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小菅正夫先生とは50年来の親友! 絵本作家のあべ弘士先生が語る、2人の旭山動物園ドタバタ飼育係時代


『角川の集める図鑑GET! 動物』総監修の小菅正夫先生とは、25年間旭山動物園でともに働き、現在もご親交の深い絵本作家のあべ弘士先生に、2人の出会いや、動物園、絵本創作活動についておうかがいしました。あべ先生の『あらしのよるに』や『ゴリラにっき』、「ハリネズミのプルプル」シリーズなど、名作絵本はどこから来たのでしょう?

小菅正夫先生との出会いと2人の飼育係駆け出し時代


――GET!「動物」総監修の小菅正夫先生とは、20代のころから旭山動物園で一緒に働かれて、長いお付き合いと聞いております。小菅先生の第一印象は覚えていらっしゃいますか?

ごっつい野郎が来たなと思ったよ。学生服を着ていてね。北海道大学柔道部の主将だった。普通、獣医というと、なよなよとしたイメージの人が多いのだけれど、本当に獣医なのかと疑ったよね(笑)。でも当時の旭山動物園は、男社会で体育会系の職人気質。飼育係と獣医の垣根もないところだったから、彼はすぐに溶け込んでいたよ。
彼とは同い年で、誕生日も2日違いなんだ。小菅の方が生まれたのは早いのだけど、動物園に入ったのは私が1年先の先輩だから、私は「小菅」、小菅は「あべさん」と呼んでいたね。私が動物園を退職したころから、小菅も私を呼び捨てにするようになったけども。

――特に記憶に残っている小菅先生とのエピソードはありますか?

旭山動物園は今年で開園55周年になる。私が入ったのは5年目のとき。ちょうど札幌オリンピックがあった年の3月、すでに旭山動物園には7人の飼育の人間がいて、私は8人目として入園したんだ。小菅は9人目だね。
何しろ開園当時からいた7人の結束が固くて、私と小菅は素人扱いされたよ。でもそうすると、逆に闘志がわいてきてね、2人で一生懸命勉強して、負けるものかとがんばったんだ。彼とは私が動物園をやめるまでの25年間、365日、24時間一緒にいたと言っても過言ではないね。だからエピソードは山ほどある。

小菅が入園した年だったかな、シマウマのひづめがのびすぎて削ることになったんだ。ノミを大きくしたような道具で削るのだけど、麻酔をかけないでやるんだ。素手で捕まえなくてはいけない。小菅は柔道をやっていてたくましかったから、先輩たちが彼に「捕まえてみろ」と言ったんだよ。彼は正面からシマウマに挑んだのだけど、くるっと回ったシマウマに後ろあしで蹴り上げられちゃってね。あごが外れたんだ。でも自分でガッとあごを入れて、再チャレンジして捕まえてたけどね。だから今でも顔がゆがんでいるでしょう。若いころの小菅は力強くて血気盛ん、正義感が強くてけんかっ早いところがあったね。

またあるときに、ジャコウネコが動物園に来た。小菅と2人でジャコウネコ舎を作ったんだ。旭山動物園は昔、果樹園だった土地だから、梨の木があって、それをベニヤ板と金網で囲って、舎にした。ジャコウネコは木に登るから、木の上で遊んだりして生活する様子が見られる。
あれは「行動展示」の始まりだったね。「行動展示」は、動物が持つもっとも特徴的な動きが発揮される、彼らが本来くらす場所に近づけた環境の中で生活してもらう。小菅が名付けて全国に広まっていったけれど、すでに私たちが20代半ばのときにやり始めていたんだろうね。そのときは動物たちがすみやすいような環境にしようと思って、やっていただけなんだけど。
残念ながらジャコウネコ舎は、「見た目が安普請でかっこわるいから壊せ」と当時の園長に言われ、くやしかったな。

――あべ先生が動物園で働かれていた中で、特に印象のある動物はいらっしゃいますか?

新人の頃に担当した動物には、思い入れがあるね。カワウソが、一番好きになったよ。今でこそ人気があって、全国の動物園で飼育しているけれど、当時はあまりいなかったんだ。コツメカワウソで、とても人懐っこかった。来た日から後ろについてきて、園内中を散歩したよ。呼ぶとチャッチャッチャッと鳴いてすりよってくる。「チャック」と名前を付けてね。檻がなかったから、ジャコウネコと同じように、小菅と2人、手作りでカワウソ舎を用意してね。とってもかわいかったよ。

――あべ先生は、たくさんの動物を主人公とする絵本を創作されていますが、やはり動物園での経験が役に立っているのでしょうか?

動物園でいろいろな動物と出会いつきあい、直に接したことで得たすべてが、絵本の原点になっているね。動物の身体を描くことにも、もちろん役に立っているし、彼らの生態や、物語にも動物園での経験が活きている。とてもすばらしい“縁”をもらいました。

――あべ先生の描く動物は、身体を大胆に崩して描いているように見えるものでも、安定感があって、動物の身体を知り尽くしている人が描いているようなという印象がありますよね。

絵描きの目で、彼らを見ていたんだと思う。動物園で働いていたときは、描こうと思ってスケッチをしたことはないなあ。見て、触って、餌つくって、うんこそうじして。死ぬと解剖にも立ち会う。だから間違った絵が、逆に描けなくなってしまったね。


作品には動物園や旅の経験が活かされています



動物園で動物の面白さを120%楽しむ観察法


――子どもたちに動物園に行ったとき、動物を見るときのポイントなどございましたら、教えていただけますでしょうか?

どんな動物でもよいから、一つの動物を最低1時間は見るといい。動物園に行くと、どうしてもたくさんの動物を見たくなって、ちょっとずつ次、次と移動してしまう人が多い。そうすると一つ一つの動物が記憶に残らず見たことにならない。
じーっと同じ動物を1時間かけて見てみると、とても面白いんだよ。
例えばキリン。彼らは一度飲み込んだ食べ物を口に戻してまたもぐもぐする。反芻をするんだね。キリンは首が長いから、おだんご型になった食べ物が食道を通ってコロコロ転がり、エレベーターのように上下に行き来するのが見えるんだ。その様子を見た人はみんな、「キャー!」と声を上げて驚くね。
ひとつの動物をじっくり見ると、そういった様子も観察できて、動物のすばらしさを感じることができる。動物園に行くときは、1日に見る動物は3種類くらいでいい。また次に来るときは違う動物を3種じっくり見てと、何度も足を運ぶのがおすすめだよ。

――あべ先生が理想とする動物園はどのようなものでしょうか?

理想の動物園の話は、若いころから毎日のように、小菅たち同僚と語り合ったね。「なんで動物を飼うのか」、「命とはなんぞや」と。

そして理想のひとつとして私たちは、地元の動物を集めた動物園を作りたいと思った。北海道の動物だけの動物園をね。日本でくらす動物はどうしてもどれも地味に見えてしまう。だからお客さんにも、飼育係にも興味を持たれにくい。
でも野山にたくさんいるノネズミを見てみると、すごく素敵なんだよ。そういうノネズミや、コウモリ、野鳥、北海道ならナキウサギやユキウサギ、エゾモモンガといった地元の動物を集める。そして彼らを調査、研究して、飼育、展示する。さらに保護して、繁殖して、野生復帰させるといったことができるとよいよね。地元の動物にきっちり責任を持つ動物園が理想だね。
そういう地元の動物への取り組みは、旭山動物園や、今小菅が行っている札幌市円山動物園も頑張ってやっている。私が動物園にいたときから、同じような意識を持っていた動物園もあって、交流もあった。近年意識しているところが次々出てきて、動物園も変わって来てるのを感じるね。

――動物をお好きになるきっかけは、ありましたでしょうか?

生まれ育った家のすぐそばに川や林があって、自然が身近にあったのが大きいね。旭川は少し足をのばせばリスがたくさんいて、それを追うクロテンやキツネも見られる。ハクチョウやカモ、オジロワシなど野鳥も。ヒグマもうろうろしている。
身近にあるそんな環境で育ったので、ごく当たりまえのように自然そのものに身を置いたんだろうね。
動物園も、自然に関わりがある仕事がないかと探し、たどり着いたんだ。

――ご自宅でも動物を飼われていたりするのですか?

ネコは人生で切らしたことがないくらい、大好きだよ。イヌも時々飼うんだけど、私はネコ派だね。ネコの全部が好きなんだ(笑)。べたべたしてくるくせに、自分勝手。世話をあまりしなくていいし。イヌは散歩とか、結構手間がかかる。ネコはほったらかしにしてもいい。そのくせ甘え上手なので、だまされてしまう。
毎日布団で一緒に寝てるんだ。旭川は寒いからね、湯たんぽ替わりにネコを抱っこして寝ると、あったかい。

図鑑GET!は子どもたちに世界を見せる、野生動物の良い入門書


――小菅正夫先生が総監修を務めた『角川の集める図鑑GET! 動物』について、おうかがいしたいのですが、最初にご覧いただいた際、どのような印象がありましたか?

本を開いていって、一緒に旅をしていると思ったね。世界中いろいろなところ、シベリア、北極、アマゾンと、辺境みたいなところを回ったけれど、それを彷彿としたね。現地に行って動物や自然を見ている感覚だったよ。図鑑は調べものに使うことが役目の一つかと思うのだけれど、この図鑑はまるで旅の案内書だね。


『角川の集める図鑑GET! 動物』では世界中の景色も見られます



――『角川の集める図鑑GET! 動物』のここが、動物好きな子どもに響くのではという点がありましたら、いただけますでしょうか?

動物図鑑は、例えばライオンなら、どれくらい大きくて、何を食べているかといった知識の話が中心だけど、彼らがどのような環境の場所でくらしているのかということはわかりづらい。GET!「動物」は、アフリカのサバンナに行ったら、こういう風景が見られて、そこにはこういった動物がいるというのがわかる。彼らの生き方、生活のイメージがわく。その世界に入っていける感じがするよね。そういう視点から、野生動物の良い入門書だ。動物を見たいというきっかけになり、動物園に行き、実際の野生動物に出会いに行く。子どもたちの自然の世界が広がるといいね。


サバンナにすむ動物が一度にわかります


あべ先生は現在学研プラスにて、「あべ弘士のシートン動物記」シリーズのハイイロリスの話を制作中とのこと。文章も原作を子ども向けに練り直して、たくさんの絵も描きおろし。旭川で身近にリスたちを見てきた経験が活きる作品になるとのことで、刊行が楽しみですね。今後は、これまでの旅の経験を活かした作品も手がけてみたいとのことで、これからのご活躍にますます目が離せません。

【あべ弘士さんプロフィール】



 

あべ弘士(あべ・ひろし)
1948年北海道旭川市生まれ。1972年から25年間、旭山動物園に飼育係として勤務し、多くの動物を担当する。1996年に旭山動物園を退職し、絵本作家としての活動に専念。『あらしのよるに』(きむらゆういち文・講談社)で、講談社出版文化賞絵本賞と産経児童出版文化賞JR賞を受賞。「ハリネズミのプルプル」シリーズ(文渓堂)で赤い鳥さし絵賞、『ゴリラにっき』(小学館)で小学館児童出版文化賞、『どうぶつゆうびん』(講談社)で産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞を受賞と、数多くの賞を獲得している。


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