テレビ東京系列6局ネットにて好評放映中の、0~2歳の赤ちゃんを対象とした民放初の乳幼児向け番組「シナぷしゅ」。メインキャラクター「ぷしゅぷしゅ」や仲間たちと一緒に、赤ちゃんとパパママが歌って踊って楽しめる番組として、2020年のレギュラー放送開始以来、子育て世代に絶大な人気を誇っています。
この番組を手掛けるのは、2児のママでもあるテレビ東京の飯田佳奈子プロデューサーです。ご自身の経験から、「シナぷしゅ」という番組を企画したという飯田さん。その原点や、番組を通して出会った子育て仲間でもある視聴者の皆さんとの関わりなどについて、話を聞きました。前編では、番組誕生のきっかけや、ファンの皆さんへの思いを語ってもらいました。
親がもっと堂々と赤ちゃんに見せられるコンテンツを作りたい!「シナぷしゅ」誕生秘話
――最初に、「シナぷしゅ」という番組が誕生するまでの経緯を教えてください。
飯田さん:
2018年の6月に、第一子を出産しました。初めての子育てで、少しずつ子育て支援センターのような、地域のママたちが集まるようなところに行くようになった時に、ママたちが声をひそめながら言い合っていたんです。「昨日、うちの子に一時間もテレビ見せちゃったの」「うちは一時間半見たから大丈夫だよ」。支援センターでは、自分の個人的な情報やパーソナリティにはあまり触れませんよね。だから、誰も私がテレビ局に勤めていることを知らない上で、「赤ちゃんにテレビをみせてしまった……」という、なんだか後ろめたさを感じているような会話が繰り広げられていて。「どうして子育てしてる人は、こんなにテレビをマイナスに感じているんだろう」と、ちょっと気になったんです。
その一方で、当時、YouTubeにはオフィシャルな乳幼児向けコンテンツがあまりなかったので、一般の方による手作り感満載な赤ちゃん向け動画が、数百万回と再生されていたんです。再生回数を見るにつけても、今の時代に映像コンテンツは、本当ならば育児の助けになるべきで、決してみんなが眉をひそめて話すような存在ではないんじゃないかって思ったんです。ただ、親として、自分の子どもにテレビを漫然と見せることはあんまりしたくないな、と思っちゃってる自分もいて。であれば、親がもっと堂々と赤ちゃんに見せることができるコンテンツがあったら便利なんじゃないかな、と考えて、育児休業から復職してすぐに企画書を出しました。
――当事者の目線から生まれたゆえに、かなりの説得力がある企画書だったと思いますが、上層部の方々の反応はいかがでしたか?
飯田さん:
正直、私が出した企画書は誰もピンと来ていなかったですよ。「よくわからない」「0~2歳児って、どれくらい?」みたいな感じで。
でも、テレビ東京のいいところは、「よくわかんないけど、他局がやってないから、とりあえずどんなものができるのか、1回やってみなさい」という社風があることで。それがテレビ東京らしい判断の仕方だったなと、今は思います。自分ごとで考えると、絶対に需要があるっていうのは分かってたんです。最初、トライアルで5日間放送するっていうリリースを出した時に、Yahoo!ニュースのトップ記事に上がって、コメント(以下、ヤフコメ)もすごい盛り上がったんですよね。「こういうのを待っていたんだ」と。需要があると思ってリリースしたけれど、想像を上回る反響があって、それがすごく嬉しかったです。
――制作現場のスタッフさんたちの意気込みはいかがでしたか?
飯田さん:
ヤフコメが盛り上がった時に、皆さんが「テレ東らしい番組を期待している」といったコメントをしてくださっていたんです。一般の視聴者の方って、なぜかテレビ東京にだけ、謎の「テレ東らしい」という漠然とした期待を持ってるじゃないですか(笑)。テレビ東京の中にいると、どんなものが「テレ東らしさ」なのか、「テレ東らしい乳幼児向け番組」に対して、どんな期待を寄せられているのか、全然わからなくて。でも、最初の立ち上げの時は、とにかく「自分の子どもがどんなものだったら目を輝かせるだろう」という、極めて狭いところで考えるようにしていました。それぞれのメンバーが「うちの子はこんなのが好き」「うちの子はこんなのが好きみたい」といった感じでアイデアを出しながら、企画を立てていきました。
今でもそうなのですが、雑談の中とか、日常の子どもとの遊びの中から、企画のヒントを見つけるようにしています。あとは、クリエイターさんたちとの会話の中で生まれる、ちょっとした「何か」もヒントになります。「なんか今のその言葉、面白かったよね」「じゃあ、歌にしてみようか」みたいな。そういう風に、日常の中にある遊び心を映像化している、という感じが、最近の「シナぷしゅ」では多いかなと思います。
「シナぷしゅ」は赤ちゃん向けの番組ですが、”赤ちゃん”って、実はすごく漠然とした言葉なんですよ。人によって”赤ちゃん”っていう言葉でイメージする年齢も違うんですよね。だから、意外と「赤ちゃんに向けて番組を作ろう」っていうと、結構難しいんですよね。もっとパーソナライズして、「電車好きの子どもにはこういうコンテンツがいいんじゃないか」とか、少しずつターゲットを絞っていくことでコンテンツが作りやすくなっていく感じがありますね。
――飯田さんは、YouTubeの「シナぷしゅch」の「パパママ応援!おとなぷしゅコンテンツ」にも積極的にご出演していますが、そのことが番組と視聴者の皆さんとの距離の近さを生んでいる気がします。
飯田さん:
そうですね。私もまだ子どもが小さくて、お出かけ先が小さい子どものいる場所なんです。そうすると、「シナぷしゅ」をご覧になってくださっている視聴者さんがたくさんいらして、声をかけていただくこともあります。でも、それはすごくいいことで。
番組を立ち上げた時に、視聴者の皆さんの安心感を作ることがすごく大事だと思っていたんです。その一つが、東京大学赤ちゃんラボの開(ひらき)一夫教授に監修についてもらうこと。視聴者の方にとっては「東大の先生のお墨付きがある」という安心材料になると思ったのと、同時に私が作り手でありながら顔を出して、自分の言葉でしゃべるというのも大切なことだと思ったんです。
私たちはマスメディアなので、作ったものが全国に発信されるじゃないですか。ただ、「「シナぷしゅ」のプロデューサーは、六本木のテレビ局勤務の二児の母」という情報だけが入ってきたとして、視聴者の方々からするとどうしても少し距離を感じてしまうのではないかと思いまして…。私が自分のライフスタイルも含め、ありのままの状態でメディアに出ることで、「飯田プロデューサーって、意外と普通の人だな」と感じてくださるんですよね。
一生懸命仕事して、普通に子育てで悩んで、愛情を持って番組を作ってるんだっていうのが伝わると、安心して番組を見てくださるだろうなっていう確信はあって。私自身も「シナぷしゅ」ファンの人たちから声をかけていただくことでモチベーションに繋がりますし、ファンの人たちも、自分の言葉が番組を作っている人に届くと、より高い熱量で見てくれる、参加してくれるっていう感じはあるなと思います。
――「顔が見える子ども番組」ですね。
飯田さん:
そうですね。キュウリとかも、笑顔の生産者さんの写真がパッケージに貼ってあると、「この生産者さんが作ったキュウリおいしそう」って思ったりするじゃないですか。作り手の顔が見えるというのは、今の時代だからこそいいんだろうなと思っています。
下の子がこの間、三歳になったんですよ。自分の子どもがどんどん年齢が上がって、「シナぷしゅ」世代じゃなくなっていきますよね。でもSNSを使って、「シナぷしゅ」ファンの人たちとコミュニケーションを取り続けることで、「シナぷしゅ」を見ている親御さんたちが何を感じているのかとか、どういうライフスタイルなのかっていうのを知ることができる。そこもすごくいいなと思っています。今後もファンの人たちとつながっていることで、目線をぶらさずに番組づくりしていけるな、という確信はあるので、引き続き皆さんとコミュニケーションしていきたいなと思っています。
番組、そしてファンの皆さんへの思いを語ってくださった飯田プロデューサー。
後編では、番組を飛び出した「ぷしゅぷしゅ」たちが大活躍するイベントや、11月27日発売の絵本「シナぷしゅのうごくえほん ぷしゅぷしゅぱっ」についてのお話をうかがいます。
ライター:中村実香