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「子どもの近視について知る(前編)」~近視にさせないために親ができること~



 近年、日本を含む世界の先進諸国では子どもの近視は増加傾向にあります。
がしかし、有病率増加が著しかった日本以外のアジアの先進諸国(中国、台湾、シンガポールなど)では、約10年前から予防対策が政府主導で行われたことで、今ではその増加が食い止められています。  

 近視は眼鏡が必要になるというだけでなく、将来の白内障や緑内障などの目の病気リスクを高める可能性があります。そのため、「小児期の近視の発症と進行を防ぐことが大切」と、子どもの近視に詳しい東京都立広尾病院の五十嵐多恵先生は言います。  

 子どもの近視は小さいうちに発症すればするほど、進行が早いということがわかっています。また、子どもは自分で近視に気づきにくい、気づいたとしても大人に知らせることが難しいもの。ですから子どもの近視を発見し進行させないためには、親のかかわりが重要なのです。  

 子どもの近視についてのお話を全2回に分け、前編では近視にさせないための予防中心に、後編ではなってしまった近視の進行をどう食い止めるかの治療を中心に、五十嵐先生にうかがいました。

【プロフィール】
五十嵐多恵(いがらし たえ) 

現職:東京都立病院機構広尾病院眼科医長 / 東京医科歯科大学眼科非常勤講師 

2004年、金沢大学医学部卒業後、卒後臨床研究を経て眼科に入局。転居に伴い、2009年東京医科歯科大学眼科入局。以後、成人以降の強度近視による眼合併症を専門に診療と研究活動を行う。2018年、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科病院に網膜フェローとして留学し、2021年、東京医科歯科大学眼科医学部内講師 (キャリアアップ) となる。2018年に、同大学眼科の先端近視センターの設立に伴い、小児期からの近視予防の重要性の啓発活動に力を入れ、近視抑制治療を提供する近視治療外来を新たに立ち上げる。





子どもが近視になる原因




 近視には遺伝的要因と環境要因の二つが関係しています。遺伝的な要因では、両親もしくはどちらか1人の親に近視がある場合にリスクが高いとされています。が、最近では環境要因の大きさが問題になっています。   

 特に日本では、子どもが外で遊ぶ時間が減り、手元での遊びや作業が多くなったことで、子どもの視力の低下はこの40年間で増加の一途をたどっています。  

 文部科学省の2022年の学校保健統計調査では、裸眼視力1・0未満の割合は、小学生が37.8%(前年度36.87%)、中学生が61.23%(前年度60.66%)、高校生が71.56%(前年度70.81%)となっており、いずれも過去最高の比率となっています。  

 また、子どもの体はどんどん成長していく真っ只中にあり、それは目の発育についても同じです。そのぶん成長過程で近視を発症すると、年齢が低いほど悪化してしまうスピードが速いのです。

自然環境がなぜ目によいのか

 現在、中国、台湾、シンガポールなどの国や地域では、政府が屋外活動を推進して近視予防に実際に効果をあげています。屋外での遊びが視力に与える影響が、データによって証明されているのです。

 中国の最新の研究では、緑地率の高い学校では近視の発症や有症率が明らかに低いことがわかって話題になっています。

屋外活動が近視の発症を予防するとされる理由

  • 屋外光に含まれる光の波長によって、眼球の前後方向の長さを伸ばしすぎない信号が網膜内で働くため
  • 太陽の光の明るさは、室内光よりも照度が高く、網膜に適度な刺激を与えるため(眼球の前後方向の長さが伸びすぎてしまうことを防ぐ)
  • 屋外のほうが室内よりも遠くを見る機会が多く、それが目の調節の負担を改善するため
  • 空間周波数特性(景色に含まれる視覚情報の密集度を示す)が低めの自然の中では、眼球の前後方向の長さを伸ばしすぎない信号が網膜内で働くため


 特に都会では、放っておけば自然環境は減っていき、幼児期からの習い事などで屋外で過ごす時間も減っていく一方です。

 子どもが外で遊ぶ機会が減ることや、緑豊かな自然に触れる機会がなくなることが問題になるのは、心身の発達への影響はもちろんのことですが、視力へ直接的に影響を及ぼしているという面ももっと知られてほしいと思います。



子どものうちにできる近視予防策は?

その1 外遊びの習慣をつける




 屋外で安全に子どもたちが、伸び伸びと過ごすことができる環境や、緑の多い自然豊かな環境は、子どもの目にとって最適ですが、住む場所はそれだけで選ぶわけにいきませんよね。子どもが長い時間を過ごす校舎や公園の環境づくりや緑地化は、むしろ学校や地域が、今後改善していくべきことです。

 たとえお住まいの地域に良い屋外環境がなかったとしても、幼少期の家族旅行ではアウトドアを積極的に取り入れたり、屋外でできるスポーツを習ってみたり、できるだけ外で遊ぶ習慣をつけることは近視を防ぐためにはよいことです。  

 文部科学省(2024年)でも「学校の授業や休み時間以外では1日1時間半、休日では1日2時間は屋外で過ごすことが望ましい」としています

その2 近いところを見る時間を短くする




 現代の子どもたちは生まれたときから画像を見ることにさらされています。中でもスマホやタブレットなどのモバイルデバイスの視聴では、テレビやパソコンよりはるかに短い距離でスクリーンを見ることになります。

 3歳までの子どもの目は特に発育途中の未成熟な状態なため、両親の遺伝要因がないとしても、画面を近い距離で見続けることで発育に影響を及ぼす恐れがあります。

 就学前の子どもにスマホなどのデジタルデバイスを持たせないほうがいいのは、年齢が低いほど近視が進むスピードが速いことと、目からデバイスの距離を自分でコントロールするのが困難ということもあります。  

 就学後には、勉強や宿題で近いところを見る作業がぐんと増えることでしょう。近いところを見るときには、ぜひ以下の点に気をつけるようにさせてください。


  • 対象と目の距離を、30㎝以上離す
  • 30分に1回、20秒は遠くを見る
  • 背筋を伸ばし、姿勢を良くする
  • 手元を十分に明るくする

その3 健診を受ける




 今は3歳児健診で近視や遠視などが発見できる方法があります。  

 「スポットビジョンスクリーナー」という、まだ視力検査を受けることが難しい乳幼児の検査を行うことができる機器も導入されてきています。この機器で測定すれば、事前に目薬をさしたり大きな機械の前のレンズをのぞきこんだりという赤ちゃんのいやがる作業をせずにスクリーニング検査ができます。

 近視だけでなく遠視や乱視などの屈折異常や斜視などまでわかるすぐれものです。地域によって導入されているかが異なりますので、お住まいの保健所に確認してみるといいですね。

 3歳児健診に行けない場合は、眼科で子どもの屈折異常を含めた目の検査をしてもらえるところを探すといいでしょう。  

 就学後には毎年の健診で視力検査があります。一度発症した近視の視力は取り戻すことはできませんが、近視になりそうな段階の子どもには予防のための指導ができます。学校の健診で引っかかった場合は、そのまま放置せずに必ず眼科を受診してください。




 今や「どの子どももデジタルネイティブ」の時代ですが、これほどの低年齢からスクリーンを見続ける機会が増えたのは人類が経験したことのない状況ですから、子どもの目への影響も注意深く見ていく必要があります。  

 すでにデジタルデバイスは娯楽のためだけでなく、勉強やコミュニケーションに不可欠なツールとなっています。無理なくデジタルデバイスとのつきあいの距離をとれるように、近くばかりでなく遠くを見るということをバランスよく生活に取り入れることを心がけてみてください。  

 次回、後編では、近視になった場合にどうするか、眼鏡が必要になるタイミング、新しい近視治療の選択肢などについてお伝えします。

参考文献)
文部科学省(2024) 『目を守るために』
https://www.mext.go.jp/content/20240828-mxt_kenshoku-000037357_02.pdf
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画像提供 : PIXTA

◆「子どもの近視について知る(後編)」~近視が進行しないよう親ができること~ の記事はこちら


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