には歯列全体の形がさらに明確になり、歯ならびの問題や噛み合わせのズレがある場合は、それがはっきりしてきます。

歯の種類と番号



歯列矯正のタイミングは?

 3歳までは歯ならびが気になっても、すぐに歯列矯正をということにはなりません。ただし、反対咬合(受け口)や極端な噛み合わせの問題がある場合は早めの矯正が必要になる場合もあります。

 基本的には、前歯の永久歯が生えそろう時期(6~8歳頃)から矯正の必要性を歯科医が判断できるようになります。顎を広げるなどの早期矯正は骨がやわらかい時期の方が効果的です。6歳以降は永久歯が生え始め、特に前歯や奥歯が重要です。この時期に噛み合わせや歯並びの問題を発見し、必要であれば矯正治療を始めるのが効果的です。

 歯ならびが出来上がり始める最も重要な時期は 6歳~12歳ごろで、乳歯と永久歯が入れ替わる時期にあたります。「混合歯列期」と呼ばれるこの時期の特徴を知っておきましょう。

①顎の成長が活発な時期
この期間に顎の骨が大きく成長し、永久歯が正しい位置に並ぶためのスペースが形成されます。

②乳歯から永久歯への切り替え
乳歯が抜け、永久歯が生えるタイミングで正しい噛み合わせや歯並びが決まりやすくなります。

③癖が影響しやすい時期
指しゃぶり、口呼吸、舌癖などがある場合、歯ならびや噛み合わせに大きな影響を与えることがあります。

 小学校高学年を過ぎると顎の骨が硬くなってくるため、矯正期間が長引いたり矯正自体で治すことが難しくなる場合があります。
 早めに小児歯科や矯正歯科でチェックを受けることで、将来の矯正を軽減したり、回避できたりする可能性があります。



歯列矯正処置と手法の選択

 初期段階では噛むタイプの装置や取り外し可能なプレート型器具を使い、顎を広げたり歯の位置を調整したりする方法が主流です。一方、よく見かける固定式のワイヤー矯正は、永久歯の位置を調整するものなので、10歳以降に使用することが多いです。
 子どもの年齢や発達を考慮しつつ、永久歯が生えそろう前と後で段階的に治療を分ける「2段階矯正」が一般的です。すべての矯正を完了するには費用もそれなりにかかるので、早めに治療の必要性を認識できたほうが計画が立てやすいでしょう。

 また矯正は費用だけでなく、毎日器具を使わせることや子どもの協力が必要になるため、子ども本人にはもちろん場合によっては保護者にとっても精神的負担がかかることがあります。低学年では比較的保護者のコントロールがしやすいのですが、高学年以降では子ども自身のやる気がついてこないとどんどん後回しになってしまいます。 

 歯列矯正は美容的な側面だけでなく、健康や口腔機能改善も重要な目的です。特に、口の閉じ具合や舌の動きなどの習慣を整えることで、長期的な口腔の健康を維持することができるということを、保護者が認識しておきたいですね。



~お口ポカン、していませんか?~

 

 人間は呼吸を鼻でして、口は食べたり発声したりが主な役割なんですよね。何も必要がないのに口を開いている状態が続いているのは自然なことではありません。

 ところが、子どもたちをみていると、話を聞いているだけのときも口がぽかんと開いてしまっていることがあります。これが習慣になってしまうと、口腔衛生上、あまりよろしくありません。

 お口の中の機能のひとつに、唾液の抗菌作用というものがあります。口の中が唾液で常に洗い流され、さらに唾液そのものに免疫グロブリンAや免疫防御やラクトフェリンなどの抗菌抗ウイルス効果のある成分があり、バイ菌が増えにくいしくみになっています。

 が、口の中が乾燥しているとその機能がうまく働きません。

 つまりお口ぽかん、は見た目だけの問題ではないのです。それが歯ならびや顎の発達のせいであるとしたら? 口がうまく閉まらないことで虫歯になりやすく、感染症にかかりやすくなるとしたら? そういう側面からもこの「お口ぽかん」を考えてみたいですね。




受け口と出っ歯の治療

 気にする保護者の方も多く、子どものうちに早めの矯正を考えたほうがいいのがいわゆる受け口と出っ歯です。
 この2つについて早期治療が重要な理由としては、成長期の骨が柔軟で、骨格的な問題を改善しやすいためです。早めに対処することで、将来的な外科手術の必要性を減らせる可能性があります。受け口や出っ歯の原因として、「口呼吸」や「舌の癖」が関与していることもあります。これらを改善するために、口腔筋機能療法(MFT)を併用する場合があります。矯正治療は高額になりがちですが、受け口は健康保険が適用されるケースもあります(成長期以降で顎変形症などの明確な診断を受けた場合に限る)。

【受け口(反対咬合)】

治療のタイミング
 受け口は骨格や顎の成長に影響を与える場合が多いので、早めの治療が推奨されます。3~6歳頃から開始可能で、特に骨格性の問題がある場合は、この時期に矯正装置を使って顎の位置を調整します。また成長期(思春期)以降には、矯正だけではなく外科手術を伴う場合があります。

主な治療法
・マウスピース型矯正(早期対応)
顎の成長を誘導して正常な咬み合わせを目指す装置を使用
・固定式装置
骨の成長を制御しながら歯並びや顎の形を調整
・外科矯正(成人以降)
骨格の問題が成長後に残っている場合は、外科手術が必要になることも

【出っ歯(上顎前突)】

治療のタイミング
 軽度の場合は7~12歳頃の混合歯列期(乳歯と永久歯が混ざる時期)に治療を始めることが一般的です。重度の場合は6歳頃から治療を検討することもあります。成人以降も矯正可能ですが、抜歯や外科手術が必要になる場合があります。

主な治療法
・拡大床(顎を広げる装置)
出っ歯の原因が顎の狭さである場合、装置で顎を広げて歯が収まりやすくする
・ヘッドギアやインビザライン
歯の位置を調整したり、上下の顎のバランスを調整したりする装置を使う
・固定式矯正(ブラケット装置)
永久歯が生えそろっている場合、歯列を整えるためのワイヤー矯正を行う

【正常咬合】



【反対咬合】



【上顎前突】



 子どもの歯の健康管理は、将来の発音や咀嚼(そしゃく)、さらには顔のバランスにも影響します。
 日本全国で小児歯科専門医はまだ少ないのが現状ですが、早期発見と治療を行うためには、できるだけ小児歯科の診療を手厚くやっている歯科医院を選ぶことをおすすめします。
 保育園や幼稚園の歯科健診だけでは、どうしても詳細な診察ができません。そのためにもコミュニティや口コミを活用したり、親同士の情報交換や評価も参考にして、できるだけ信頼できるかかりつけ歯科医をもちましょう。
 小さな頃から積極的に、虫歯や歯の健康の話を親子でしてみてください。お子さんのお口の健康への理解が社会で深まっていくことを願っています。



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